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■56. エクスペリメント

’10年、アメリカ

原題:The Experiment
監督・脚本:ポール・シェアリング

エイドリアン・ブロディ  トラヴィス
フォレスト・ウィテカー  バリス
キャム・ギガンデット  チェイス
クリフトン・コリンズJr.   ニックス
マギー・グレイス  ベイ
イーサン・コーン  ベンジー

’71年に実際に行われた、スタンフォード大学の心理実験を元にした『es [エス]』のハリウッド・リメイク作品。

一言で言えば・・・頑張ってはいるけれど、オリジナルに全然敵わない。

スタンフォード大学の心理実験とは、普通の人間を看守役と囚人役とに分け、彼らがどのような行動を取るかを見るもの。普段は権力とはまるで無縁であった者が、突如として権力を与えられたら、どのような形でそれに順応していくのか、それらを行使するのか。あるいは、それに服従させられる方はどうか。それぞれの段階を見る・・といったもの。

この実験は、2週間で続き、多額の報酬を得られる者だったはずだが、暴動が起こり、施設自体が壊滅して、実験がとても続けられる状態ではなくなり、中止になってしまう。

この物語はその実験の内部を描いたものだから、正直面白くない訳がない。
ただ、あまりに『es [エス]』が完璧すぎ、どこも変える必要がないものであったから、今リメイクされても仕方がないのに・・・との思いがあった。
しかしエイドリアン・ブロディといいフォレスト・ウィテカーという、二人ともアカデミー賞を受賞している演技派だし、そこそこ期待出来るかな、と思ってついつい見たくなってしまった。

『es』では、もっと迫るべきところをギリギリまで迫っていて、甘い描写というものが一切なかった。こちらのリメイクでは、やりたいことは分かるのだけれど、勿体無いところがたくさんあった。
たとえば、『es』では実際の心理実験がそうであったように、囚人役には人のプライドを剥奪するように、女性が着るようなハンモック(もしくはワンピース)のようなものを着せられる。こちらのリメイクでは、普通のセパレーツ。

それから、『es』では主人公がトイレを手と自分の服で掃除させられる場面がある。あまりにもトイレが汚くて、思わず本気で吐きそうになる、思い出したくもないシーンだった。しかしこちらのリメイクでは、全体的に新しい建物で清潔感が漂っていて、トイレとは言え結構綺麗。見ていてそれほど不快なシーンではなかった。トイレにウ◯コのような茶色い物が少しついていたけれど、ちょっとだけ。
このシーンと、あとでもう一度トイレ関連のシーンがある。主人公が小便をかけられるシーンだ。この二度目のシーンでのリアリティも、オリジナルに比べるとまるで物足りなく感じてしまった。リメイクではオシ●コがあまりに偽物じみて感じた。撮り方が下手だからかもしれない。
それとも、エイドリアン・ブロディは名の知れた俳優だから、彼にそんなことをさせることが出来ないのか、と思わず邪推してしまった。

また、看守役の人間が少しづつ変わっていく様を描くことに関しても、リメイクではとても物足りなかった。自分の器に合わないぐらいの権力を得た人間が、少しづつサド性が出て、狂気を持っていく。
『es』ではもっと、様々な人間の反応を少しづつ描いていたが、わずかな表情、わずかな台詞の中でも、それぞれのキャラクター性を描き分けが出来ていた。こちらでもそれを目指していたのだろうとは思う。だが、早い時期からフォレスト・ウィテカー演じるバリス一人だけに焦点が当てられてしまう。おかげで、実験を一般化することなく、一人の人間の個性として描くことになってしまった。
これでは、サンプルとして得られたランダムな人間たちの、その普遍性よりも特殊性を強調してしまう。それでは心理学実験としての面白さは半減してしまうことになる。ここに気づいていなかったように思えてしまってならない。

あとは、ラストのクライマックスの描写だ。『es』では攻撃性を剥き出しにした人間たちが、一気に施設をぶち壊し、終盤に向けて勢いづいていく。
オリジナルを映画館で見た時は、あまりに頭に血が上って、こちらが暴動を起こしたくなるぐらい、興奮させられた。こちらのリメイクは、このテンポ感が悪く、間延びしたように感じられたため、冷静になることが出来たと言える。

ところで私は、エーリッヒ・フロムの『破壊 人間性の解剖』(上・下巻)で読んだことがある。大学一年生の時。
主に上巻では、人間の攻撃性についていろいろな例を挙げて心理学的知見について述べ、下巻では一冊まるごと使ってアドルフ・ヒトラーについて徹底分析している。この上巻の最後の方に出てくるのがこのスタンフォード大学の看守と囚人の実験だった。
もし興味ある人は、このフロムの『破壊 人間性の解剖』を読んでみるのも面白いかも。

ストーリー・・・
実験室に、24人の男たちが集められた。彼らは看守役と囚人役に分けられ、それぞれの役割で振舞うことを条件に、14日間の実験を開始する。しか し、初日からささいなトラブルで看守と囚人の間に緊迫した空気が流れ・・・

エクスペリメント@ぴあ映画生活

 

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