シングル・マン ▲152
’09年、アメリカ
原題:A Single Man
監督:トム・フォード
原作:クリストファー・イシャーウッド 『シングルマン』
コリン・ファース ジョージ
ジュリアン・ムーア チャーリー
マシュー・グード ジム
ニコラス・ホウルト ケニー
TIFFにて鑑賞。
愛の喪失とその痛手を、詩的な映像センスで紡ぐ物語。
台詞は深遠で「読み応えのある」言葉が多く、恋人を失った痛みはギリギリとこちらまで伝わって来る。
グッチのデザイナー、トム・フォードが手がけた初監督作品。
「デザイナー」という別畑の職業の方が撮った作品であるのに、そのカメラからハイセンスな感性を感じるのに驚いてしまう。
さらに、この方が表現したくてたまらないこと、言いたいことが詰まっていることに感じ入ってしまった。このテーマに対する、自己満足でない、確かな表現力にももちろん驚くと共に。
その映像はところどころ、アレ?と感じる箇所もあった。でも、こうした不思議なシーンですら、後まで見て思い返せば、それはそれとして別の効果があったことに気づく。
自分の全てだった、愛する人を失ったジョージの一日。
「最も幸せな思い出が、最も辛いものでもある」
この作品が処女作である監督は、おそらく自分の経験上、最も言いたかったことを詰めたのではないだろうか。この作品は、限りなくロマンティックで、哀しみに満ちていて、同時にとても詩的だ。
だが時々、映像が立ち止まったり、何かがズレたように映るシーンがあった。これは何だろう?ジョージが「現実感覚がズレて抜けていく」、こんな奇妙な感覚を表していたかのようだった。
実はジョージのこの一日は、「何か遠くの世界から見られているかのような」、そんな閃きが訪れる瞬間がある。
この瞬間こそ、目の前の「単なる映像」を超え、拡がりを持って作品全体に一貫した美を与える標しとなった。
放心するかのように、堪能できる美しい映像世界ではあるけれど、この作品の魅力はここだけではない。そこに独自の感性と文体を持った、哀しい夢のような作品だった。

キューバのミサイル危機真っ只中の1962年。ロサンゼルスを舞台に、長年のパートナーだったジムの死後、 生きる価値を見出そうと苦悩する英国人大学教授ジョージの姿を描く。同じく将来について自問し苦悩している親友のチャーリーに、ジョージは慰められる。自分の本性を受け入れているジョージの生徒、ケニーはジョージのことを気心が合う人間だと感じ、彼にゆっくりと近づいていく・・・
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コメント(17件)
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『シングル・マン』(TIFF)
10/20の東京国際映画祭の2本目の観賞は、トム・フォード監督作品『シングル・マン(A SINGLE MAN)』。
この映画祭で一番観たかった作品で、その期待に十分にこたえてくれた作品でした。
********************
[解説]
大物ファッション・デザイナーのトム・フォード…
『シングル・マン』 A Single Man @TIFF
グッチのデザイナーとして活躍したトム・フォードの初監督作品であり、ヴェネチア国際映画祭にてコリン・ファースが男優賞受賞に輝いた注目作。原作はクリストファー・イシャーウッドの同名小説で、舞台はキューバのミサイル危機真っ只中の1962年、ロサンゼルス。
ジョンと…
お〜!
とらねこさんもこの作品観たんですか。
数あるTIFF上映作品から本作を選ぶ(その他作品も)センス流石ですね。
なんかウォ・ンカーウァイ風?
古い表現ですがスタイリッシュな映像で孤独を描く素敵な作品でした。
Longislandさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
Longislandさんもこの作品に関しては、かなり満足度が高そうですね!
