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■39. 何も変えてはならない

何も’09年、ポルトガル・フランス

原題:Ne change rien
監督・脚本・撮影:ペドロ・コスタ
音楽:ピエール・アルフェリ、ロドルフ・ビュルジェ、ジャック・オッフェンバック
出演:ジャンヌ・バリバール、ロドルフ・ビュルジェ、エルベ・ローズ、アルノー・ディテルラン、ジョエル・トゥー、フレッド・カッシュ

フランスの女優であり、歌手活動もしている、ジャンヌ・バリバール。彼女のライブ・リハーサル風景や、レコーディング作業などを、黙々と映し出した作品がこちら。
シンプルなこの映像が、何故これ程までにあれこれ論議され、話題になるのか。とにかく必見の作品だ。

見る前には、私は正直ペドロ・コスタの新作を見るのが怖かった。苦手意識を抱いていたから。『コロッサル・ユース』を見た時は、睡眠不足だったこともあって、その難解さに理解が及ばず、冒頭から最後まで眠りこけてしまった。
おかげで、この作品が公開されると知っても、あまり心が踊らなかった。しかし何となく気が向いて、いざ見てみれば、至福の体験。こんなに素敵な作品だったなんて!ウットリと心地の良い時間が過ぎていった。

映画館のフィルムに自分が向きあう、大好きな静寂の時間。
気難しい映画だろうか、と、緊張し肩肘張るようなことは全く無かった。むしろ自由な表現にすっかり魂が解放されたかのような思い。

ジャンヌ・バリバールの歌に集中し、その世界と一体化、のような状態になってくる。しばらく変わらないその同じフレームをじっと眺める。「歌」になる前のつぶやきのような、フランス語の魔術的な響きがまた魅惑的。

目の前の画面を見つめ、ただ聞き惚れる。なんだか宇宙が回り始めるような気にすらなってくる。
何より、ただその切り取られたフレームをぼうっと見ているのが、なんとも心地が良くて。
フレームの中の白と黒を見つめているだけで、恍惚感を味わったのは、私はこれまでにもクエイ兄弟の『ベンヤメンタ学院』や、タルコフスキーの諸作品などを見た時など。あの感じを何と表現すべきか分からないけれど、あの瞬間こそ、ゾクっとするほど、映画の画面が生きているように思えてくる。あの感じ!

まるで、すぐそこにペドロ・コスタ監督が居て、その同じ気持ちの良いトリップ感を一緒に味わっているかのような気がしてくる。
その錯覚は、途中から芽生えてきて、だんだんそこに魅入られてしまった。
もはや、精神だけの存在になって、浮遊するかのように気持ちが良い。
物語を追いかけることからも自由になって、目の前の画面と一体化するかのような感じがする。

こうすることで余計、「歌って何てすごいものなのだろう」、とその無限さを感じるような気がした。
ジャンヌ・バリバールの負けない精神や、その魂の形を美しく感じた。

音楽の生(ライブ)の凄さと、その生成過程の蠱惑性。それに、人を耽溺させる力を持つ映像。
つまり、音楽の素晴らしさの恩恵と、映像の凄さの恩恵との、それぞれが掛け合って、何倍もに膨れ上がっているのだ。ここでは。
私は思わず、ズルイ!と思った。

映画って、音楽って、こんなに素敵なものだったっけ。
まるで、憑き物が落ちたみたいに、自由で解放的な気分を味わった。

素敵だった。
ここには、魔法がある。

ストーリー・・・
歌手としても活動するフランス人の人気女優、ジャンヌ・バリバール。ライブリハーサルやアルバムのレコーディング作業を行う彼女の姿をペドロ・コスタ監督が捉えていく。ジャンヌは「映画の中には私ひとりのものよりずっと多くのものが詰まっている」と話す・・・

何も変えてはならない@ぴあ映画生活

 

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