■14. 獅子座
’59年、フランス
原題:Le Sugne du Lion
監督:エリック・ロメール
脚本:エリック・ロメール
製作:クロード・シャブロル
撮影:ニコラ・エイエ
音楽:ルイ・サゲール
ジェス・アーン ピエール
ファン・ダウデ ジャン・フランソワ
ミシェル・ジラルドン ドミニク
エリック・ロメールの追悼特集を、遅らばせながら初鑑賞。R.I.P。。。
おくりびと・・・ならぬ、おくれびと。相変わらず。
エリック・ロメールの初長編作品となるこの『獅子座』、ヌーヴェル・ヴァーグの記念碑的作品と言われているという。同じ年にフランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』、ゴダールの『勝手にしやがれ』が作られた、とのこと。
伯母の遺産が転がり込むことになった、売れない作曲家のピエール。一夜にして大金持ちになった、と友人を招いて散々吹く。そりゃもう、飲めや歌えのドンチャン騒ぎ。
ところがこの後に、遺産が手に入らないことが判明する。なんともう一人居る従弟が全てを相続することになり、今度は一文無しに・・・と、こういった話。
なんでも、この作品でプロデューサーを務めているクロード・シャブロルは、伯母の遺産でプロダクションを興したのだとかで、この話からヒントを得たのだそうな。
しかも、ゴダールが出演しているというのにも注目の今作(同じレコードを何度もかける役)。
物語設定が面白そう、と思うでしょ?!
・・・いや、これが本当に面白かった。
こんなシンプルかつ昔話のような設定から、こうしたテイストの映画が生まれるなんて。
シンプルな設定であるからこそ、余計に大胆さやドラマチックさ、そしてカメラの繊細さは却って際立って感じられる、という・・・なんとも見事な作品なのだ。
冒頭近くで「自分は大金持ちになった」と友人に吹聴し、連日連夜のパーティをして騒ぐ。だが、招かれた友人の中に、こう言う人が居る。
「もっと若ければ、彼も才能を生かせたかもしれない。だが、40歳近くという年齢の今頃になって金を得ても、彼は遊んで過ごすだけになってしまうだろう。金は、彼を駄目にするだけだろう」と暗い顔だ。
一方、当の主人公ピエールの方は、
「俺の40歳の誕生日のその日に、自分の運が良いか悪いかが分かることになるだろう、そう占い師に言われたことがある。40歳の誕生日まではあと1ヵ月半あるが、俺は強運の持ち主だ、と分かった。自分は獅子座の生まれだからだ。・・・」
などと言って酒を煽る。
私はここで俄然、とても楽しみになった。
この先の物語を、どういった目線で主人公の運命を見守るべきか、
改めて好奇心にスポットライトが当てられたかのように感じたから。
自分にそのように大金が舞い込んできたら、それは本当に強運の持ち主、と言えるのだろうか?
湯水のようにお金を使える権利を得、働かずして怠惰な毎日を過ごすことが、本当に幸せに結びつくんだろうか?などと思ったりしてね。
物語は急展開し、遺産が入ってこない、と分かる。そののち、ピエールは雲隠れしてしまう。アパートは追い出され、頼るべき友人は皆、バカンスで居ない、という悪い時期が重なる。
とうとう浮浪者になり、毎日毎日ただパリという街を、徘徊して過ごすピエール。まるで永遠とも思える長い時間、ぐるぐるぐるぐるただパリを歩く、長い長い徘徊のシーン。
言葉もなく主人公の姿を捉えた日々は、虚ろに過ぎ去り、ポン・ヌフやカフェ・ドゥ・マゴといった、眼に映る風景も、まるで違った風景、角度を見せだす。この瞬間は、本当に見事なものだった!
私は、この長い徘徊のシーンの途中から、途端に眼を輝かせて、ぐっと前のめりになって、ユーロスペースの椅子を座りなおした。
こいつはすげえ!!と拳をグっと握り締めて。
ラストまで言ってしまうネタバレはどうかと思うので、いつもは避けるのだけれど。
この先、ネタバレなので読みたくない人は飛ばしてね:::::
の
先
、
ネ
タ
バ
レ
:
:
:
:
ピエールと行動を共にしていた浮浪者が、最後に、
「彼は必ず戻ってくると約束したんだ。明日来ると言ったんだ。彼はきっと来るよ!」
と言って終わる。
自分以外の何かをあてにする人がここにも一人・・・。
ところでピエールは占い師に「自分の運が、良いのか悪いのか、自分の40歳の誕生日に分かる」と言われていたが、彼は最高と最悪を経験した、ということになるわけだ。
彼は変わったのだろうか?
