白いリボン #5
’09年、ドイツ、オーストリア、フランス・イタリア
原題:the White Ribbon
監督:ミヒャエル・ハネケ
製作総指揮:ミヒャエル・カッツ
プロデューサー:シュテファン・アルント、ファイト・ハイドゥシュカ、マルガレート・メネゴズ、アンドレア・オキピンティ
脚本協力:ジャン=クロード・カリエール
撮影:ク リスティアン・ベルガー
美術:クリストフ・カンター
編集:モニカ・ビッリ
去年のカンヌパルムドール受賞、GG賞外国語映画賞受賞した、ミヒャエル・ハネケの最新作。予告を見ると普通にとても面白そうだったのが意外で。もしかして今回はいつもとちょっと違うのかも!?と胸躍らせていた私。
いつもハネケの写真を見るたび、「こぉーンの意地悪オヤジがぁ~!」と心の中でツッコみを入れてしまう。こうして黙って写真に収まっていると、実はまあ、なかなかカッコイイ、と言えないこともない。ちょっぴりアル・パチーノに似ているような深い眼差し。(アル・パチーノ、ごめんなさい!)しかしそう思った途端に、「そうやすやすと陥落しませんことよ。」とも思ってしまう。皆さんも、相手によって自分の態度を変えたりするでしょ?ハネケ作品ではいつも「絶対釣られるもんか精神」が芽生えながら見てしまう。此の人に対しては、ツンデレどころか、一生ツラれるのは拒否する、と思っていたのに。今回の作品には素直に賞賛してしまいそうになる自分がコ・ワ・イ。
静謐な田舎の風景にヒッソリと押し殺しされた悪意が、何とも恐ろしい。見えない恐怖が行間からジリジリと滲み出てくるこの感覚。モノクロの美しい映像は見ているだけでウットリする程。なのに、ふと目を離した隙に何かを見逃してしまうのではないかと、ジッと目を凝らして画面と真剣に向きあわざるを得なくなる。あまりに張り詰めた緊張感。このテイストが素晴らしくイイ。
20世紀初頭の北ドイツの小さな村が舞台。物語は終盤に戦争が始まっていく。つまり、この物語の後でナチスが台頭していくのである。嵐の前の静寂、と言ったら表現として小さすぎる。静かな村に密やかに起こる不穏な血なまぐさい事件は、さらにもっと規模の大きな悪に委ねられていくという、このラストが何とも恐ろしい。馬の通り道に貼られたピアノ線の事件も、意味なく殴られた精神障害児の事件も解決せず、居なくなった夫人とその子供の行先も分からぬまま、戦争へと時代が突入していく。あのハネケのオヤジめ・・・「意地悪もここまで貫けば、立派な芸術だよ!」と認めざるを得ない。
※ストーリー・・・
1913年夏、北ドイツのある村。張られた針金が原因でドクターが落馬したのが発端だった。翌日にはその針金 が消え、小作人の妻が男爵家の納屋で起きた事故で命を落とす。秋、収穫祭の日、母の死に納得できない息子が、男爵の畑のキャベツを切り刻む。その夜、男爵 家の長男ジギが行方不明になった。一方、牧師は反抗的な自分の子供たちに“純心”の象徴である白いリボンを腕に巻かせる。犯人がわからないまま、不信感が 村に広がっていく・・・
2011/01/18 | :ヒューマンドラマ
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コメント(14件)
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ゾゾッと怖くて美しくて堪能。
昨今のニッポンはヨーロッパ映画の人気がなくて寂しい限りなのですが、意地悪ハネケのパルムドール作品だけは、どうにか人がいっぱい入ってて、キネ旬ベストにも入ってて(まぁそれはどうでもいいんだけど)よかったよかったと思うてます。
意地悪なんだけど、賢くちゃーんと見据えてる感じがあるからハネケ様には逆らえませんー。
かえるさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
本当、ハネケの作品、客が入ってたみたいですね。すごいなあ。
あんなに意地悪なのに。みんなマゾなのかしらって思ってしまいます。
キネ旬ベストは4位でしたよね。どうでもいいですね。w 私も年末に見てたら入れてたと・・・。
意地悪というのは私のヘンテコリンな言い方ですが、この作品は本当に傑作だと思ってます。
これ、何年後かに名作扱いになりますよねきっと。
ああ、しかし怖かったですねこれ。いやあ、でもやっぱり意地悪ですよ。
「意地悪が気づいてみたら、芸術になってた」ってとこなんじゃないですかね?
