■52. 100歳の少年と12通の手紙
’08年、フランス
原題:Oscar and the Lady in Pink
監督・脚本:エリック=エマニュエル・シュミット
撮影:イルジニー・サン=マルタン
音楽:ミシェル・グラン
編集:フィリップ・ボーゲイユ
原作:エリック=エマニュエル・シュミット 「神様とお話しした12通の手紙』
ミシェル・ラロック ローズ
アミール オスカー
アミラ・カサール マダム・エメット
ミレーヌ・ドモンジョ リリー
マックス・フォン・シトー Dr.デュッセルドルフ
コンスタンス・Dolle オスカー母
マチルダ・Goffat ペギー・ブルー
Thierry Neuvie ビクター
この物語は残念ながら、いわゆる”難病モノ”という、厄介なジャンルに入ってしまう。
”難病モノ”・・・。これが曲者なのだ。
とても素直な心の持ち主や、コロっと映画やドラマを見てすぐ泣くタイプの人が、「すごく泣いた!」と例外なく言うタイプの映画で、作り手の方もいかにも観客が泣くポイントを計算して作られたかのような、見るにも聞くにもアザトさ満載、といったウンザリ感の漂うジャンル。
中にはこのジャンルを毛嫌いして、あらすじを聞いただけで虫唾が走る人もいるかも。
でもあえて言いたいんだけど、これ本当に良い作品なんですよ!・・・説得力ない?あーもう、どうやってこの先入観を振り払ったらいいかな。困った
まず、さすがのフランス映画、という感じ。ありきたりな展開になることがない。
全てのシーンに、思いやりが溢れ、ユーモアが溢れ、物語が進むにつれ、やがて訪れるであろう死への悲しみに左右されることなく、今ある生を楽しむ気持ちになってくる。少年と一緒になって、その生を最後まで楽しもう!と。
オスカー少年は、イタズラ好きでやんちゃをしたい年頃なのに、どんなに非道いイタズラをしても、彼だけ何故か怒られない。先生は悲しそうに頭を振って、「キミか・・」などとしょうがなさそうに諦める。少年は少年なりに、そうした大人の態度に不安な気持ちになる。とても不穏そうな顔をする。子供らしくない表情だ。本当は少年は、思いきり怒られたい。他の子と同じように。
オスカー君は本来、のびのびした気持ちの、途方もないやんちゃ坊主だったに違いない。そして、とても賢い子だった。大人の嘘を、その表情から一瞬で見抜くことの出来る子。重い病気を持った境遇から、普通の子よりずっと大人びて、ヒネクれてしまっている。この子を見ているだけで価値がある。少年のバンビみたいな大きな瞳が眩しいから。彼が傷つくと胸が痛くなり、彼が笑う表情が見たくて、ついつい先が楽しみになってしまう。
口の悪い中年女性のローズ、彼女が自分を特別視しなかったことが気に入るオスカー少年。この女性にだけ心を開くことを決め、一日で10歳年を取る、という彼女の言を信じこみ、10日で100歳を駆け抜けてゆく。
途方もないアイディアのように思えたそれは、ことによると、人間の一生は意外にもこんなものなのかもしれない、などと思えてくる。ここで描かれた少年の悩みや喜びは、私たちのそれとまるきり同じだ。
不思議にも、流れる涙は、喜びの感情から湧いて出るものになる。悩むことも人生であり、苦悩することも人生。その末の喜びも。人生を謳歌する少年の笑顔を見て、喜びの気持ちで胸がいっぱいになる。
少年の想像の世界が、映像となって飛び出してくるシーンはとても美しい。スノードームの中から現れてくるというのも楽しい。今年見た中でも最も忘れられない素晴らしさ。
『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』の原作者、エリック=エマニュエル・シュミットによる、原作・脚本・監督を手がけた作品。この監督は『地上5cmの恋心』でデビューしている。私は『イブラヒムおじさん〜』が大好きだった。
『イブラヒムおじさん』とこの作品で、どこが近しい感じがするかというと、人間の一生や、この世界の理(ことわり) に触れた気持ちになるところ。それから、何とも言えず温かい気持ちになる部分とが。

10歳の少年オスカーは白血病に冒され入院していた。自分の命が残り僅かだと知った彼は、落ち込み、腫れ物に触るように接する医師や両親に心を閉ざ す。そんな中、デリバリーピザの女主人ローズと出会い、彼女はオスカーに1日を10年と考えて過ごしてみるよう提案する・・・
2010/12/11 | 映画, :とらねこ’s favorite, :ヒューマンドラマ
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(4件)
前の記事: ■51. エクスペンダブルズ
次の記事: ■53. わたしの可愛い人 シェリ
映画:100歳の少年と12通の手紙
日本で14館しか上映していない単館系映画100歳の少年と12通の手紙を観てきました。
自称映画ブログのクセして、映画の記事を書くのは約3週間ぶり!!!
とらねこさん、お久しぶりです!
先月ちょこっと帰国した時に、いい映画だと聞いて姉と観てきました。
私も難病物は苦手です・
イヤだと思いながら流れてしまう涙に
「くそー」と悔しい気持ちになってしまうのが常なので。
これは違う。
観た後はいろいろな人に勧めたくなる映画でした。
そんなに泣かなくて済みました。
心に残ったのはすごく重い、でもとてもさわやか。
一日が10年、なんというアイデアでしょう。
少年はまさに1日を10年の濃密さで生き抜きました。
子供の死は悲しすぎますが
人間は生きた長さではない、と。
17歳半で息子さんを白血病でなくされた友人に
帰国の際、会ったばかりだったので
よけいにそう思ったのかもしれませんが。
オスカーもとても愛らしく
ローズも素敵。
病気物でこういう映画
日本では作られないでしょうね、多分。
くりりんさんへ
おはようございます〜♪くりりんさん、すごくお久しぶりです!コメントありがとうございました。
くりりんさんも気に入られたようで、すごく嬉しい!本当、”難病モノ”ということで括られてしまうのが勿体無い、すごくいい作品でしたよね。
>心に残ったのはすごく重い、でもとてもさわやか
この言葉、すっごく共感してしまいます。私も本当にそんな感じ。
とっても大切なメッセージが描かれているのに、決してお説教臭くなくて。
くりりんさん、最近帰国されてたのですね。その時に会われたご友人のことを思い出しながらの鑑賞・・・。すごく思い出深い出来事になったのだろうなあ、と想像します。
オスカー君があまりにも可愛いんですよねー。あの子は見ているだけで楽しくなってしまう。ちょっとズルイw///
ローズも本当に等身大な女性で、共感してしまいました。
本当、邦画にはこの手の爽やかさは期待出来ませんよね。絶対ベッタベタになってしまいそう。私のいかにも苦手そうな・・・。