rss twitter fb hatena gplus

*

脳内ニューヨーク ▲175

脳内ニューヨーク’08年、アメリカ
原題:Synecdoche, New York
監督・脚本:チャーリー・カウフマン
製作:スパイク・ジョーンズ、アンソニー・ブレグマン、シドニー・キンメル、チャーリー・カウフマン
製作総指揮:ウィリアム・ホーバーグ
撮影:ブルース・トール、レイ・アンジェリク、フレデリック・エルムズ
美術:マーク・フリードバーグ
音楽:ジョン・ブライオン

フィリップ・シーモア・ホフマン  ケイデン・コタード
サマンサ・モートン  ヘイゼル
キャスリーン・キーナー  アデル
エミリー・ワトソン  タミー
ダイアン・ウィースト  ミリセント・ウィームズ
トム・ヌーナン  サミー
ホープ・デイヴィス  マドレーヌ・グラヴィス
ミシェル・ウィリアムズ  クレア・キーン

チャーリー・カウフマン、彼こそ奇異なる人、奇異なアイディア満載の、立派な奇人変人です。
私は、彼が脚本を手掛けた『マルコヴィッチの穴』以来、彼の作り出す世界観に、思い切りハマってしまった。以来ずっとファン。(『ヒューマンネイチュア』から全部映画館で見てる。)
今回、彼が初めて監督作品を手掛けたということで、去年から楽しみにしていた作品だった。去年のアメリカ発の雑誌や著名人のベストの中に、この作品が入っていたのを覚えている人も多いかも。

この作品の感想を一言で言うなら、スパイク・ジョーンズやゴンドリーなんかの手を借りずに、「チャーリー・カウフマンに一人で作品を作らせちゃうと、こんなに危険な作品が出来上がっちゃうんだあ」、と言うものだった^^;
いやあ、原材料が変わっているからこそ、誰か別の第三者的視点がないと、これほどまで食いずらい作品に、平気でなっちゃうっていうね、それを確認しましたね。ちょっとマスター、この味付けマニアックだよ!売り物にならないんじゃないのかあ〜?
にしても、この作品は、カウフマンやスパイク・ジョーンズの作る世界観が好きでない人にはキツイはず。もしくは、『エターナル・サンシャイン』だけ見ててそれが好き、っていう人には、絶対食べずらくってお腹壊すだろう、と。

だからもう少しこの作品のことを考えるなら、たとえば『マルコヴィッチの穴』とか、『アダプテーション』、この辺りの路線で流れを見ていくことによって、もっと噛み砕きやすいものになりそうかなあ。

『マルコヴィッチの穴』は、チャーリー・カウフマンの気の狂った脚本に、スパイク・ジョーンズのヤケクソ気味な演出が功を奏した、ありえない傑作と言われている。
『マルコヴィッチの穴』は、想像の世界であるフィルムの向こう側と、こっちの主観とがズドン!とつながる穴、この繋がる瞬間を描いてしまう、意味の分からない傑作だ。主人公の主観が、誰か面白げな役者の主観に繋がる。これが物語構造としてあるのだけれど、実はこの穴によって、自分らの退屈な日常が、フィルムの向こう側へとモロに直結していくのを我々は感じ、その想像と現実である表層の境が危うくなる、いや文字通りパイプでもって繋がっていく。このありえなさが面白く、目からウロコが出たように思う映画だった。その途方もない想像の奇抜な面白さ。

『アダプテーション』(’02年)でも私は驚いた。こんな物語がアメリカって公開されちゃうんだあ、なんて。どう考えても、あまりにもパーソナルすぎる。どこか別の世界と何かが繋がっていく様が、この『脳内ニューヨーク』のように、なんていうウロボロス!なんたる俺!社会に向けて展開していたはずの物語が、気づけば自分の世界にその尻尾で食い繋がる世界の有様、これぞまさしくウロボロス。

