■33. ボローニャの夕暮れ
’08年、イタリア
原題:Il papa di Giovanna
監督・脚本・原案:プーピ・アヴァーティ
製作・脚本:アントニオ・アヴァーティ
シルヴィオ・オルランド 父ミケーレ
フランチェスカ・ネリ 母デリア
アルヴァ・ロー ジョヴァンナ
エッジオ・グレッジオ セルジオ
家族という小さな核を描いた作品。
観終わった後、静かな感動がじわっと、だがしっかりと残った。父と母とその娘。これ以上ない小さな円は、永遠の家族像へと、私の中で変わっていった。
ファシズムが台頭し始め、その統治下へ。まさにドス黒い時代の奔流の中。
そこで家族にとって大きな事件が起こる。父親が眼に入れても痛くないほど天塩にかけ、大事に育てた一人娘のジョヴァンナが、とある事件に関わっていることが分かる。
ファシズムという時代背景はむしろ、家族にとっては全く意に介さないものであるかのよう。というか家族の一大事のためそれどころではなく、意識にすら上らないように見える。
事件後も娘に対する価値観が少しも変わることのない、献身的な父親。自分が娘のために良かれと思ってした、まさにそのことが、娘をより悪い方向へと導いてしまう。そのせいか、ますます娘に対する偏愛ぶりが激しくなっていく父親。娘にも問題があることは、他人から見れば一目瞭然なのに。一方の母親は、その徴候については気づいている。母と娘は、時としてライバル同士になってしまうこともあるのだ。特に、第二次成長に至る段階において。
小さな円は、バラバラになりそうに翻弄される。戦争下での名もない家族の運命は、小さな流木のよう。世間の評判が地に落ちたこと、耐え難いシミを付けられてしまったこと。日本であれば強調して描かれるであろう、その部分は、彼らにとってまるで何の意味もないものであるかのように、父の愛はますますかさを増してゆく。この愛に溺れた。
父と娘だけで完結していたと思ったその頼りない絆が、覆されるラストが素晴らしい。

’38年のイタリア・ボローニャ。17歳の高校生・ジョヴァンナは自分の容姿に自信が持てず、美しい母親に憧れと劣等感を抱いていた。彼女を溺愛する美術教師の父・ミケーレは、ジョヴァンナの力になろうと努力する。そんな中、ジョヴァンナの同級生が他殺体で発見される・・・
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