とらねこさんこんばんはー
先ほど観てきました。
ワタシはとてもおもしろく観ました。
もりだくさんな内容でムダなエピソードはまるでないのに
全体が繋がってなにか結論めいた物に至るかというとそうではない。
それでもモノクロ画面の奥底にはずっしりとした固まりが感じられる、
そんな映画でした。
カンヌ向けかもw
ところで、ひとつ指摘しましょうか〜?
むふふふ^^
これは第一次大戦の前夜なので、まだナチスは登場しませんよぉぉ?^^)/
manimaniさんへ
こんにちは~♪コメントありがとうございました。
これすごく面白かったですよね~!久しぶりにご覧になったのがこれとは、素晴らしい。
あ、これまにまにさん見るんだ、と思ってすぐに、ツイッターで話しかけようかと思ったんですけど、きっと寝ちゃっただろうと、
そしたら、全然眠らなかったとは!すごいすごい!
まにまにさんとはやっぱり、こういう映画の時に気が合いますよね不思議!
まにまにさんが「これは自分の好みでないかなあ」と思う作風は、実は私もそれほど好きでないかも・・。
そうそう、ナチスはもちろんこの作品では出てきません
これから父権主義的社会の内部腐敗が、さらにもっと邪悪な父権国家へ委ねていく・・
という予感をさせるのですね。
ただの戦争でなくもっと恐ろしいものへ。
何故北ドイツを舞台にするのか、その辺りをもう少しまにまにさん的に掘り下げていくのだろうなあ~、きっと。待ってます♪
こんばんは♪
そうそう!語り口がなんだかいつもと違うテイストなので、わたくしもかなり身構えて観てた口です
派手なものなんて何ひとつ写らないし淡々とエピソード並べてるだけなのに、只事でなさが充満してパンパンになってく感じがたまらんちん
えー!?どうなっちゃうのーて息つめて観てたら…
投げっぱなしジャーマンからの流れるような無音エンドロール!
もぎゃー!いつものハネケじゃねーかよ!
よ!ハネケ屋!っつっておひねりのひとつもスクリーンに投げたくなるっつー(笑)
>「意地悪もここまで貫けば、立派な芸術だよ!」
したり(笑)
しかも閃きとかじゃなく計算づくでこの完成度まで積み上げてるっぽいところが怖ろしいですねー
いつでも同レベルのものを再現可能ってことだもん
みさま
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
わーいっ、みさんもこれ見ましたか〜!そして、どうやらお気に入りの様子!
もしかして去年に見て、ベストにちゃっかり入れてしまったクチですか?
>派手なものなんて何ひとつ写らないし淡々とエピソード並べてるだけなのに、只事でなさが充満してパンパンになってく
うん・・。まるでこれ、クラシックの傑作を見ているかのような気持ちになってしまいましたヨ。
>もぎゃー!いつものハネケじゃねーかよ!
>よ!ハネケ屋!っつっておひねりのひとつもスクリーンに投げたくなるっつー(笑)
ブハハハ!言えてる!私の感想もそんなんだったぁ。そういうの逃さないところがさすがのみさんだなー。
「ハネケ屋」ってw
なんか、ハネケワールドもここまで来ると、一段階も二段階もレベルアップしたんだなーって。やるなあオヤジ。。。
確かに、これ偶然性ではなく、理論の積み重ねでした。余裕すら感じましたね。またこうしたレベルのものが出来てしまうのでしょうね。
これは現段階の最高傑作ですね。