ラストに道端で、遺産が自分の手に下りたことを知らされ、その通りにいる人全てに
「みんな俺の家に来いよ!」などと声をかけるピエール。まるで変わっていないかのように思える。
だが今後の彼はどうだろう?彼が「最悪」の方を全く経験することなく過ごしていたら?
おそらく彼は以前とは違った彼であるに違いない。だがそこは描かれてはいない。そしてそれは、どのように変化したのだろう?
そのクエスチョンは、ラストで置いてけぼりにされた、もう一人の浮浪者の姿だ。
「彼は、明日きっと来るはずだ」。
ピエールは明日、ここに来るのだろうか?
観客それぞれの中にクエスチョンが投げかけられたまま終わるラスト。
こういうラストがたまらない。

売れない作曲家・ピエールは、思い掛けず莫大な遺産を相続できると知り、友人を招いて祝杯を上げる。ところがその後相続話はおじゃんとなり、40歳の誕生日を目前に夜逃げしてしまう・・・
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コメント(2件)
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ついさっき玉ねぎをスライスしていて指先を逝っちまいました、、、だから中指一本でこれをしたためています。。。
>自分の運が、良いのか悪いのか、自分の40歳の誕生日に分かる
当時39歳だったロメールの心境をつづったのだろうか。。。そんな大切な勝負の長編第一作に、残念ながらブタ男を主人公に選んでしまったロメールの反骨精神。。。
ゴダール、トリフォが同年のみずみずしいデビュー作で世界的名声を博したのと裏腹に、『獅子座』、総スカン。。。そのとき、ロメールは悟ったんじゃないでしょうか。
ブタ男が主人公じゃ、ダメだって。。。後のガーリシャス路線がそこで、用意されたんだと思います。。。
ボクは大好きですよ。あのブタくん!!
ブタくんがジーン・ハックマンにしか見えないんだよなぁ。そんで靴の底がペランとめくれたりして、、、もう『スケアクロウ』じゃん。早すぎたアメリカンニューシネマといっていいんじゃないだろうか。。。そういえばアルパチーノとハックマンもあの後、会えたのだろうか、、、
最初のバカ騒ぎのときに、鉄砲撃つシーンあったでしょ、獅子座の金星に向けて、あれのバチが当たって、ちょっと悲哀をなめさせられたという、御伽噺のような気がするなぁ。。。
裏山&さんへ&
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
・・・何ッ!中指一本でこれをしたためている・・・それが中指である必然性について、私は君を罵倒すべきなんだろうか?
それとも、広い心で「ハッハッハ、面白いジョークだなあ」として片付けるべきか、否か?^^::
ああそうなんですね、ロメールは当時これを作った時、39歳だったんですね。なるほど!
そっか、ロメールのこの作品は総スカンだったんですか。
私はかなり面白かったけど。でも、今にして思えばそのスタートが良かった、ってことなのかな?
あそうそう、ロメールに関してなんですけど、君が教えてくれたロメール評がとても面白かったので、見てみよう、という気になったんですよ・・・。
ジーン・ハックマン、ああ、確かに似てるよ!でもさ、鼻が上を向いていなかったら、そうは見えなかったかもしれないのになあ。・・・残念。
靴底がペランペランは良かったな。
それを、ハンカチで結んじゃったりしてね。汗ジミがまた、リアリティあるんだよなあ。油ジミとかもね。
>最初のバカ騒ぎのときに、鉄砲撃つシーンあったでしょ、獅子座の金星に向けて、あれのバチが当たって、ちょっと悲哀をなめさせられたという、御伽噺のような気がするなぁ。。。
おっ!それ、かなりいいんでない?鋭い意見ですよ。うん。。。それはかなりいい感じだ。
いやー、面白かったよ、この話。
あの放浪のシーンの長さが実に良かったよね!
いやあ、フランス映画も、面白いものがあるんだなあ!