レディ アサシン ▲155
’07年、フランス
原題:Boarding Gate
監督・脚本:オリビエ・アサイヤス
撮影:ヨリック・ル・ソー
音楽:ブライアン・イーノ、ロバート・フリップ、スパークス
アーシア・アルジェント サンドラ
マイケル・マドセン マイルス・レンバーグ
ケリー・リン スー・ワン
カール・ン レスター
キム・ゴードン ケイ
アレックス・デスカス アンドリュー
ジョアンナ・プレイス リサ
アーシア!アーシア!アーシア!
アーシア・アルジェント、魅力全開の一作。
この邦題、ちょっとイマイチです。ポスターを見て売る路線を思いついてしまったのか。なんとなく『ニキータ』や『アサシン』を思い起こさせるような邦題。確かにサスペンスタッチで進むストーリーではあるのだけれど、ただそう表現してしまうには惜しい作りの、変わったテイスト。そこで「むーん」、と日本の配給会社に文句を言いたくなってしまうところなのだけれど、goo映画から引っ張ってきたストーリーを読むと・・・↓

性とマネーとドラッグとインターネットの情報とが織り成すグローバルな世界に向けての戦い。一方でそのまま自らの内なる何かとの戦いともなっていく。最大のシステムとの戦いは常に最小の闇との戦いでもあるのだ。あまりに小さく、弱々しい戦い。その小ささと弱さを全身で引き受けて、彼女は歩を進める。彼女の前に「搭乗口」が現れることはないが、しかしその戦いの孤独な震えこそ世界に向けての「搭乗口」となることが、彼女の戦いと共に明らかになっていく・・・
うん、これが的を得た、いい文章なんですよね。物語のあらすじを説明的な単語で述べるでなく、映画全体の持つテイストと、彼女の役柄について反映させ、かつ原題にちゃんと触れていて。なかなか素敵です。
物語は、アーシア演じるサンドラが、彼女を縛る過去でもあり、なかなか断ち切れない、マイケル・マドセン演じるマイルスとの、愛憎入り混じった関係性。これらをありありと冒頭部分で描くところから始まる。
このアーシアがあまりに見事なんですよね。裏の世界の仕事を請け負ってしまうこともある、危険な、かつ熟成した魅力で一杯の女性を体当たりで演じている。
取引先の情報を得るために、自分を利用することも厭わない、計算高い中高年の既婚男性・マイルス。この男とずっと一緒に居ても自分にプラスにはならないと分かっていて、だが簡単に断ち切るにはあまりに長い時間を“楽しみ”過ぎた・・・。アーシアが演じると、複雑な心理の女性が、何ともエロティックな、生々しい存在として立体的に感じさせる。お見事!
そして、とうとうこの男性との関係を“断ち切る”ところから、物語はこれまでと違う様相で展開していく。いかにも思いつきで“行った”ように見えるのに、実はそれは計画だったのだ、と分かる。後始末を手伝う現在の恋人と、その裏の組織、香港へ彼女が旅立って行き、さらに二転三転・・・
特に良かったのが、ラスト間際で彼女がとある決断を下す瞬間と、その長さ。
彼女がその行動を“行わなかった”ことで、おそらく彼女は、上海に行ってしばらく経って後、またレスターに会うことができるだろう。その時の彼女はそのことを分かっていないけれど、観客である私たちは知っている。きっと後に彼女が幸せになれるだろうことを。この瞬間の彼女の心持ちは、引き裂かれるような辛さを味わっているだろうけれど。少し切ない複雑な気持ち、だが悪くない感じだ。
ところで、ソニック・ユースのキム・ゴードンが出演していて驚いた!そう言えば、『デーモンラヴァー』や他のオリヴィエ・アサイヤス作品でもソニック・ユースが音楽で使われているけれど、まさか俳優として出てくるなんて。キム・ゴードン、久しぶりに見た。
←このポスターは、海外で使われたもの。
この瞬間のアーシアにはドッキリさせられた。話の途中で、股間を触るシーン。
こういうことをして絵になるっていうのがさすがです。
普通の女性がこのポーズをしたら、「かゆいの?」なんて言われそうだ・・・
・レディ アサシン@映画生活
2009/11/02 | 映画, :サスペンス・ミステリ
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コメント(8件)
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なるほどぉ〜
この作品の言わんとすることや、この作品の見方を今知った気がします。
先にとらねこさんにレクチャーしてもらってから見れば良かったと、後悔せずにはいられません。
作品の良さが分からなかったのは、哀生龍の苦手意識だけが原因じゃないですね。 自分の理解力不足と歩み寄り不足を感じて反省です。
おーぉ!アルジェントさんとこのビッチお嬢さんアーシア。スカジョ、スー・チーに並びビッチ好きといしてはマジに大好きな女優さんです。
本作品は自主上映?吉祥寺レイトに遠征観ましたよ。
お父ちゃんが有名監督の2世女性監督って、コッポラさんとこのソフィア、カザヴェステさんとこのゾーイ、新藤さんとこの風ちゃんは孫か・・・
アサイヤスっていえば『デーモン〜』『イルマ〜』犯罪物でしょ。なんぞこの夏ヒットした『夏時間の庭』に衝撃・・・犯罪モンでない。
絶対最後はオルレー美術館から強奪する話と信じてました(苦笑
まあ、『夏時間〜』のヒットで『クリーン』が観れたからいいか。
哀生龍さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
わわっ。そんなそんな〜
私のこの文、こうして読み返してみますと、ネタバレのためとは言え、何のことやらよく分からない文になってますね・・。
それなのに、文の意味をちゃんと分かっていただき、とても嬉しいですー。
それに哀生龍さんは、ご自身の意見とだいぶ違った時でも、人の意見をきちんと読んで考えることが出来る人なのだなあと驚きました。
いや、やっぱり苦手意識というのは大きいと思いますよ。だって私にとっては「ダリオ・アルジェントの娘」というだけで、かなりポイントが高くなっちゃってるのは否めませんし^^;
さらに私には、このアーシアの演技に惚れて見ることが出来たため、この作品に寄り添って見れたのもありますし
Longislandさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ぅわお!Longislandさんは、なんと、わざわざこの映画のために、吉祥寺に来られたのですね!
