静かな光 ▲159
’07年、メキシコ・オランダ・フランス・ドイツ
原題:Luz Silenciosa
監督:カルロス・レイガダス
脚本: 〃
コルネリオ・ウォール・フェール ヨハン
マリア・バンクラッツ マリアン
ミリアム・トウズ エスター
’07年のカンヌ国際映画祭にて、審査員特別賞を受賞、’08年のラテン・ビート映画祭で初めて日本で紹介された監督。TIFFにて鑑賞。
今回のTIFFでは、「日本メキシコ友好400年記念」と称して、レイガダス監督作品がこちらを含め、3つ上映された。
冴え渡った映像センスで、画面に釘付けになる。
風が吹きすさぶ映像が流れれば、見ている私たちも風を頬に感じる気がした。人生のリアリスティックさを、すぐそこに感じ、重々しさと生々しさをグッと手元に感じる作り。
時々人物に思いきり寄った映像に、時に圧迫感すら感じることもある。目を離せないような、緊張を強いるような。
ズッシリ構えて負けないようにしなければ、なんだか負けてしまいそうな気がした。
「何度も別れようとしたが駄目だった。マリアンは、運命の女なのだ」と言い、不倫関係を続けてしまうヨハン。一方、マリアンにとっては、「こんなに苦しい愛は自分にとって初めて。だけど、同時に喜びが大きい愛」と表現する。
決して若くない、中年の夫婦同士の不倫で、お互いに家庭もある身。出口のなさに何度も後悔したり、苦しんだりしながら、それでもこっそりと逢引を続ける。
彼らの愛は決して遊びでもなければ、だからと言って、それぞれが責任感を放棄してしまえるほど、彼らは若くも愚かでもない。出口のなさに彷徨う彼らだけれど、その愛が一点の曇りのないものであることを、私たち観客はいつしか知るように思えてくるのだった。
彼らの関係も、妻エスターの苦しみが描かれる段になってくると、また別の面を呈してくる。エスターの心の嘆きもまた痛いほど共感できるのだった。
「目が覚めても終わらない悪夢のよう」と言うエスターの心もとなさ。長い期間大事にしていた関係が、ある日突然裏切りを体験し、一転してこれまで築いた関係が崩れさってしまったのだ。
大雨の中、叫ぶ彼女の嘆きはあまりに悲痛で見ていて苦しくなる・・・
物語は、終盤に至って突如として違う色彩を放ってくる。
「奇跡」と呼ぶにはあまりに奇妙な展開だ。にも関わらず、何か救いが得られたような後味を感じることが出来た。
作品上に描かれるラストでの「救い(=静かな光)」について思いを馳せれば、現実世界に住む我々の運命の不可逆性がクローズアップされる作りになっている。

メキシコ、チワワ州に自給自足のコミュニティーを作る、宗教一派メノナイトの移民達。戒律を守り、電気も水道も引かず、その生活の大部分を自然の営みに合 わせ広大な農地を耕して暮らす彼らは、オーバーオールと古風なワンピースに身を包み、一般的に多くの子を持つ平和主義者達だ。7人の子供と妻エスターと暮らすヨハンもその一人。しかし彼は、この静かで保守的な村で不可能な恋をしてしまう・・・。飾り気のない、究極にシンプルな人生を送る人々にとって、唯 一かけがえのないものとは何か・・・
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