■18. 息もできない
原題:Breathless
監 督:ヤン・イクチュン
製作:ヤン・サンジン
撮影:ユン・チョンホ
美術:ホン・ジ
編 集:イ・ユエンジュン、ヤン・イクチュン
音楽:インビジブル・フィッシュ
ヤン・イクチュン サンフン
キム・コッピ ヨニ
イ・フアン ヨンジェ(ヨニ弟)
チョン・マンシク マンシク
ユン・スンフン ファンギュ
キム・ヒス ヒョンスン(サンフン甥)
パク・チョンスン スンチョル(サンフン父)
この間、友人がツイッター上でこんな会話をしていた。
ある人が街で見かけた風景だが、
綺麗な若いお母さんが、泣いている娘を連れていた。見ていると突然母親が怒り狂って、泣き叫ぶ娘の髪の毛を引っ掴んだり、思いきり拳固で殴ったりしながら、道を歩いていたらしい。
母親は泣く娘を途中から見もせずに歩いていて、娘は母親の後を追い、周りも見ずに歩くために、途中で危うく車に引かれそうになっていたとか。
この風景を目撃した人は、繊細な人だったのか、もう何もかも嫌になって、こんな人が母親であることを呪い、またこの娘がこんな母親から生まれてきたことをも呪った。そして、何も出来なかった自分を呪った、という。
友人は、私だったらどうする?と質問してきた。
私は、「”シーバーラーマッ!!”って言いながら、全員ぶん殴ればいいんじゃね?」と答えた。
その時はなんだか、それが一番、明快な答えに思えてしまったのだ。
この映画の影響かもしれないけれど(苦笑)
普段、東京に住む日本人がそんな風景を目撃したとしても、見て見ぬ振りをしてしまう方が多いだろう。
この作品の主人公は、少なくてもそんなタイプじゃないが。
主人公は冒頭からずっと最後まで、怒り狂っている。この怒りの激しさに、思わず共感してしまう。
いつも暴力ばかりの男。言葉で人を説得できる技術なんて持っていない。
自分も本当は傷ついていて、父親を激しく呪っている。同時に自分のことも呪っている。もしかしたら、世界全てを呪っているのかもしれない。
でも本当は、心根が優しい、不器用な男だ。それが随所随所で分かるものだから、思わず怒りに満ちた自分を投影して、やりきれ ない気持ちを共有してしまう。
この作品の監督・脚本・主演・編集・・・と、一人で何もかもこの作品の全てを引き受けているヤン・イクチュン。長年この作品の構想を練り続けていて、私財を投げ打ってもいるらしい。
本気汁100%!彼の手垢まみれの作品というわけだ。
私は、この作品の高い評判を前々から聞いていて、とても期待していたせいかもしれない。もしくは、予告で思わずキム・ギドクの『悪い男』を思い描いてしまったせいかもしれない。
なんだか、思ったより満足度が低くなってしまった。
もうちょっと何とか出来たはずなのに、と残念に思う部分が、少なからずある。
ラストの展開もあまりに苦しくて、やりきれないせいもある。
全編暴力的であるところや、暴力のその連鎖にも、なんだか疲弊するばかりに思えてしまった。
勿体無い、と思う。もうちょっと何とかなったハズだったのに、と。
しかし、あの漢江(ハンガン)のシーン!
これは全くもって完璧だった。決して忘れられそうにない。
普通のラブストーリーのように、キスもしない。相手のことを好きだという、その気持すら、打ち明け合うこともしない。
彼らが本当はお互い似たり寄ったりの境遇であること、そんな普通の会話さえしない。
ただ一緒に泣く。泣けない男と女が、一緒に泣く。
このシーンだけ、主人公は暴力を振るわない。
逆に言えば、それ以外は全編暴力的だったけど(笑)
私は、最後、主人公は救われて欲しかったのかもしれない。

幼い頃、父の暴力により母と妹を亡くしたサンフンは、父への憎しみを胸に抱え周囲に暴力的にふるまっていた。そんなある日、サンフンは恐ろしく勝気 な女子高生のヨニと出会う。家族に問題を抱えているヨニに惹かれ、少しずつ変わっていくサンフンだったが・・・
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映画「息もできない」(監督・主演:ヤン・イクチェン)を見た
■製作年:2008年/韓国
■監督:ヤン・イクチェン
■主演:ヤン・イクチェン、キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、他
衝動的に動いた映画連続鑑賞のトリは韓国映画の「息もできない」である。とにかく衝撃的な映画だった。同じ韓国映画「渇き」を見たときに…
映画 『息もできない』
{/m_0058/} 映画 『息もできない』@シネマライズ
製作国 : 韓国
監督・製作・脚本・編集 : ヤン・イクチュン
出演:ヤン・イクチュン、キム・コッピ
オフィシャルサイト:『息もできない』
息もできない Breathless – goo 映画
{/m_0058/} 貸し金の取り立て…
とらねこさん、こんにちは。
最近日本でも家庭内暴力で幼い子供が亡くなるニュースを度々聞く
幼い頃に家庭内暴力を体験し成長すると自分もまた暴力を振るうといわれる。
このサン・ファンもその例だろうか、容赦の無い暴力とその暴力でしか
自分の感情を表せない悲しいまでの性(さが)。
その性を感じ取り惹かれあうヨニもまた家族の問題で深い性を感じている。
暴力を振るうだけの男が漢江の岸辺でヨニの膝枕で嗚咽する
ヨニもこらえきれずに声を殺して泣く
二人の間で何も話し合った訳ではない心の底で通じ合う何かがあるのだ。
暴力の世界から足を洗おうとするサン・ファン
しかし彼が続けてきた暴力は思わぬ暴力の連鎖を呼ぶ。
暴力の嵐と、救われたい魂の叫びが心を揺さぶり
まさに「息もできない」映画でした。
tatsuさんへ
おはようございます♪コメントありがとうございました!
tatsuさんはずいぶんと気に入られた様子ですね。
ただ、あのう・・・他人のブログのコメント欄で、自分のブログに書いた文章を、そのままコピーするのはどうでしょう?
キツイこと言ってスミマセン。。。
とらねこさん、
ご指摘有難うございます
以後気をつけたいと思います。
tatsuさんへ
イエイエ、こちらこそすみません・・・
私のような若輩者から言ってしまいました。
『息もできない』 Breathless | ぬるま湯だらけの映画界に突如”熱湯映画”出現
殴りまくりのツバ吐きまくり。
田舎に住んでいると特に、邦画+ハリウッドの
ぬるいサクセスストーリーばかり
観るハメに陥りやすい。
本当はフランス、イタリア、中国、韓国、
イラク映画、いろいろと観たいのだけれど
なぜかあまり、というかほとんど上映….
息もできない
息もできない’08:韓国◆原題:BREATHLESS◆監督・編集:ヤン・イクチュン◆出演:キム・コッピ、イ・ファン、チョン・マンシク、ユン・スンフン、キム・ヒス◆STORY◆友人が経営する取り立て屋で働いているサンフン。その容赦ない取り立てと暴力は時には仲間にも向けら…