■16. ニューヨーク、アイラブユー
’09年、アメリカ
原題:New York, I Love You
監督:イヴァン・アタル、アレン・ヒューズ、岩井俊二、チアン・ウェン、ジョシュア・マーストン、ナタリー・ポートマン、ブレット・ラトナー、ファティ・アキン、シェカール・カプール、ミーラー・ナーイル、ランディ・バルスマイヤー
製作:エマニュエル・ベンビイ
『パリ・ジュテーム』が大好きだった人には、自信満々でオススメできる作品。
『パリ・ジュテーム』の製作、エマニュエル・ベンビィがこちら、ニューヨーク版も♪ なんていう、もう「間違いナシ」の折り紙つき。
実は私、『パリ・ジュテーム』は大好きだけれど、少々見るのが大変でもあった。あの、5分ごとに短編の話が切り替わるところが、「全てを覚えて帰りたい」自分としては、ヘトヘトになってしまったので。今回もまた短編がたくさん入っているのだろうなあ、と予想していたので。
ところがこちら、10人の監督さんの作品を、11人目の監督さん、ランディ・バルスマイヤーが全体を一つにまとめるように編集する、という役割を担っているの。
おかげで、バラバラだった一片一片が、まるで一つの群像劇であったかのように思わせるし、全体的なムードの調整(これが何より素晴らしい!)を感じさせるものだから、何度も見たいような気持ちにさせられてしまう。
『パリ・ジュテーム』よりは絶対落ちるだろう、とタカをくくっていたのに、こんなにも素晴らしい出来に仕上がってるなんて!
『パリ・ジュテーム』を見た人には、思わず思い出してしまうようなエピソードや、その他いろいろな作品を思わず心に思い描いてしまうし、二倍も三倍も嬉しい気持ちになってしまった!
まずはじめの導入部分で、ニューヨークのタクシーの中の会話から始まるとこ、あそこね、思わずジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』のニューヨークのくだりを思い出しちゃうの。ウィノナ・ライダーの役が、タクシー運転手だったアレ。
それから、街角で女性をいきなりナンパする、イーサン・ホーク主演の部分は、イヴァン・アタル監督。いよいよ物語が始まるその時に、街角でいきなり誰かと誰かが出逢う。こうしたブレイクスルー、というのが上手い!
ここでの会話はみんな目を開けてしっかり聞いていると思うのだけれど、このイーサン・ホークの演技の確かさ!改めて私は、この人の台詞回しの上手さに恐れ入った。本当にこういうイーサン・ホークが最高!
最後まで来て、オチでアッと驚かせるのがなかなか軽妙。
そうそう、イーサン・ホークのニューヨークモノ、と言えば、去年TIFFにて『NYスタテンアイランド物語』を見たけれど、そこでの彼もなかなか良かったので、公開されたら是非とも見て欲しいな♪
それから、ナタリー・ポートマンがユダヤ人役を演じている、ミーラー・ナイール監督作品のもの。
「人種の坩堝(るつぼ)」と言われるニューヨークらしく、人種の違い・宗教の違いを超えて、結婚する時に髪を剃る・・・という一編。
こういう作品が一つないと、私的にはきっと満足できなかった。様々な宗派を超えて繋がる人々、こうしたところが欲しいから。
そう言えば、『パリ・ジュテーム』にも、剃髪の女性に恋する作品があったので、それも思わず思い出したり。
ちなみに私が一番大好きで、もう一度見たい!と思わせたのが、シェカール・カプール監督の作品。ホテルに死に場所を求めてやって来た往年の女優の話。
これはもともと、アンソニー・ミンゲラ監督がメガホンを撮るはずだった一品、とのこと。あ、そう言えば作品全体としても、「アンソニー・ミンゲラ監督に捧ぐ」という一言で幕を閉じていたっけ。
この作品でベルボーイを演じているのがシャイア・ラブーフなのだけれど、彼が文句言えないぐらい、何とも完璧でね。
もともと演技は上手い人だと思うのだけれど、いやあ、これがさすがの演技力!情緒あるカメラワークの作品なので余計、彼の演技が少しでも下手なら浮いてしまうところだったのに全くそうはならず。
普段ハリウッド大作映画にばかり出ているのが思わず勿体なく思えるほど、彼の演技は上手で舌を巻いた。(だから私はもともと好きなんだけど)
とある1シーンが本当に息をのむほど美しいショットで、最高!なの。思わず胸がいっぱいになってしまった。
物語が途中から少々変わった展開を見せるところも好み。こういう一品が、短編の醍醐味でもあり。作品の出来としても本当に一級品。なんとも素晴らしかったー。
次に好きなのは、ファティ・アキン監督作品のもの。
スー・チーがみすぼらしい格好をしている中華料理屋の店員であるにも関わらず、画家のモデルとして選ばれる、というもの。
生活の疲れや貧しい生活が顔に出ているのに、そこにリアルな女性の色香も同時に感じさせ見事!
しょうゆを使った絵の美しさにも、思わず心を奪われるし。
(ところでこれって、皆、学生時代にやらなかった?)
