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戦場でワルツを ▲169

戦場でワルツを’08年、イスラエル・ドイツ・フランス・アメリカ
原題:Waltz with Bashir
監督・脚本・製作:アリ・フォルマン
プロデューサー:セルジュ・ラルー、ヤエル・ナフリエリ、ゲルハルト・メイクスナー、ロマン・ポール
美術監督・イラストレーター:デビッド・ポロンスキー
アニメーション監督:ヨニ・グッドマン
編集:ニリ・フェレー
音楽:マックス・リヒター

アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、ゴールデングローブ賞外国語映画賞受賞他、様々な賞をかっさらっていったという評判のこの作品。これまた突出したアニメーションの登場だ。

まず目を奪われるのは、映像の突出したセンス。ビビッドな色使いに、大胆で太めな線でクッキリ明暗を浮かび上がらせる、劇画タッチの人物の輪郭線。
さらに、CGを駆使して背景画像に疾走感を感じさせる。人物が走るその背景が、気持ちよく歪んで後ろに流れていく。絵とCGとの混ざり具合、これが音楽にピッタリ合っているのだから、たまらない。しかも、音楽がまた最高に格好イイのだ。このセンスにまず痺れる。

物語は、アニメーションでありながら、フィクションではなく、ドキュメンタリーであるということに、今更ながら驚きを禁じ得ない。
実写であったなら、そこに感じていたであろうはずの圧倒的なリアリティを、このアニメからは感じることなく、その代わりに別の惑星にいるかのような浮遊感をそこに伴っている。

これはまるで、今まで自分が一度も見たことのない映像のように感じさせ、いや、もしくは無意識の底から沸き上がってくる、自分自身の夢に似たようなデジャヴ感というべきか。
この相反する二つの感情を、同時に感じさせるこのアニメーション、これは・・・そうだ、きっとドラッグをやったことのある人間ならば「トリップ感」と呼ぶのだろう。

これにもし似ているものがあるとすれば、私はリチャード・リンクレイター監督の手がけた、素晴らしいロトスコープアニメの作品、『ウェイキングライフ』を挙げたい。映像技術でもちょっと類を見ないような、一風変わった奇妙な作品に、当時度肝を抜かれた。不協和音のヴァイオリンの音に誘われて、まるで別世界を旅するかのような、実写をアニメーションにトレースするという特殊な方法を取り上げた意欲作だ。

そしてこちらの作品も、『ウェイキングライフ』のように、自分の夢と記憶を旅する物語だ。
「記憶は、そこになかったものまで蘇らせ、同時に何かを隠す」。

だんだんこの謎が明かされていく中、その記憶の正体の分かったラストに、酷く大きな衝撃を感じるかもしれない。

それにしても、初めこそ刺激的に思えたアニメーション技術であるが、
次第にこれがアニメーションであったことすら忘れて見てしまう。そこにもう一度驚いてしまう。
まるで実写と見まごうようなカメラワークが、あまりに自然になされているのだ。
最後になるにつれ、アニメであったことにすら忘れてしまう程であった。

ストーリー・・・
2006年のイスラエル。映画監督のアリは、友人のボアズから26匹の犬に追いかけられる悪夢の話を打ち明けられる。若い頃に従軍したレバノン戦争の後遺 症だとボアズは言うが、アリにはなぜか当時の記憶がない。不思議に思ったアリは、かつての戦友らを訪ね歩き、自分がその時何をしていたかを探る旅に出る。 やがてアリは、ベイルートを占拠した際に起きた「住民虐殺事件」の日、自分がそこにいたことを知る・・・

・戦場でワルツを@映画生活

 

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コメント(13件)

  1. その節は、ご一緒させていただいて、本当にありがとうございました! とても、楽しく、嬉しかったです。
    この映画、個人的にはすごく気に入りました。
    公開されている間にもう一度観たいです。さすが、映画に詳しい とらねこ さん、納得のレビューですね。自分は、「ワルツ」の曲がかかるシーンに圧倒されました。

  2. あかん隊さんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    こちらこそ嬉しかったですー、ありがとうございました。
    この作品、なかなか難しい作品ではありましたけど、私はこういうアプローチが結構好きでした。
    >ワルツのかかるシーン
    まさしく「ヴァシールでダンス」のシーンですよね。あれは本当に印象深かったです。
    お褒めの言葉ありがとうございます。
    気に入った、と言ってもらえてとても嬉しいです。

