■10. 誰がため
’08年、デンマーク・チェコ・ドイツ
原題:Flammen og Citronen
監督:オーレ・クリスチャン・マセン
脚本:ラース・ブレード・ラーベク
制作:ラース・K・アナセン
トゥーレ・リントハート フラメン
マッツ・ミケルセン シトロン
クリスチャン・ベルケル ホフマン
ハンス・ツィッシュラー ギルバート
スティーネ・スティーンゲーゼ ケティ
ピーター・ミュウギン ヴィンター
ミレ・ホフマイーヤ・リーフェルト ボーディル
この映画の、宣伝文句がなかなかグッとくる。
「ただ“生きる”ためなら降伏を、
だが、“存在する”ためには戦いを・・・」
「夢見たのは自由、貫いたのは信念」
「純粋すぎるが故、戦いを選んだ男。
守るべき者のため、戦いを選んだ男。」
これらのどれもに、うーむ、なんて思わず唸ってしまう。
そんな風に、思わず名文句が浮かんでしまうような、印象深い映画だった。名文句を探しだすこの配給担当者も、なかなかじゃない?ナンテ。
ナチス・ドイツの占領下のデンマーク。レジスタンスとして行動する、フラメンとシトロン。彼ら二人には、思わず夢中になってしまった。
どちらかと言うと、エンターテイメント性を排除したタッチ。ドラマティックさを演出するというより、ノワール映画のような味わい。これが、圧倒的に“正しい”やり方なのだ!
姑息な手段で盛り上げることのないこの自信は、なぜなら、二人の人生は十分にドラマ性と不条理性に満ち満ちているから。
背後の事実関係を並べ立てることはせず、二人の圧倒的なキャラクター性を描くことに終始している。そして、ふと気がつけば、彼らが一体何と闘っているのか、それらの姿が見えないことに気づく。「彼ら」が「社会」の中で輪郭を持って浮かび上がるかのようだった。その背後の世界そのものが闇の濃さを増していくのとは対照的に。
信念を貫く、というのはおそらく、彼らが唯一持っていたであろうその生きる指針だったはずなのに。
彼らは、味方に疑念を持った時から、何かが変わってくる。
この「何か」、というもの。掴みどころのないこれらが、もしかしたら人生そのもののような、そんな気持ちにさせられた。
だからこそ、物語の後半になるに従って、次第に増してくるように感じられる、彼らの未熟さ、不完全さを私たちは愛してしまう。その大胆不敵さに心を奪われた後で、あれほど無防備に人を愛する姿や、人を殺めるのを躊躇する姿に、驚きの思いでいっぱいになった。

1944年のデンマーク。ナチス・ドイツの占領下で、地下抵抗組織に所属する通称フラメンと相棒のシトロンは、ゲシュタポとナチスに協力する売国奴の暗殺 を任されていた。自由を取り戻すため次々にターゲットを射止めてゆく大胆不敵なフラメンにはゲシュタポから莫大な懸賞金がかけられ、一方、温厚な家庭人の シトロンは人を殺すことに苦悩していた。やがて、ある暗殺指令によって2人は組織への疑念を抱き始める・・・
2010/02/25 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物
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コメント(2件)
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>彼らが一体何と闘っているのか、それらの姿が見えないことに気づく
本当に“正しい事”をしているのか、本当にしては“正しいターゲット”なのか、彼ら自身も自分たちが闘っている相手に疑問が湧いたりしていましたよね。
>エンターテイメント性を排除したタッチ
この作品に最適な見せ方だと感じました。
派手な演出の作品も好きだけれど、こんな作品も好きです。
日本で公開されたことが(日本語字幕で見られたことが)、本当に嬉しかった一作!
哀生龍さんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
>本当に“正しい事”をしているのか、本当にしては“正しいターゲット”なのか、彼ら自身も自分たちが闘っている相手に疑問が湧いたりしていましたよね
そうなんですよね。だからこそこのタイトルをつけたのだと思うのですけど、なかなかいい日本語タイトルだったな、なんて思いますね。
私もこのタッチ、すごく好きでしたー。だんだん面白くなってくるあの感じもまた好きだったりしました。
本当、これは見られて良かったですよね♪