■3. 牛の鈴音
’08年、韓国
監督・脚本・編集:イ・チュンニョル
プロデューサー:コー・ヨンジェ
撮影:チ・ジェウ
音楽:ホ・フン、ミン・ソユン
素晴らしい映画を見た、という満足感でいっぱいだ。
ここにあるのは、最低限のものだけ。
現代文明に住む私たちが、当然のように享受しているものたち。それらが、ここにはことごとく足りていない。
それなのに、ここにあるものが全てなのであって、要らない余計なモノたちは、全て排除されている。そんな気にすら、私はなった。
シンプルな生の「原型」。これらに私は、感じ入ってしまったのだ。
(次に見た『アバター』が心に響くわけがない)
おじいさんは、牛に悪いものは与えられないから、と、田んぼに一切薬品を撒こうとしない。当然ながら、雑草が次から次に生える。するとそれらを全て手で抜く。
考えられないほど労力の要る作業で、見ているだけで気が遠くなる。彼らの仕事に終わりが来ることはない。年を取って、足が悪くなってしまったおじいさんは、体を休めるべきであっても、牛のために自分の体に鞭打って動く。
牛もまた、おじいさんが生きている限り、休むことは出来ない。
物語の初盤の方で、老いた牛を引退させ、新しい若い牛を使うことも考える。だがしばらくすると、おじいさんは、老いた牛を再び引っ張って、田んぼで働かせようとする。まるで、休むことは死ぬ時だ、と心に強く決意しているかのように。当然ながらおじいさんは、自分と牛と重ね合わせていて、生死を共にする決意を強くしているのだ。・・・口数の少ないおじいさんだけれど、いやだからこそ、見ているだけで伝わってくるものが、いかに多いことだろう。
これは「スローライフ」などというユルい言葉で表されるようなものでは決して無かった。農作業を手伝おうとする息子たちが一人もいない、それだけの話ではない。そんな思いが消えなかった。
失われゆくものがここにある、という壮絶さ。その牛とおじいさんを私たちの世界が失ってしまったら、今まさに何か大事なものを失ってしまうのではないか、そんな気すら覚えた。
牛の鈴音は、あまりに美しく、全編を通して鳴り響いていた。
作品の終盤にそれが止むことを、次第に畏れるような気持ちにすらなった。
ドキュメンタリーであるのに、ここまで完璧な映画があるものだろうか。こんなに美しいものをかつて見たことがあっただろうか。
そんな気持ちでいっぱいになった。
牛を見ては泣き、おじいさんを見ては泣き、おばあさんを見ては笑い。

韓国で社会現象になるほどの大反響を呼び、記録的な大ヒットとなったドキュメンタリー。老いた農夫と、一家を支え続けた一頭の牛の関係を見つめる。トラクターが当たり前の農作業の時代になろうとも、長年苦楽をともにしてきた牛を信頼し、決して手放そうとしはしないおじいさん。人間と動物の壁を越えたような双方の強い信頼関係が深い感動を呼ぶ。・・・
2010/01/20 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物
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映画 『牛の鈴音』
{/m_0058/} 映画 『牛の鈴音』@シネマライズ
製作国 : 韓国
監督・脚本・編集 : イ・チュンニョル
出演 : チェ・ウォンギュン 、 イ・サムスン
ジャンル : ドキュメンタリー
牛の鈴音 – goo 映画
韓国で2009年1月に公開されると、ドキュメンタリー映画としては…
とらねこさん、今晩は。
とても大切な何かを思い出させてくれた映画でしたね。
ハリウッド大作「アバター」とは何もかもが対極の位置になる作品だ。
方やハリウッドの最新技術と大金をつぎ込んでの大作ならば
こちらの方は大きな事件も起きないし、政治的なメッセージも無い
牛と爺さんだけがよろよろとした足取りで
ゆっくり歩く美しい田舎の景色をのんびりと描写している。
今の日本には残っているのだろうか
忘れてしまいそうな暖かい何かが胸に残る。
tatsuさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございます!
おお、tatsuさんもこの作品、ご覧になりましたか!
それを聞いてとってもうれしいです。tatsuさんでしたら、きっとこの映画の良さ分かってくださると思うので。
そうですね、アバターとはいろんな意味で目指しているところの違う作品でした。
この作品は、本当に心に残るいい映画でしたよね。
「万感の思いがした」、
牛やおじいさんを見て、あの美しい鈴音を聞いて、
目の前の風景を見ていたら、
自分が映画に望むものは、すべてここにある。
そんな気すらしたものです。
牛の鈴音(2008)OLD PARTNER
その老いぼれ牛は、お爺さんと一緒に30年も働き続けた。
京都シネマにて鑑賞。「牛の鈴症候群」と呼ばれる社会現象を起こしたドキュメンタリーだということもまったく知りませんでした。おそらく一昔前なら、ここまでブレイクしなかったのではないかと思うのです。殺伐と…
とらねこさん
またこちらにも。。。
おじいさんと老いぼれた牛の強い絆にホロリ。
そしておばあさんの名語録に笑い。。。
あくまでもシンプルに日々の生活を写し
だしただけなのに、感動させられました。
良い映画でした。
本当にアバターとは対極の作品ですよね。
牛の鈴音
韓国ではミニシアター系とかインディペンデントとかいう作品がヒットすることはほぼないといっていいのに1位になったというドキュメンタリー。自分も足の障害などでガタがきているお爺さんが、もう普通なら寿命を越えているような年寄り牛を耕作や草運びなどに使う。効率が…
mezzotintさんへ
こちらにもコメントありがとうございました〜♪
mezzotintさんもこの作品をご覧になられたとは、とっても嬉しいです。
そうなんです、セリフを書いたわけではないのに、ドキュメンタリーなのに、こんなに面白く素晴らしい作品が出来上がるなんて、本当に驚くばかりです。
シンプルなのに、なんて力強い作品だったんでしょうね。
私は、アバターの前にこれを見てしまったので、アバターがあまり感動出来なくなってしまったんですよ
とらねこさん、こんにちは。コメント&TBありがとうございました。
この映画、とらねこさん昨年のベストに入れてらっしゃいましたよね。
滑り込みで。私は今年の初映画でした。
働くことが生きることなんだ、と教えてくれた映画でした。
休む時は死ぬとき、、壮絶ですよね。
私なんか、(当然ですが)まだまだだな〜って思いました。。
ところでゼロ年代ベスト、私も考えてしまいました。
TB届いてるかな? 『ヘドウィグ』入れましたよ♪
真紅さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
そうなんです、これBESTに入れるぐらい大好きになった作品でしたよ。
>働くことが生きることなんだ、と教えてくれた映画でした
>休む時は死ぬとき、、壮絶ですよね
本当ですよね・・・。私は時々怠け者だったりして、反省してしまいました。ちょっと大変だとついつい文句を言いたくなってしまったり・・・。このおじいさんと牛に、教えられるところがたくさんありましたよ><
でも、頑張ろう!って気持ちにもなっちゃったんですよね。
よーし、今日から頑張ろう〜っと!
ゼロ年代BESTもこの作品も、TBは届いていないようなのですが、どうやらブログの調子がイマイチなのか、相性が悪いのか・・・すいません
『牛の鈴音』はリンに似ている
毎日、野良仕事を欠かさない年老いた父。
「こき使われてばっかりだ」と愚痴り続ける母。
『牛の鈴音(すずおと)』は、2人の日常を綴る??.
ウルフの鈴音
「ウルフマン」
「牛の鈴音」
【映画】牛の鈴音
2008 韓