  3. 「戦場でワルツを」アリ・フォルマン

    戦場でワルツをVALS IM BASHIR
    2008イスラエル/フランス/ドイツ/アメリカ
    監督・脚本:アリ・フォルマン
    アニメーション監督:ヨニ・グッドマン
    音楽:マックス・リヒター
    アニメ大国的観点からするとやや荒いつくりに思えるアニメーションであるけれども、アニメは…

  4. >この相反する二つの感情を、同時に感じさせるこのアニメーション
    そうそう。そういう作用でしたよね。アニメーションを選んだ理由がそこにあるのでしょうね。

  5. manimaniさんへ
    こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
    そうなんですよ。ふと思い出して、確かmanimaniさんとは、『スキャナー・ダークリー』の時に、お話したなあ、と思って探したところ、『スキャナー・ダークリー』で初めてお話したんですね!
    ちなみにその時と、まーにーさん同じことおっしゃられてて。懐かしいですw
    まーにーさんには是非、私の好きな『ウェイキングライフ』を見てもらいたいですね。

  6. 虐殺行為を告発するだけで反省の無い映画だ、戦場でワルツを

    アニメーションで表現したドキュメンタリーで、実写より不気味な感じが良く出ている。しかし、この映画は単に戦争で封印した自分の記憶を蘇らせるだけに終わっている。意図的にサブラ・シャティーラの大虐殺を防がなかった反省がまるで無い。

  7. 戦場でワルツを

      
    = 『戦場でワルツを』  (2008) =
    2006年冬、友人のボアズがアリに対して、毎夜みる悪夢に悩まされていると打ち明けた。
    ボアズは、それがレバノン侵攻の後遺症だという。 しかし、アリの記憶からは、レバノンでの出来事が抜け落ちていた。
    記憶から失…

  8. とらねこさん。こんにちは。
    私には残念な結果の映画になってしましました。
    絵や手法は面白いと思ったのですが、どうも伝わってきませんでした。
    事実としては受け止めるべき映画。「観るべき映画」だったと思います。

  9. 戦場でワルツを

    「抜け落ちた記憶」
    思い出したくない記憶。封印された記憶を取り戻すため。
    【STORY】(シネマ・トゥデイ様より引用させていただきました。)
    元兵士のアリ・フォルマン監督が、自身の経験を基に製作した自伝的なドキュメンタリー・アニメーション。1982年にレバノン…

  10. de-noryさんへ
    おはようございます〜!コメントありがとうございました!
    そうですね、これは意見が分かれる映画だったと思います。
    政治的な内容を描いた、社会派の作品として見れば、そのように感じるのも当然だと思います。
    が、私は、「非人間的な残虐行為を、集団として行った、あるいは行なわざるを得ない状況に追い込まれた人間の心理を、その内側から描いた作品」だと思っています。
    このような状況に陥った時、人は何が起こっているのかさえ知覚していなかったり、もっと酷いことにまるで覚えていなかったり、人の「意識」がそれを忘れさせるように働く。
    そんなことを描いた映画だと自分は思っています。

  11. こんばんは
    へえ・・・ おクスリで旅をすると、世界はこんな風に見えるんですね・・・ 未体験の者としてはリスクを犯さずトリップできて、非常に貴重な経験でした。むかしプラモデル用の溶剤で悪酔いしたことだったらあったけど
    しかしどんなドラッグといえど、いつかは覚めるもの。いい加減気持ちよくなってたところに、バシャーンと水をかけて起こしてもらうような、そんなENDでありました
    外国語映画賞を逃したのは残念ですが、アニメーションがそこまで来たことだけでも大したことだと思います。ちなみにわたし『おくりびと』はまだ見てないんすよ

  12. フラッシュバックによろしく アリ・フォルマン 『戦場でワルツを』

    本日は昨年のアカデミー賞外国語映画賞を、『おくりびと』と争ったこの異色アニメを。

  13. SGA屋伍一さんへさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    自分の夢の中を旅しているかのような、ドラッグにトリップしているかのような、不思議な映像でしたよね。
    終わり方は確かに夢から覚めたような気分にすらなったような、不思議な感覚でしたねえ。
    いやあ、この内容であったなら、外国語映画賞を取るなんて、まず無理だろう・・・そう思えるような内容でしたよね。
    いやあ、この映画と並ぶと、『おくりびと』って、当たり障りの無い作品だったんだなあ、なんて思いますよ。
    SGAさんまだ見てないんですね!珍しい。すっかり見ていたもんだと思ってましたよ。コメントもくれたような・・・気のせいでしたか(爆




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