ソウル・キッチン #14
’09年、ドイツ、フランス、イタリア
原題:Soul kitchen
監督・プロデューサー:ファティ・アキン
脚本:ファティ・アキン、アダム・ボウスドウコス
プロデューサー:クラウス・メック
撮影:ライナー・クラウスマン
編集:アンドリュー・バード
アダム・ボウスドウコス : ジノス
モーリッツ・ブライブトロイ : イリアス
ビロル・ユーネル : シェイン
アンナ・ベデルケ : ルチア
ウド・キア : ヘル・ユング
フェリーヌ・ロッガン : ナディーン
とにかく見ている間ずっと幸せだった。リラックスして、最初から最後まで楽しめる作品。
前作の『そして、私たちは愛に帰る』から打って変わり、騒々しい愉快なオーラに包まれている本作。『太陽に恋して』や『愛より強く』のみずみずしさに近く、それよりもっとコメディ色の強い、これぞアキン流エンターテイメント!
この人の作品は、気のおけない友人と、楽しいひとときを過ごすみたい。退屈することは絶対なくて。「一番派手な友人がこれから楽しいことを繰り広げるから、みんな黙ってついて来い!」そんな感じ。
主人公のジノスの経営する「ソウル・キッチン」は、はじめは大して美味しくもなさそうな、ハンブルグのローカルなレストラン。ジノス自身は店を何より大事にしているものの、恋人のナディーンを追って香港に行こうと画策する。ところが悪徳不動産屋を経営する友人がこの場所に目をつけてしまったことから、ジノスにさらなる災難が振りかかっていく。
一つの地域にじっと留まって腰を落ち着け、人生に向きあう物語よりは、自分で物事を切り開いていくところがアキン的。旅が何かの起点となって、人生がこれまでと違う方向へ流れて行ったり、ドラマチックなターニングポイントを迎えたり。この作品では、主人公はレストランを経営している。つまり何かを所有し、根を張るべき場所を持っているのだ。ところが、何かを所有したからと言って、そのために保身に向かわない。ここがこの映画の魅力でもある。バンドの練習場所がないから、と店で音楽のリハーサルを始める友人たちは、そのままいつしか居ついてしまったり。ミシュランで5つ星をとったこともあるのに、強引な性格が災いしてレストランを追われてしまった天才シェフを迎えたり。保健所の衛生局が査察に入り、ステンレス製のキッチンにしなければいけなくなってようやく、売上が倍増したり。
”旅”でリフレッシュし人生を考える映画の多かったアキン監督が、今度は帰るべき場所について語っている、といった風情。自分のお気に入りの帰る場所、ソウル・フードのある、郷土。”自分の故郷”というべき場所。
主人公ジノスを演じたアダム・ボウスドウコスがなかなか素敵。デタラメだけどアツい人物を好演してる。緩やかに人を受け入れる彼の魅力が、そのままこの店の”出鱈目な”魅力でもある。でも自分にとっては何よりビロル・ユーネル!経営者よりずっと態度のデカいシェフ。どんな店に働いていても自己流を貫くところがカッコイイ、イカレぽんち(my母の用語で言えば)。何かと言うとナイフ投げしたりする。好み過ぎてヤバい。出てくるたびに何かやってくれそうで、笑みが勝手に止まらない自分が居たよ(爆)。あとまさかのウド・キア出演!知らなかったんですけど、と驚いた。あと、ルチア役のアンナ・ベデルケ、シュッとした美人さんで目を奪う。
もし、少し前の自分がこの作品を見ていたら、と考える。ここまで素敵に自分の心を打つと、他の肩凝りそうな作品が、全てくだらなく思えていたかも。もしくは、私が忙しいビジネスマンだとしたら、この人の作品以外は見なくていいや!って思っていたに違いない。そんな風に相性のいい作品だった。クラブで遊んだり、飲んで騒 いだりするのが好きだった昔の自分を思い出しながら、少し年を経てしまった自分に、寂しい気持ちも起きたりして。
ファティ・アキンのインタビュー@ドイツ文化センターを読むと、アキンにとっても、クラブや音楽が好きだった自分の、そうしたライフスタイルとの別れにこの作品がなるだろう、とのこと。私ももう以前みたいに、毎日がお祭り!みたいな気持ちにはなれなくなってる。まあそれを端的に言うと「大人になった」と言うのかもしれませんが(笑)
※ストーリー・・・
冴えないレストランのオーナー、ジノス。私生活も災難続きのジノスだったが、ひょんなことから天才シェフを雇うことになり、彼のおかげで店は連日大盛況! ところがレストランの土地を狙う不動産屋が現れ、店が乗っ取られるかもしれないという危機に陥る・・・
2011/02/15 | :ヒューマンドラマ
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コメント(19件)
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ジノスの人はいいけど・・・なキャラ、兄貴の憎めないけど・・・なキャラ、シェフのそのこだわりは尊敬しちゃうけど・・・なキャラ。
そのキャラもはっきりと目立つウィークポイントがあることが魅力的で、とても楽しめました。
群を抜いて、ビロルが可愛らしくて良かったんですけど(笑)
>もし、少し前の自分がこの作品を見ていたら、と考える。
見るタイミング(時期)って、作品に対する印象・感想に対する影響が結構大きいですよね。
哀生龍さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうなんですよね!皆完璧でなくて、そこが良いのですよね。
このオーナー、ジノスのゆるさが、ソウル・キッチンというレストランの居心地の良さでもあったなあ、と思ったりもします。
ああ、好きな世界でした。私もここで働いてもいいな♪
ビロル・ユーネル最高でしたよね!
