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■25. ガールフレンド・エクスペリエンス

girlfrien’09年、アメリカ
原題:The Girlfriend Experience
監督・撮影・編集:スティーブン・ソダーバーグ
製作:グレゴリー・ジェイコブズ
製作総指揮:トッド・ワグナー、マーク・キュバーン
脚本:ブライアン・コッペルマン、デビッド・レビーン

サーシャ・グレイ  チェルシー
クリス・サントス  クリス 
フィリップ・アイタン  フィリップ
マーク・ジェイコブスン  インタビュアー

なんと意外だったのが、まるで’80年代のソダーバーグ!のような、『セックスと嘘とビデオテープ』を彷彿とさせる作品だった、ってこと。
ソダーバーグは割といろんな作品を作る、というイメージで、初期のこの代表作を思い起こさせるタイプの作品て、実はそれほどなかった。
一周したのかな?こちらにはこの手の撮り方がとってもよくお似合いだった。いろいろな角度から乱雑にまとめられたビデオのような、この手法はとてもラブリー。インタビュー形式で、彼女の5日間という日常を描きながら、彼女の人生が立体的に浮き彫りになる。

アメリカでは人気を誇る、新進気鋭のAV女優だという、サーシャ・グレイ。彼女にエスコート嬢という役を当てはめる。エスコート嬢とは、高級娼婦。デートの相手が”本当に欲しいもの”を察知して、セックスだけじゃない、いろいろな欲求を満たすのが彼女の仕事だ。
さらには相手が「本当に望むこと」、相手の見当識にすらのぼらない思い、それらを引き出し叶える。そのような思慮を働かせることも、実は仕事のうち。

私はと言えば、興味津々で彼女に見入っていた。その間の77分は、あっという間に過ぎていく。請け合おうじゃないか。端正で隙のない美貌の持ち主である、というよりは、どこかしら完璧さを欠く彼女の風貌。遠目に見た方が美しく見えたり、ふとした表情が不安げに見えたり。不思議なことに、そうした点は、演技以外のところから醸し出されるように思えた。そのままそこにいる彼女という存在が、なんだかとっても興味深くて。

人から何か尋ねられた時に、その答えを誤魔化すような回答ではなく、自分なりに切り崩していくような体当たりぶり。これが何より自分には好ましく思えた。嘘っぽい存在には、誰だって興味を覚えないだろう、というもの。もっと話をしたくなり、相手に興味を覚えるのは、そこに生身の個性をきちんと感じるからなのだろう・・・などと思いながら見ていた。インタビュアーの質問のうち、そんな投げかけ方も、実際あったよね。

上から下まで舐められるようにじっくり検分され、服を着た上での”見た目”ばかりでなく、脱いだ姿のおっぱいの形、さらにセックスの良し悪しについてすら”商品価値”として見られるなんて、一体どんな気分なのだろう?
「人は誰もが批評家だ」。
自分のことを棚に上げ、誰かのことを批評する時、人は誰もが饒舌だ。そして人間は批評の好きな生き物。

映画は、その舞台をマンハッタンに、時期をオバマの就任前の選挙の時にクローズ・アップする。ショッキングなまでの不況がアメリカを襲い、人びとが経済的にも精神的にも不安とストレスを抱えていた時期だ。つまり、今とさほど変わらないが、もっと安定性を欠き、ストレス耐性が低かった、少し前の私たち。
そう思うと、彼女がビジネスに向かう姿はむしろ、頼もしいものにすら思えてくる。ビジネスでの自分の成功を願っていて、そのための日々の努力もする。戦略を考え、自分の立場を考えもする。

だが同時に、失敗も起こる。プライベートでの失敗だ。彼女にとって堅実であったはずの人格学、占いのようなものだが、それが崩れる。(タコの占いの方が当たるよ)
だがおそらく、彼女はより強くなれるのかもしれない。未来の見えない今という時代、自分の二本の足でしっかり立つことは、誰にとっても困難な時代だ。むしろ自分をしっかり見据えること、それは私たち全員、それぞれにとっても同じ境遇なのだ。

ストーリー・・・
2008年の秋、オバマVSマケイン候補の大統領選で盛り上がるNYの街角。エリートを相手に1時間2000ドルも稼ぎ出す高級コールガールのチェ ルシー。組織に属することなく、自分でビジネスをコントロールしてきた彼女だが、予想外の人物と出くわすことに・・・

ガールフレンド・エクスペリエンス@ぴあ映画生活

 

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コメント(2件)

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    ■製作年:2009年
    ■監督:スティーヴン・ソダーバーグ
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