タンゴ・シンガー ▲156
’09年、ベルギー、アルゼンチン、フランス、オランダ
原題:La Cantante de Tango
監督:ディエゴ・マルティネス・ビニャッティ
脚本: 〃
撮影: 〃
エウヘニア・ラミレス・ミオリ エレナ
ブリュノ・トデスキーニ
アンドレス・ラミレス
TIFFにて鑑賞。
タンゴ・シンガーとしてまさに成功しようとするその時に、彼女に訪れた突然の恋人との破局。
諦めきれない彼女の行動が、痛ましく、胸をえぐるように思えると同時に、スペイン生まれのタンゴの情熱、激情をより感じる。
胸の焼けるような痛みと、タンゴの旋律が絡み合って、とても雰囲気のある独特な作品になっていた。
物語は中盤以降、あるシーンを拠点として、二つの違った彼女の人生を映し出す。
彼女の眼前に現れた二つの選択。一つは、その街に残って歌手として成功し、だがどうしても恋人を忘れることが出来ず、バンドのメンバーと体の関係になるが、心の寂しさは決して埋められない。そしてその後、悲劇が訪れる。
もう一つは、別の街に移って、決して有名ではないにしろ、歌手として別のバンドを組み、食ってはいけないので他の仕事をしながら、生きていく。その街でまた別の出会いがある。彼女はもう、男にすがってやっていく気には決してなれないものの、一人でやっていく決心がある自立した女性になるのだった。
二つのそれぞれ別のシーンは、時々交差するかのように現れる。さらに彼女にとっての思い出のシーンも混じっている上に、説明的な場面転換や台詞が全くないため、少し分かりずらく感じるかもしれない。
いずれにせよ、彼女には苦しみがつきまとう。忘れられない思い出は、目覚めることのない悪夢のよう。傷ついた彼女の姿が痛くて、見ていてとても苦しくなる。
全体的に雰囲気がとても良かったと思う。この二つの選択肢、おそらくどちらを選んでも、彼女にとって苦しみが終わらないのだ。
もし「自分が生きていく」ための選択をするなら・・・。
私が最近思うのは、「選択をする」という行為そのものに、常に後悔する可能性を含んでいる、ということ。
大人になるに従って、その後悔は大きく結果を違えるものであるかもしれない。
そして、時に取り返しがつかないこともありえる。
私は、こうした「選択」というものを描くなら、この作品のように、二つの別の人生をアナザー・ワールド的に描くのが面白いと思っている。『スライディング・ドア』のような作品が本当に好きだったから。
今回のTIFFでは、ディエゴ・マルティネス・ビニャッティ監督と、主演女優の、エウヘニア・ラミレス・ミオリさんが、Q&Aにて来場。
なんと、彼女は、元々タンゴ・シンガーであったわけではないらしい。何ヶ月も歌のレッスンを受けて、この役に臨んだらしい。私はまたてっきり、本物のシンガーを起用したのだと思っていたので驚いた。

エレナは売り出し中のタンゴ歌手。ブエノスアイレスの権威ある劇場で開かれたオーディションに、バンドを率いて参加する。見事合格したことを機に、彼女のキャリアは軌道に乗り始めるはずだった。しかしある日彼女に悲劇が訪れる、彼女が愛した人はもう彼女を愛することは無くなった。愛のために生き、歌うエレナにとって、これはすべての終わりを意味した。喪失感に打ちひしがれた彼女の傷心は癒えることなく、暗い面 持ちになっていく。しかし、もしもう一度歩き出すことができるとしたら? もし悲しみを捨てて新たな国で新しい人生を始めることができるとしたら?・・・
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