飼いならされない狼っていうか、狂犬みたいなキャラが
どうしてこう似合うのでしょう(笑)
>見るタイミング(時期)って、作品に対する印象・感想に対する影響が結構大きいですよね
そうですね。もう少し昔だったらもっと共感出来たのになあ、と。
たぶん、今後のアキン監督の作品の方が自分に合うんだろうな、とも思います。
あそうそう、哀生龍さんは『そして、私たちは愛に帰る』を見ていないんですね。
とらねこさん、こんにちは。
がっつり丸ごと楽しんでもらえて何より。
うん、ホントにファティ・アキンっていいよね。素晴らしいよね。
いつもへらへらコメディ主義というんじゃなく、シビアに社会を、人間を見つめる視線をもっていながら、とことん軽快に愉快にも人間たちを描けるところがホントにカッコイイ。
ビロル・ユーネルは今回も魅せてくれたしー。
ファティ・アキンの鼓動・躍動にメロメロ。
私も明日あたりしんゆりで再見するかもー
かえるさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
ファティ・アキン流コメディ良かったですよね!
コメディ(喜劇)のジャンルは本来、ハリウッド式コメディや、ただフザケたジョークを言うためだけのものではないですもんね。
人間本来のおかしみであったり、心の通い合っている様を、互いに確認するものであったり。
『太陽に恋して』や『愛より強く』を思い出すものだったところが良かったですよね〜。
ビロル・ユーネルは本当にいつも狂っててステキなオヤジですよね。
新百合ヶ丘のワーナーってこの作品もかけるんですね!いいなあ。
とらねこさん、ぐーてん。
そうね、帰るべき場所。。。
なんだか笑っちゃうけど、結構ホロリとした気がするな。
人を見つめる目線が、なんというか懐の深さを感じさせてくれてとっても優しかったりシュールだったり、こんなコメディタッチでも浅いようで実はとても深いのよねえ。
私、太陽に恋して、、すごくスキなんですょ。
なんとなく本作を観たあとに太陽…が見たくなっちゃってレンタルしちゃったですw
>アキンにとっても、クラブや音楽が好きだった自分の、そうしたライフスタイルとの別れにこの作品がなるだろう、とのこと。
ああ、そういう視点もあるんですねぇ・・・でも、別れというよりまた新たな旅の起点を感じた気もします。移りゆく景色がいつも印象的ですけど、時が流れていく先を見てるような気がするというか。前向きさ加減がジャストミート!って感じw
でも映画祭で観たんですが、ゲストのボウスドウコスにはどうも萌えなかったですぅ;爆
シャーロットさんへ
おはようございます~♪コメントありがとうございました。
そうなんですよね、この作品の場合、コメディでも人間の馬鹿馬鹿しい行動を愛おしむことが出来る類のものでしたよね。
そこに人間へ、兄弟への愛があって。もちろん愛もあって。
今までのライフスタイルとの別れというより、新たな旅の起点が見える、というシャーさんの視点、本当におっしゃる通りですね!