私も、本当に素敵だったなあ〜と思います。
ウォン・カーウァイ風とも思えるテイストですよねえ。
コリン・ファースは確かに脇役のイメージですね、ハハそうですが。
私は今回のこの役は、『真珠の首飾りの少女』でフェルメールを演じた時の、コリン・ファースを思い出したんですよ。あの時もセクシーでアーティスティックだったなあと。
私はあの役がなかったら、いつまでも『ブリジット・ジョーンズ〜』でダサいトナカイのセーター着てたイメージだったかもしれませんw
シングルマン〜A SINGLE MAN L&G映画祭にて
最愛の人を失った男の最期の日の物語。
ブログでやり取り、お久しぶりぶりー。
先日はお暑い中ご足労いただきまして、また本作のTBもありがとうです。
とらねこさん、そういえばTIFFはいつもたくさんご覧になっていらっしゃるもんね。
もちろん、本作もご覧になっていらっしゃった…。
私も見たかったんだけど、日程が合わなくて。
半年待った感じです。
ところで。
もうやたらと男たちが素敵すぎちゃって。
私、スペイン人のカルロス(役名)がすきー。ゲイでも友達になって欲しい。爆
というか、モデルだからカッコいいに決まってるけど;
結局監督の趣味?wというか、本作は監督の想い出、過去、って感じ?
私、コリンってどうも萌える人じゃなかったんですよ。(でも「真珠…」よかったですよね)。
でも今回初めて墜ちました。他のキャスティングもナイスで。
幸せだった分、喪失感は大きいですよね;;
シャーロットさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
本当、ブログのやり取りお久しぶりです!寂しい・・・。たまにはこうやって映画の話が出来ると嬉しいんですが。
シャーさんブログの掲示板は読みに行ってるんですけど、どのタイミングで声をかけようか、戸惑ってしまって。
この作品の男性陣のセクシーさ、素敵さ、本当すごかったですよね!
ここに出てくる男性は、監督の趣味なのか、私も同じこと考えてましたよ(爆)
私の想像ですけど、トム・フォードは、モデルでカッコいい男性、っていうのはたくさん見てるはずですよね。だから、割とカルロスなんかは遊びのタイプだと思うんですw
やっぱり監督にとっては、スピリチュアルな共感を感じることのできる、賢いタイプ(かつ頭脳労働系)の方が憧れちゃうんじゃないかなーって想像してました。
そして頭がいいだけじゃなくて、センスのいい人を好みそう。
ここに描かれたような恋人がきっと居たんだろうなあ、って思います。
トム・フォード、こんなに才能に溢れた人だったら、きっとモテる人なんでしょうね。辛い恋をしたのかなあ。。
ここのコリン・ファースとっても素敵でしたねー。
アカデミー賞ノミネート、残念でしたけど、ヴェネチアの方は取りましたもんね
私が、コリン・ファースに注目したのは、『ブリジット・ジョーンズ〜』からでした。これは原作も読んだんですが、ここに出てくる、ブリジットが最終的に恋人に選ぶ役、これはどんな役者が演るんだろう、ってすごく興味津々だったんです。
この役がピッタリだったんですよねー♪
『真珠〜』のフェルメールの役も、長髪で様になってて素敵だったんですよね!
ああいうアーティスティックなタイプも演じられちゃうなんて。
ふたたびー
コリンのドラマBBC版「高慢と偏見」はみた事あります?
あれはホントにハマり役だなあと私は思いましたよ。
キーラナイトレイがででる映画の「プライドと偏見」のミスター・ダーシーは、どうもプライド高そうに見えないんだけど、コリンのミスター・ダーシーは◎
未見なら、いつかお貸ししますです
シャーロットさんへ
ふたたびコメントありがとうございます♪
おー!ドラマ版『高慢と偏見』のコリン・ファースのダーシー役を見て、『ブリジット・ジョーンズ〜』の作者が彼をイメージして書いた、というアレですね!
(Twitterと同じこと言ってますがお許しあれ)
なかなかDVDがはかどらなくて、積んどくDVDが増えてしまう一方だったりもしますが、そう言われたら是非是非♪見たくなってしまいました!
