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首 #12

’68年、日本
監督:森谷司郎
製作:田中友幸
原作:正木ひろし 『弁護士』
脚本:橋本忍
撮影:中井朝一
美術:阿久根巌
音楽:佐藤勝

小林桂樹 : 正木ひろし
南風洋子 : 滝田静江
岸本正治 : 下川辰平
神山繁  : 田代検事
大久保正信 : 中原
古山桂治 : 吉田弁護士

この作品、私の家の近所のカレー屋のおじさんが、「『首』という映画は面白かったなあ。またアレが見たい・・」と語ったことから、俄然見る気になったのです。すぐに調べてみたら、2ヶ月後に銀座シネパトスでやる『小林桂樹特集』の中に入っていた。よし、自分も見るゾと心に決めて。

実在した「首なし事件」を元にした迫力のドラマ。社会派作品でありながら、ハラハラドキドキさせる、その手腕は一流。正攻法で攻めつつ一切誤魔化しのない傑作でした。原作は弁護士・正木ひろしの『弁護士』。

一人の鉱夫が死に、死因に疑いがあるということで、弁護士の正木の元へ遺族が訪れる。自分も忙しいので、とりあえずは解剖さえしてくれればいい・・と、ルーティンワークをこなすかのように気楽に答える正木。「ぼくは警察のやることはあんまり信用してないが、検事局から上は違うよ。みんな、それぞれ教育も受けており、人物もできているからね・・・」。ところが予想と違い、物事がうまく進まない。ようやく担当検事が決まったと出かけて行けば、最近移動になったという検事は、いぶかしげに正木を見て、根掘り葉掘り質問攻めに。どうも様子がおかしい。「自分は信用してはいけないものをこれまで信用していたのか・・?」。本来行くつもりのなかった現場調査のため、はるばる茨城まで行くことを決める正木だった。

弁護士という立場ですでに地位も築いていた正木だったが、いつしか本気で戦うことになっていく。行われた解剖の結果のずさんさを見て、次第に事件にドップリ(首まで)浸かってしまうのだ。真実を求めた正義漢の塊のような弁護士像という「綺麗事」を描くというよりは、よりリアルに正木の個人の感情をありありと描いて、真に迫る。戦いは彼の弁護士としての生命をかけたものになる。そして一個の人間として、良心と権力との戦いにシフトして行く。正木は無意識に戦争に支配された空気が、何か別の方向へと流されていくことを感じていた。

この作品のモノクロの映像は、とても印象深く心に残る。こういうカッチリ撮した白黒映画が私は好きだ。雪が舞う中、泥でグチャグチャになりながら墓掘りをしたり、時間と戦って脇目も降らずに車を飛ばしたり。真実を今にも隠そうとする、埋もれそうなまでの雪が、何か恐ろしい権力を感じさせ、どこか殺伐とした田舎の風景を感じさせ見事だ。

墓を暴き、死体から首を切り取るシーンは、まるで弁護士の正木が犯罪者のような後ろめたさを感じつつ執り行なわれるところが面白い。さらにその臭う生首を持って、雪の中車を飛ばし、上野行の列車に乗る。周りにバレやしないかと終始ハラハラし、駅員に呼び止められるシーンでは見ているこちらが手に汗握るドキドキ感が味わえる。社会派の映画でありながら、人物の心理描写が上手く描けているところが何より圧巻。「生首」が戦争と同時に焼き落ちたことについて言及されているところを見ると、計算され尽くされていると感じる。

※ストーリー・・・
昭和18年の冬、一人の鉱夫が警察で死んだ。死因に疑いがあるということで、弁護士の正木が遺族から、調査を 依頼された。正木は死亡診断書に死因が、脳溢血とあるのを怪しんだが、警察や検事は死体を見せようともしなかった。正木は、そこに拷問死のにおいをかぎ、 いかに戦時下とはいえ、官憲の横暴、残虐さに激しい怒りを覚え、この事件を徹底的に調査しようと決心したのである。調査するうちに、脳溢血という診断が、 明らかに偽証であることがはっきりした。しかし、死体はすでに埋葬され、いかに弁護士とはいえ、警察の許可なくしてそれを掘り返すことは出来なかった・・・

首@ぴあ映画生活

 

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