■47. ベンダ・ビリリ! もう一つのキンシャサの奇跡
’10年、フランス
原題:Benda Bilili!
監督:フローラン・ドラテュライ、ルノー・バレ
出演:スタッフ・ベンダ・ビリリの皆さん
今年のマスト映画として、忙しい中「これは行かねば!」と心に決めていたのがこのドキュメンタリー。これは間違いないと見て、「是非一緒に行こう!」と友人を口説き落として連れて行った。
「もう一つのキンシャサの奇跡」なんていう副題がまた気が効いてる。世界で二番目に貧しい都市だという、コンゴ民主共和国のキンシャサ。そこで暮らす下半身不随等障害を持つ路上生活者による、アツいアフリカ音楽・・・。もう、下手なフィクションが束になっても敵わない奇跡。胸が熱くなる思いが何度となくこみ上げてくる。
彼らはまるで、まだ発掘途中の原石みたい。作家ルノー・バレとフローラン・ドラテュライが彼らに出逢った時は、さぞかし興奮しただろうな!ドキュメンタリー映画とアルバム制作とを作ることにこぎつける。まるでトントン拍子に行くかに見えたものの、肝心の彼らの家が火事に遭うなど、完成のメドが立つを待つにはそこから5年ほどかかる。
彼らの奏でる音楽が本気でカッコイイところが、何より嬉しい。ノリノリのコンゴ・ミュージック。自分にはもうツボのど真ん中をドキューン!と射抜かれた感じ。
心を打つのは、シンプルでストレートな歌詞。路上生活者ならでは持ち得た、不思議なほどまっすぐな言葉。裏に、力強い信念や思いを感じさせる。トンカラ、トンカラ、トンカラ(※ダンボールの意)・・・。
まるで魔法のようなその言葉を唱えると、生きるためのポジティブさが湧いてくるかのように。ポジティブ、なんてもんじゃない、きっと生きる上で絶対必要不可欠な、良い意味でのふてぶてしさ・・・。
それらのシンプルな言葉はまるで、民話や昔話が世界中のいたるところで似たような話が語られるかのように、どこか僕らので心の奥で共鳴する。きっと世界中の人にとって、なんだか懐かしくて熱い思いを呼び起こすんだろうな。僕らが豊かなのは経済だけだ。僕らがすでに失ってしまった人間の持つ心を、彼らだけが持っているのではと思えてくる。
空き缶に弦を一本くくりつけただけのお手製の楽器を引く、まだ小さなロジェ。スタッフ・ベンダ・ビリリのメンバーたちは、この少年と会うとすぐにセッションをし、彼に将来性を見出す。ここにまた原石が!実際、5年後のロジェのライブ会場での姿は、いっぱしの一個のミュージシャンの姿だった。オンボロの空き缶を手にした少年のいたいけな瞳が美しくて、なんだか泣けてきた。
すぐに好転などするはずもない暗雲に、彼らはいちいち嘆いてみせたりなどしないのだろうな。ガラクタ置き場で光るガラスの破片みたいに、彼らはキラリと尖って眩しく輝いて見える。

ポリオで下半身不随になりながら、路上で演奏することで暮らす“スタッフ・ベンダ・ビリリ“が、珍しい楽器を演奏する少年ロジェと出会いメンバーに 迎え入れる。彼らは初めてのスタジオ録音に臨むが、暮らしていた障害者施設が火事で焼け落ちてしまい・・・
・ベンダ・ビリリ! もう一つのキンシャサの奇跡@ぴあ映画生活
2010/12/02 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物, :音楽・ミュージカル・ダンス
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
前の記事: 11月の評価別INDEX
次の記事: ■48. マチェーテ
コメント