私は『高慢と偏見』の小説に出てくるダーシーがすごく好きなので、正直映画の方はイマイチに思えてしまいました。(評判は良かったみたいですが。私は原作愛が強すぎて・・)
『ブリジット・ジョーンズ〜』の原作を読んだ時に、「このダーシーって、『高慢と偏見』に出てくるダーシーに似てる!(ストーリー自体も高慢と偏見を彷彿とさせるものですし)なんて思ったんですよね。そして後から調べたら、なんと作者が、コリン・ファースの『高慢と偏見』でのダーシー役をイメージしてブリジョンのダーシー役を書いた、とあって、おおーっ!と思ってしまいました。
ブリジョンでのダーシー役がとっても素敵だったんですよ♪
しかし本当、『シングルマン』でのコリン・ファースの素敵さには驚かされました!
『真珠〜』のフェルメール役を見てキャスティングされたんじゃないかなーって思います。真珠のフェルメール役もすごく良かったし・・・
とベラベラ勝手に喋ってすいません
是非是非貸して欲しいです!こ、これは早く飲み会を開催しなければ
あとついでに、今度パリが出てくるオススメ作品を教えてください。
フランス強化月間にしようと思ってまして、レンタルしまくる予定なのです
シングルマン
公式サイト。原題:A Single Man。クリストファー・イシャーウッド原作、トム・フォード監督、コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、ニコラス・ホルト、マシュー・グード、ジョン・コルタハレナ。核戦争で人類滅亡も現実問題として考えられていたキューバ危機直後の1962年11…
シングルマン
1962年11月30日、ロサンゼルス。
大学教授のジョージ(コリン・ファース)は、16年間共に暮らしたパートナー、ジム(マシュー・グード)を交通事殮.
スペル
銀行のローンデスクで働くクリスティン・ブラウン(アリソン・ローマン)は、
不動産ローンの延長を懇願する老婆ガーナッシュ夫人を拒否す??.
シングルマン
1962年11月30日、ロサンゼルス。
大学教授のジョージ(コリン・ファース)は、16年間共に暮らしたパートナー、ジム(マシュー・グード)を交通事故でなくして以来、8ヶ月に渡り悲嘆に暮れていた。
今日この…
シングルマン
端正な佇まい。美しい時間。再生への光、喪失の果て。
スクリーンの中の全てが美しくて、観ながらも心がストップしてる気がする映画。
トム・フォードの初監督作品ってことで前々から楽しみにしていた『シングルマン』。
先週末から上映館が増えたので、仕事帰りに丸の内ル….
>限りなくロマンティックで、哀しみに満ちていて、同時にとても詩的だ
初監督作品では何とか自分の思いを伝えたくて、あれこれ盛り込み過ぎることがありますが、この作品は“監督が作品の中で語り過ぎてない”と哀生龍は思いました。
セリフやナレーションで補足説明するのでもなく、状況説明的な映像やエピソードを挟む事もなく、思い切って映像とコリン・ファースの佇まいに任せてしまっている。と言ったらいいのか・・・
そんな“感じる”作品に仕上がっていて、哀しいけれど心地良かったです。
哀生龍さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
なるほど、確かに一作目にしては、その人のこだわりや好きなものが、悪い
意味で盛り込まれた感じがしませんよね。要るものを織り交ぜ、
要らないものは切って捨てる辺りは、ファッションデザイナーならではの
センスの良さなんでしょうか・・。コリン・ファースも哀生龍さんおっしゃるように、
すごく無理なく滲み出る色気が良かったです!
哀生龍さんがコメント返しにおっしゃっていただいたこと、
あの言葉はとても好きでした・・。普通の日常生活を過ごしていたからこそ
痛々しく、きっと喪失が深かったんだろうという一文。
とても心に深く刺さりました。哀生龍さんとお話させていただいて良かったです。