いやむしろ、この食いずらさこそが、カウフマン的魅力に繋がっているのかもしれない。
何か偉大なことを成し遂げようとして、その主観に没すれば没するほど、知らない間に何かが自分の手から消えて無くなっていく。そのおぼろげな主観こそ、私たちが無くしたくない記憶の一形態なのに。
考えれば考えるほど、完成しない物語は、主観という個も、時すら超えて、誰かと共有する共通意識になり得て行くのです。私たちが一人なのは、自分一人の物語を演じるから。

「誰もが彼の世界の主人公なのであって、誰もがエキストラではないのだ」。

この先、ネタバレです








あまりにキツいネタバレになるので、書くべきか分からないのだけれど、「主人公の本当の世界」が出現すると、愕然とすると同時に納得もする。主人公の主観の揺らぎにはそんな意味があったのだ、と。
どこからどこまでが本当の世界だったのかと考えると、ますますドツボにハマって来て、「その失ってしまった人生」、手と手の間からこぼれてしまった人生を思うととても切なくなった。ケイデンは自分そのものかもしれない、だなんて。「今何とかしないと、自分もきっとそんな風になるかもしれない」、自分の悪夢に極めて似通った何かになりそうな予感がしながら、劇場を出た。

ストーリー・・・
妻子に家出された人気劇作家のケイデン・コタードは、マッカーサー・フェロー賞の賞金を使って壮大な芸術プロジェクトに着手。それは、自分の頭の中にあるニューヨークを作り出すというものだった・・・

脳内ニューヨーク@ぴあ映画生活

 

関連記事

『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む

『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義

80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む

『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの

一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む

『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究

去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む

『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン

心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む

2,616

コメント(5件)

  1. 「脳内ニューヨーク」チャーリー・カウフマン

    脳内ニューヨーク公式サイト
    脳内ニューヨークSYNECDOCHE,NEW YORK
    2008アメリカ
    監督・脚本:チャーリー・カウフマン
    出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、サマンサ・モートン他
    最近時間があるのでいろいろと映画を観ており、
    結果感想文がまったく追いつかない…

  2. 映画: C カウフマン初監督「脳内ニューヨーク」 肥大する幻想に取り込まれる感覚を楽しむ。

    原題は、synecdoche new york 。
    「マルコヴィッチの穴」Being John Malkovich、「エターナル・サンシャイン」Sunshine of the Spotless Mindの脚本家チャーリー・カウフマンが初監督。
    これは期待しないわけにはいかない!
    今年06月17日にも、「期待の映画、チャーリー・カ…

  3. 脳内ニューヨーク

        
    『脳内ニューヨーク』  (2008)
    人気劇作家ケイデン・コタード(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、ある日突然、妻と娘に家を出て行かれてしまう。
    そんなとき、マッカーサー・フェロー賞受賞の知らせが舞い込む。
    行き詰った彼は…

  4. mini review 10502「脳内ニューヨーク」★★★★★★★★☆☆

    『マルコヴィッチの穴』『エターナル・サンシャイン』の脚本家、チャーリー・カウフマンが監督デビューを果たすエンターテインメント・ムービー。人生に行き詰った人気劇作家が、自分の人生を再生す…




管理人にのみ公開されます

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)


スパム対策をしています。コメント出来ない方は、こちらよりお知らせください。
Google
WWW を検索
このブログ内を検索
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...

【シリーズ秘湯】乳頭温泉郷 鶴の湯温泉に泊まってきた【混浴】

数ある名湯の中でも、特別エロい名前の温泉と言えばこれでしょう。 乳頭温...

2016年12月の評価別INDEX

年始に久しぶりに実家に帰ったんですが、やはり自分の家族は気を使わなくて...

とらねこのオレアカデミー賞 2016

10執念…ならぬ10周年を迎えて、さすがに息切れしてきました。 まあ今...

2016年11月の評価別INDEX & 【石巻ラプラスレポート】

仕事が忙しくなったためもあり、ブログを書く気力が若干減ってきたせいもあ...

→もっと見る

【あ行】【か行】【さ行】【た行】 【な行】
【は行】【ま行】【や行】 【ら行】【わ行】
【英数字】


  • ピエル(P)・パオロ(P)・パゾリーニ(P)ってどんだけPやねん

PAGE TOP ↑