■53. わたしの可愛い人 シェリ
’09年、イギリス、フランス、ドイツ
原題:Cheri
監督:スティーブン・フリアーズ
製作:ビル・ケンライト
原作:コレット 『シェリ』
脚本:クリストファー・ハンプトン
撮影:ダリウス・コンジィ
音楽:アレクサンドル・デプラ
美術:アラン・マクドナルド
編集:ルチア・ズケッティ
ミシェル・ファイファー レア
ルパート・フレンド シェリ
キャシー・ベイツ マダム・プルー
フェリシティ・ジョーンズ エドメ
イーベン・ヤイレ オーマリ=ロール
ナレーション スティーブン・フリアーズ
まず、高級娼婦(ココット)の話ってすごく面白い。美貌と知性を兼ね備えていて、ほんの数秒で相手を自分の魅力で心を動かすことができる。人心掌握術に長けているって、なんて素敵。
女性にとって、いつまでも年を取らずに美しくいることができるって、それだけで尊敬に値する。しかし、年を取ったらどうなるんだろう?って、凡人の私には意地悪に考えてしまう部分がある。だから、この物語を見るのはとても面白かった。憧れと好奇の眼差しとで、学ぶところが多くて。(だからと言って、それを活かすことは出来ないのだけどなー。)
この物語はいわば、全てを手に入れた後の人間の物語。美貌を活かし、知識を蓄えて富豪になった後、どう生きるのか。一般的な人間の持つ愛や情熱とはどう違うのか・・・。
40代になり、高級娼婦を引退した後も美しく居続けることのできるレアの、気の利いたドライなトークが心地いい。言葉にウィットと軽さをを与えることができるレアが、19歳の青年をとりこにした・・・というあらすじも、納得のいくもの。
いくつになってもチャーミングなミシェル・ファイファーが演じているから、それだけで見る価値がある。
「一緒に居る時に、自分が自分自身で居られる人を探せ」。私の友人は、私が24の時にそう言っていた。この言葉は、いまだに思い出すことがある。
無理したり、取り繕ったり、そういうことをしなくても済む相手が一番長続きする、って。
元高級娼婦のレアにとって、シェリは、自分自身がとても気楽なまま一緒に居られる相手だったよう。母と息子ぐらい年が違う相手なのに。
気づいたらそこから何年も経っていて、その年月は振り返ることなく過ぎていった、楽しい期間・・・。
そろそろケジメのため結婚をさせようとした母親、マダム・プルーがレアからシェリを引き離すまで、レアにとっては恋愛ごっこは、単なる遊びでしかなかったよう。
シェリと離れることになり、さすがいい女らしく、気前よく手を引いて見せる。その後で一人泣く姿を人には見せず。
レアとシェリは、年こそ離れているものの、いろんなバランスが取れた間柄だったのだろうと思う。
私はよく、恋人同士や夫婦などのカップルを見て、「バランス」ということを考える。
カップルが釣り合いの取れていない様を、「美女と野獣」なんていうけれど、美女はただ単にルックスがいいだけで、その野獣とは、何かの点で釣り合っているのだ、と私は考える。若い女性と金持ちの老人も、精神的にもしくは経済的に、お互い補い合って相互に釣り合いが取れているのかもしれない、と。
相手を縛らず、未来も保証せず、ただお互いの楽しみのために一緒に居る。そんなレアとシェリの生活は、途方もなく楽しいものだったのだろうな。
二人は、恋愛の一番美味しい部分を味わっていたのかも。相手を縛らず、縛られもせず。
酸いも甘いも噛み分けたレアだから、理想的な関係が終わってしまった事に対して、その意味も分かっていたはず。だからこそ、潔く引いて見せた。
相手はそこまでの考えなく、レアの元に戻って行った。これを、本当の愛と見誤ってしまったこと・・・。この気持ちは、なんだか分かる気がする。おそらく、いくつになっても本気の恋は、どんな人であっても希望的観測から、その全貌を冷静に見渡す事ができないのかもしれない。
シェリは本当にイイ男だったのだろうな。見た目がイイ男なだけじゃない、使う言葉やその精神がとても興味深くて、思わずメロメロになってしまう感じの。
レアがいくつになっても若いのは、情熱を傾けることが出来る人であるからかも。

ベル・エポックのパリ。富と名声を手に入れた元ココット(高級娼婦)のレアは、40代にして今なお輝き続け、優雅な生活を送っていた。そんな中、元 同業のマダム・プルーから、彼女のひとり息子で19歳にしてすでに女遊びに飽きている問題児・シェリを紹介され・・・
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