そう言えばバウスシアターで爆音映画祭がやっていましたけれど、その時にいらしたんですね!素晴らしい!
いやあ、この作品のアーシア・アルジェントは、良かったですよね!
彼女のビッチっぷり、あれってもしや、地でやっているのかな?なんて疑惑を覚えながらも、すっかり彼女の魅力にとりこになって見てしまいましたw
そうですか、Longislandさんはビッチ好きとな?w
私も実は、かなりのビッチ好きかも。。。アーシア、スカヨハ、アンジー、
エリザベス・ハーレー、キャサリン・ゼタ・ジョーンズ。
きっと自分にないものを求めてしまうんですね。
・・スカジョ?
やっぱりアサイヤスは犯罪モノが面白いんですね♪
そうか、順番が違うと思ったら、『夏時間の庭』のヒットでクリーンが来たんですね、なるほど。
しかし確かオルセー美術館の紀念作品ですよね?
まさか、そこから強奪するなんて(爆
そう言えば、ゾーイ・カサヴェテスの『ブロークン・イングリッシュ』は、今年のお正月ぐらいでしたっけ。思わずスルーしてしまったまんまになってます。そう言えばまだ見ていないなあ。。。
ぼんじゅーる。ぼんてーじ。
日本じゃ、びよーんのツマのH末さんのように胸も露出しないあの程度で、濡れ場演技に体当たりと評価されるわけなのですが、すると私はアーシアちゃんをご覧なさいよ、そんな子ども騙しじゃなくてよ、と言いたくなるのです。
エロエロ風映画は配給されなくても、DVDになるのよね。「最後の愛人」のアーシアもなかなか。
オルレー?
かえるさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ぼんじゅーる、ぼんてーじって(笑)
アーシア・アルジェントは「本物の凄み」がありましたねw
「演技が上手い」の度を超えて、真に迫りすぎでっせー。パパー!
・・に比べて、H末さんの脱ぎっぷりはあんまり大したことないんですか。
日本てやっぱり「脱ぐ」「脱がない」に対する意識って厳しいものがあるんですね。
『最後の愛人』、あらすじだけ読むと、なかなか面白そうですよね。
私も見てみようかな、と思います。
やっぱり、最高に良かったアーシア作品は、『トランシルヴァニア』じゃないですか?
私の一番好きな作品は
監督&主演の『サラ、いつわりの祈り』
(J・T・リロイ原作が捏造と後に発覚)
ですね〜ぇ。
そうそう、
最近スカーレット・ヨハンソンってジョハンソンと表記に変える配給会社や雑誌が出てきてます。
そんなわけでスカジョなんですわ。
貴女の鑑賞映画数及び文章力に敬服です
Longislandさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
お、『サラ、いつわりの祈り』、評判悪かったのでスルーしてしまったまんまになってる上に、
自分はそれほど俳優が監督した作品が好きでないことが多いので、(ショーン・ペンは別ですが)見るつもりもなかったのですが、
Longislandさんはこちらがそんなにお好きなんですね!へええ〜。
その一言で見たくなりました!
>スカジョ
へえ、名称を変えようという動き、たまにありますけど、この人もそうなんですね。新しい!
確かにカタカナ英語で思わず発音してしまって、外国人に「何それ?!」って言われてしまうこと、人の名前ってよくありますもんね。
今後はスカジョと呼ばなければですね♪
>貴女の鑑賞映画数及び文章力に敬服です
イエイエそんな、、、Longislandさんの熱意には遠く及びません。