ピリペンコさんの手作り潜水艦 ▲177
’06年、ドイツ
原題:Mr. Pilipenko and His Submarine
監督:ヤン・ヒンリック・ドレーフス、レネー・ハルダー
製作総指揮:ボルフガング・クラーマー、フーベルト・マラディ
製作:イェンス・フィンテルマン、トーマス・ゼーカンプ
撮影:フロリアン・メルツァー
音楽:ハインリヒ・ダーゲッフェア、フランク・ブルフ
出演:ウラジーミル・アンドレイェヴィチ・ピリペンコ、アーニャ・ミハイロヴィチ・ピリペンコ
見つけた!人生を楽しむのが上手な人。
ウクライナの小さな田舎の村に住むピリペンコさんは、自作の潜水艦を作るのが趣味。趣味とは言え、独学で潜水艦を作って30年、試行錯誤を重ねていくのには、頼もしいというか何というか。
リタイアライフなのだから、モチロン贅沢を出来るわけでもないのに、その少ない年金を、潜水艦につぎ込んじゃうんです。時に、年金より高額であってもネ。
ドキュメンタリーではあるのだけれど、ナレーションを極力排した、あくまで映像で見せようという、この映画の手法。私はこれに、心から共感を覚えるばかり。
そうなのよ、そうなのよ!嫌なんですよ、安易なナレーションはね。
ピリペンコさんの生き方を、その様を、もし言葉で述べるなら、もはや映像なんて要らないでしょう。数行で終わるんですからね(笑)だからこそ、それをせず、ほのぼのと見せていく、ここが何より素晴らしいポイント。
そう、ピリペンコさんを表現するのにむしろ大事なのは、そのユルユルな空気感。
彼のその幸せそうな微笑は、このテンポなくしてはあり得ない。私まですっかりほのぼの、ユルユルな気持ちになれちゃったのだ。
緑と青の、いかにも自分で塗装したかのような、ピリペンコさんの愛する潜水艦。
彼が潜水艦に潜れば、地元の人が一堂に会して、みんなで歌ってパーティをするのだ。
歌も、日本みたいに、カラオケなんて便利なものは使わず(笑)、楽器だって無くても、みんなで声を張り上げて歌を歌っちゃう。ああ、いいなあ、地元の人も、なんとも楽しそうよ。
ピリペンコさんの家を映すのに、カメラはガレージを中心に据える。
ピリペンコさんが潜水艦をここで30年間という長い間、修理を続けた場所だ。ガレージの一角には、テーブルと椅子がある場所もあって、窓だってガタピシでオンボロだけど、ここで大勢の人が集まって、パーティだってやれちゃうんだ。
なんだか、ピリペンコさんのそのガレージを見ていると、心に来るものがあった。
これが人間の生活、これ以上何か必要なものでもあるのだろうか?
愛すべき生涯の趣味、「生き甲斐」なんてカッコいいものじゃない。
仲間と潜って、缶ビールを傾け、また次回黒海に潜ろう、なんて新たな決心をして終わる一日。
物語的な、大きなクライマックスなんて無い。
ピリペンコさんは、明日もまた、性懲りも無く潜水艦の修理をし、そして人生は続くのだろう、と心の中に抱いて終わるラスト。
私はとってもピリペンコさんが羨ましく思えたね。

ウクライナの草原地帯にある小さな村に住むピリペンコさんは、62歳の年金生活者。彼には夢がある。それは独力で潜水艦を作り、黒海に潜ることだった。潜水艦の作り方を学んだことはなく、試行錯誤を繰り返しながら30年。冷ややかな妻の目線を受けながら、とうとう潜水艦は完成する。村の沼での試運転もまずまずの成功。クレーン車に潜水艦を乗せ、協力者のセルゲイと共にピリペンコさんは400キロ離れた黒海へと向かう・・・
2009/12/14 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物
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「ピリペンコさんの手作り潜水艦」
山形国際ドキュメンタリー映画祭市民賞受賞
「ピリペンコさんの手作り潜水艦」2006年 ドイツ 監督:ヤン・ヒンリック・ドレーフス、レネー・ハルダー
「ウクライナの草原地帯で自作の潜水艦を作り上げた男に密着したドキュメンタリー。ウクライナの小さな村で年金生活を…
男としては、ピリペンコさんを羨ましく思う一つにあの奥さんの存在がありますね。
そしてまた「人生を楽しむ達人になる事は単なるおたく(悪い方の意味)ではできないのだ。」とも思いました。
ゆるゆる感が好きでした。
imaponさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
imaponさんはあの奥さんの存在が羨ましく思いましたか。
>人生を楽しむ達人になる事は単なるおたく(悪い方の意味)ではできないのだ
そうですね。ピリペンコさんはいざとなった時に、レッカーを無理やり手配したり、やるべき努力を惜しまない姿とか、周りの村人たちの協力や祝福があって、それが機動力になってるとも言えるかもしれませんね。