物語の冒頭で、ジノスの彼女・ナディーンが香港へ行きますが、彼女はまだ自分の生きるべき場所が見えていません。(それはこれまでのアキン作品の登場人物と同じですね。)
ジノスはすぐにナディーンの後を追って行こうとしますが、彼もまたナディーンとそれほど変わらない人生のステージ(段階)であったのだと思います。ソウル・キッチンという「場」(彼の生きるべき場所)自体も、まだまだ発展途中で。
この物語では最後に主人公は成長し、自分の生きるべき場所「ソウル・キッチン」が、心から愛し、そこに居たいと思える「郷土」になるんですよね。
新たなライフテージを見ているからこそ、アキンにとって「古いライフスタイルの別れ」を気持よく送り出すことが出来る、そんな作品だったのかな、なんて思います。
私も『太陽に恋して』大好きですー。私も映画館では見ていなくて、『クロッシング・ザ・ブリッジ』からの、遅れて来たファンでした!
でも自分には絶大な影響を与えてくれた人でしたよ。生き方まで変えられた!だから特別なんです(笑)
そんなアキン監督を、かえるさんもシャーさんも大好きで、・・だから余計特別でした。
とらねこさん
こんにちは♪
またまたお久しぶりです!忘れた頃にやって来るような感じです(笑)
実は私のブログに、とらねこさんのブログから来られる人が多く、、、。
昨日も120もの閲覧でした。そんなわけでとらねこさんのところへお邪魔
致したようなわけです。
ようやく京都でも公開されました。本当に素晴らしい作品で、音楽最高♪
いつの間にかリズムに合わせながら、映画を観ている私でした。
監督作品は「そして、私たちは愛に帰る」しか観ていませんが。
まったく雰囲気が変わって、とてもテンポ良く、リズミカルなので驚きました。
mezzotintさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
忘れた頃にやって来てくれてありがとうございます(笑)
そうなんですか!?ウチからお宅に伺う方が多いんですね〜。
migさんと全く同じこと言われてしまったw。意外ですよね〜。
mezzotintさんのところもリンクしてないのに・・
京都で公開されたんですね!良かった良かった。
堪能された様ですね!これ、監督のセンスや勢いの良さを感じてしまう作品でしたね。
「そして、私たちは愛に帰る」よりも、『愛より強く』や『太陽に恋して』、『クロッシング・ザ・ブリッジ』といった他作品の方が、私は好きなんですー。mezzotintさんも機会があったら、ご覧になってみてください★
しかし毎回思うんですけど、「関西勢は名古屋より遅い」、ということが多いですよね。
ようやく観ました。見逃すとこだった。ぎりぎりセーフ。
いや~これは爽快でした。
ほんと行ってよかった。
音楽がね。 反則です(笑) サントラ買ってしまったではないか(笑)
「悪いやつは白人」っていうのが何かたまらなく笑えたりします・・・。
実際鬱屈してる民族感情なんでしょうね。
rose_chocolateさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
お返事が遅くなってしまって、すみません><
おお、見てくださって良かった!爽快でしたか。うん、そうかい・・とは言いませんよ(殴
この映画って、不思議なグルーブ感のある心地良い映画ではありませんでした?
サントラ買いましたか!音楽本当カッコ良かったですもんねー。
「悪いヤツは白人」
この辺の感覚が、なんだかクールなんですよね。
とらねこさん、こんばんは!!
ほぼ満席状態のギンレイで、会場全体がふわぁ~っと、またげらげらっと映画と一緒に笑ったり、うっ、となったりしている感じがまたよかったです。
しあわせ~!になりますよねっ。
ファティ・アキン監督のコメディってどんなんだろう?と思ったのですが、いやあ、参りました。素敵でしたぁ!!なんて、しなやかな方なんだろうと・・・。
ビロル・ユーネルのナイフ投げのテクニックには抱腹絶倒、いやどきどきと言うべきか(笑)
rubiconeさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
ギンレイ、満員だったのですね!あそこっていつも混んでるみたいですね。
すごく居心地はいいんですよね、もっと家に近かったらいいのになー。
私が見た時はライズだったのですが、やっぱりすごく雰囲気が良かったです。
見終わった後の幸せな感じがすごい良かったですね。ファティ・アキンならでは、という感じのドライブ感満載のコメディでした。
ビロル・ユーネル見たさにもう一度見たい、なんて考えちゃっています♪