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■36. フェアウェル さらば、哀しみのスパイ

フェアウェル、さらば’09年、フランス
原題:L’ affaire Farewell
監督・脚本:クリスチャン・カリオン
製作:クリストフ・ロシニョン、ベルトラン・フェーベル、フィリップ・ボファール
原作:セルゲイ・コスティン
撮影:ウォルター・バン・デン・エンデ
美術:ジャン=ミシェル・シモネー
編集:アンドレア・セドラツコバ
音楽:クリント・マンセル

エミール・クストリッツァ  セルゲイ・グリゴリエフ大佐
ギョーム・カネ  ピエール・フロマン
アレクサンドラ・マリア・ララ  ジェシカ・フロマン
インゲボルガ・ダブクナイテ  妻ナターシャ
ウィレム・デフォー  フィニー

20世紀最大のスパイ事件となった「フェアウェル事件」を元にした映画。まさに国家を揺るがし、ソ連崩壊の糸口になった「情報漏洩」。
’81年〜’82年にかけて、コードネーム「フェアウェル」としてフランスに送られた極秘情報は、全部で4000通余りと膨大な数に及ぶ。
淡々と語られる事件の規模の大きさに驚き、それとは対照的な、静かで堅実な物語の進み方を心地良く思った。

驚くべき奇跡が起きようとしている、この感じが、なかなかいい。ロシアの伝説の超大物諜報活動員、グレゴリエフ大佐が、今まさに託そうとしているのは、ほとんど諜報活動には素人も同然の、フランス人技師ピエール。
特にピエールが選ばれたのはほとんど偶然だという、そのという感じがまた、見ているものをハラハラさせ、リアリティに溢れているという印象を与える。

何しろ、グレゴリエフ大佐を演じたエミール・クストリッツァ監督!彼が素晴らしかったし、私たちを驚かせるばかりだった。

私実は、この作品に関しては、よく前情報を調べずに選んでしまったの。「今だったらシネマライズがコケる作品を選ぶワケはないだろう」ということで(シネマライズは最近、ライズXとシネマライズの一館を閉鎖して、その名前が冠する映画館は一つだけになった)。これだけの理由で見ることに決めたんです。何と、ポスターすらロクスポ見ないで出かけたという始末!
始まってすぐに、クストリッツァ監督の姿を見て「アレッ?」と驚いてしまった。監督の名前がクストリッッツァ監督でないこと、さすがにそれぐらいは知っていた。で、今スクリーンに映っている、このアントニー・ホプキンス似の、このガッシリした大柄な紳士は、まさか似ている・・・?という感じ。

「そうか、脇役で出てきたんだな」 と思ったんですよ。すぐ死ぬ役だろうと思ったのね。(タランティーノみたいにさ。)
そしたら、なかなか死なないじゃない?
「不意を突かれ、大物に最後の望みを託されてしまう」フランス人役がギョーム・カネなんですね。で、こうした役柄って、主人公の運びであることが多いのに、この物語に関してはどうやら違うようだ・・・ま、まさかクストリッツァ監督が主人公なのか?と。

で、これがまた、何とも堂々とした演技で、初の主役をコナしてしまっているという。これで普通に、二度驚くでしょ(笑)。

いや、そういうこと抜きにしても、何とも味わい深い作品。
祖国を裏切ってまで、託そうとした未来・・・。
取捨選択、その厳しさを感じた。

自分が生きるか死ぬか、何に頼ってどう生きるか、見えない時代に、未来を作り出していく人なのだ。グレゴリエフについて感慨深く思った。同時代に生きる人たちが到底見えない、先の先まで見ている。
私には、今正しい道を選ぶというそれだけですら、覚束ないというのに・・・。

グレゴリエフは、情報の少ない時代に裏の情報社会で自由に泳ぎ、生き抜いていった。情報を操る達人。いつ自分の命が危うくなるかも分からないその時に、常にリスクと共に生き抜く。どれだけのストレスだろう。でも、命があれば良い、というだけの選択をしたのではないところがさらに凄いところだ。選ぶべき情報が数えきれないほどある中で、何が正義かすら分からなくなるその時に。それらに流されず、何をどう、選んでいくか。出来る人間は、何を優先させ、どうあるべきかという、その選択を作り出していく。そこにとても打たれた。
「信念が歴史を動かす」、その様を見た。

ストーリー・・・
KGBの大佐グレゴリエフは、ある決意を胸に秘め、ソ連駐在のフランス人技師ピエールに国家機密を手渡す。それは冷戦下の国際情勢を揺るがしかねな いほどの極秘資料だった。やがてグレゴリエフとピエールが奇妙な友情を育む中、超大国アメリカが動き出し・・・

フェアウェル さらば,哀しみのスパイ@ぴあ映画生活

 

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