あと印象深いのは、ブレット・ラトナー監督作品(なんと!?)。
車椅子の少女を父親の要望により、プロムでエスコートする青年の話。
これまた軽妙洒脱で好きな作品。
本性の見えないニューヨーカー、だからなんだか納得がいく。
誰得、って話になるなら、結局一番美味しい思いをしたのは青年だから、まぁいっかwと思えるよね。
それからもう一つ、私が好きだったのイヴァン・アタル監督の一品。
クリス・クーパーとロビン・ライト・ペンのもの。
レストラン内がどこも禁煙なので、通りに出て煙草を吸うのだけれど、そこで会話を交わす一人の中年の男と女。
その場限りと思わせておいて実は彼らは夫婦だった・・・という話。これもセンスの光る作品で好き!
何がいいって、ロビン・ライト・ペンが素晴らしいもの。
場面ごとに顔を変える大人の女性、という印象のロビン・ライト・ペンの、抑えた色気がまずいいでしょ。
どことなし、孤独感や倦怠感すら思わせながら、女性の底知れな
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コメント(9件)
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ニューヨーク、アイラブユー
『出会いは最高の“贈り物” 〜NYの街角から生まれるさまざまな形の「愛」の物語。〜』
コチラの「ニューヨーク、アイラブユー」は、タイトルから分かるように2006年に製作された「パリ、ジュテーム」のニューヨーク版なのですが、こちらは単なるオムニバスではなく….
ニューヨーク、アイラブユー
『パリ、ジュテーム』をプロデュースしたエマニュエル・ベンビイが、今度はニューヨークを舞台に作ったオムニバス映画。『パリ』が好きだったひとなら絶対気に入るにちがいない、これまたステキな映画であります。
『パリ』もそうですが、『ラブ・アクチュアリー…
こんにちは。
私もこの映画大好きです〜
ニューヨークの街で繰り広げられる人間模様がとってもステキ!
私的に好きなのはやはりイーサンホークの演技。久しぶりに彼らしい役(?)だった気がします。
ロビン・ライト・ベンもいいですね〜(自然な演技)
そして老夫婦のお話も・・・あの歩き方!
またニューヨークにまた行きたくなりました。
cinema_さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
いやあ、なんとかUP出来ました・・・。せっかくだから書きたいな、なんて思ってしまって。
cinema_61さんもこの作品お好きだったと聞いて、とっても嬉しいです^^*
cinema_61さんはたしか、イーサン・ホークがお好きなんですよね?
彼は私はリンクレイターに実力を買われているから、特別視してしまうんですよね。
思わず『ビフォア・サンセット』を思い出しました♪
そうそう、私東京国際映画祭で見た、イーサン・ホークが出演している作品がありますので(『NYスタテンアイランド物語』)、是非ともこちらをご覧になって欲しいなあ♪なんて思います。
ロビン・ライト・ペン大好きです。私はちなみに『フォレスト・ガンプ』から。
あの老夫婦の話はなかなか好きな作品でした♪
こんにちは。
イーサンホークのマシンガントーク凄かったですよネ。とらねこさんのおっしゃるとおり、ロビン・ライト・ペンとシャイア・ラブーフの演技力は素晴らしかったです。あとやっぱりナタリーかな。俳優としも監督としても才能があるなんて。まるでショーン・ペンのよう(笑)
きらり+さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
>イーサン・ホークのマシンガントーク
ですよねw あれがリアルなら、私だったらものすごい引くんですけど(笑)
>ナタリー・ポートマン
私も実は大好きですw
まさか、監督までやるとは思いませんでしたよね。
しかしショーン・ペンみたいは言い過ぎぢゃ?ww
とらねこさん、お久しぶりです!
私もこの作品、凄く好きでした!ニューヨーカーとして、超厳しく見てやろう!って思いながら見たんですが、惚れてしまいました。
私もとらねこさんが気に入った、ミンゲラ監督の作品がとっても綺麗でびっくりしました。あと、ロビン・ライト・ペンとクリス・クーパーのやりとりもとっても格好良くて素敵でした!
岩井俊二さんの作品も好きでした。日本人から見たニューヨークってどうなんだろう?って興味があったんですが、岩井さんはまたちょっと違った感覚で撮りますよね。
次はどの町の映画を作るんでしょう??
アヤさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
わーい、アヤさんもこれ好きだったんですね?
いやー、私もすっごく気に入ってしまって、アヤさんが見ていたらいいな、って思ってたんで、コメントとっても嬉しいです!
アハハ!「ニューヨーカーとして超厳しく見てやろう」って、アヤさんらしい(笑)
ミンゲラ監督は、監督をするはずだったけれど、急逝により、シェカール・カプール監督がメガホンを撮ったのでしたよね。
私もこれが一番好きでした。この作品を見たいがために、もう一度全部見たくなっちゃうぐらい。
ロビン・ライト・ペンとクリス・クーパーのやり取り、最後に来てびっくりする展開でしたよね。
イヴァン・アタルの監督作品て、短編だとこんなに軽いんだ、って好印象でした。
岩井俊二監督のものも、本当良かったですよね!
ああいう出会いって、日本だったらもっとエグい感じになりそうなのに、カッコいいからやられてしまいましたw
ニューヨーク・アイラブユーの次の作品、エットどこだったっけ
確か、『ソウル、カムサハムニダ』だったような?違ったかしら・・・
ニューヨーク、アイラブユー
『ニューヨーク、アイラブユー』をTOHOシネマズ・シャンテ・シネで見ました。タイトルから、なんとなくお洒落な映画の雰囲気が伝わってきたからですが。
(1)この映画は、10人の監督がそれぞれ別個にニューヨークを舞台にした愛のドラマを撮影するというやり方で制作さ…