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■5. アバター

アバター’09年、アメリカ
原題:Avatar
監督・脚本:ジェームズ・キャメロン
製作:ジェームズ・キャメロン、ジョン・ランドー
製作総指揮:コリン・ウィルソン
撮影:マウロ・フィオーレ
美術:リック・カーター、ロバート・ストームバーグ
編集:スティーブン・リフキン、ジョン・ルフーア、ジェームズ・キャメロン
音楽:ジェームズ・ホーナー

この作品を見ると、3D映像とこれまでの映画のあり方について、思わず考えてしまうものがあった。
3D映像を目の前にすると、観客は自分が物語の対象へと、より主観的に入っていく映像体験が出来るのだろうか?
マクルーハンのメディアの法則で有名になったという、反射光透過光の意義について、分かりやすくまとめていた著書があった。丸田一氏『「場所」論—ウェブのリアリズム、地域のロマンチシズム (叢書コムニス08)』を引用させていただく。(松永英明氏のサイト『絵文録のことのは』を参照)。

まず、確認したいのが、「透過光」がもたらす「距離埋没効果」である。パソコンのモニター、携帯電話をはじめ、ウェブ空間のインターフェースは、ほ とんどが透過光によるスクリーンである。スクリーンにはブラウン管や液晶、有機ELなど様々な映像表示方式が採用されているものの、どれも発光源を持ち、 スクリーン表層を透過する光線で画面を表示することに変わりない。透過光による表示は、反射光の表示に比べて現前性が高く、利用者の身体とスクリーンとの 間に横たわる十数センチ〜数十七ンチという距離を埋めてくれる。

透過光が強い現前性をもたらすことは、マクルーハンも『メ ディアの法則』[★125]で指摘している。マクルーハンは、映画の観客を二分して、一方には普通の映画と同じように反射光によって、もう一方には透過光 によって同じ映画を鑑賞させるというハーバート・クルーグマンの実験を取り上げている。反射光のグループの感想は、映画を物語や技術に注目して理性的に分析し、批判する傾向が優位を占めたのに対して、透過光のグループでは、好き嫌いという情緒的で、主観的な反応が優位を占めた。

反射光の映画において観客は、スクリーンと身体との物理的な距離を保ったまま、対象としてスクリーン上を見ている。この距離が映像を対象化し、観客に分析 的で批判的な見方を与える。一方、透過光のテレビでは、スクリーンを越えて到達する光に視聴者が深く差し込まれてしまうので、映像は実際のスクリーン面か ら離れて、観客の目や身体を擬似的なスクリーンにして現前する[★126]。このように透過光の場合、観客は対象とうまく距離をとれず、場合によっては対 象と位置的に重なってしまうことが、観客に情緒的、主観的な見方を与えるといえるだろう。

ところで、パソコンのスクリーンを眺めていても発見できない誤字脱字が、プリントアウトすると容易に見つかるという経験は、誰もが一度はあるのではないだろうか。これも「反射光と透過光」 である程度説明ができる。スクリーンの透過光で文字を読んでいても見逃しがちな誤字脱字は、プリントアウトした紙の反射光で読むと、対象を分析的、批判的 に捉えることができるので、より発見されやすいといえる[★127]。

このように現前性の強い透過光が、ウェブ空間のイン ターフェースに用いられているのは偶然ではないだろう。現前性の高い透過光は、スクリーンと利用者の身体との。間にある物理的な距離を埋没させ、スクリー ンを没対象化させてしまう。これがスクリーンというインターフェースを準没入型に変えるのである。

デジタル3Dの映像技術がいかに最新のものになろうとも、反射光を用いて上映されたものであるなら、3Dであるからという理由のために、「対象により深くへと入っていく」、という特性を持っているとは言えないのでは?
むしろ3Dであるからこそ、眼前の対象に対して、「自分との距離」、というものについて、常に意識させるのではないか、と私は思う。

自分が映像の世界へ入っていくために、より主観的となりえるもの、その要因は、では何だろう?私は、「いかにその物語の世界へ入っていくか」、という昔ながらの「想像力の世界」ではないか、と考えたりもする。

※’10.2.12追記
その他 参照HP 「箪笥飛翔 -評論-」

(み さま のコメントにより。みさま、ありがとうございました!! )

 

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コメント(54件)

  1. アバター

    アバター / AVATAR
    かの超ヒット作をレンタルでやっと見ました。
    2009年製作 アメリカ映画
    製作・監督・編集・脚本:ジェームズ・キャメロ??.

  2. アバター-映画感想:2010-

    監督:ジェームズ・キャメロン
    出演:サム・ワーシントン、シガニー・ウィーバー、ゾーイ・サルダナ、他
    評価:90点
    青い顔をした異星人「ナヴィ」たち。
    誰かに似ていると思ったら経済評論家の勝間氏に少し似ている。
    それよりも会社の同僚の埴生にとにかくそっくりだ。…

  3. 凄いな~とらねこさん。
    映画の内容じゃなくて3Dうんぬんになってるじゃないですか(笑)
    でも、勉強になります。
    やはり理系女子であり文学にも強かった。
    この世で最強の理系ジャーナリストになれますよ。

  4. itukaさんへ

    こちらにもどうもです♪
    あー、懐かしいなココ。自分でも何書いたか忘れているのに、こうやってすぐに思い出すことができるのが、ブログの強みですよね。

    ところで…前から、言おう言おうと思っていたのですが、私理系じゃないですよ?
    思いっきり文系ですぅー。
    二度大学を卒業したけど、二度とも文系。

    確かに映画の内容はさておき…な感想になってますね。
    まあでもこの映画、大した内容でも無かったし!




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