空気人形 ▲142
’09年、日本
監督・脚本・編集:是枝裕和
製作:川城和実、重延浩、久松猛朗、豊島雅郎
プロデューサー:浦谷年良、是枝裕和
原作:業田良家 『ゴーダ哲学堂 空気人形』
撮影:リー・ピンビン
美術:種田陽平
音楽:World’s end girlfriend
ペ・ドゥナ 空気人形
ARATA レンタルビデオ屋の従業員・順一
板尾創路 ファミレス従業員・秀雄
高橋昌也 元高校国語教師
余貴美子 受付嬢・佳子
岩松了 レンタルビデオ屋店長・鮫洲
丸山智巳 萌の父親・真治
奈良木未羽 小学生・萌
柄本祐 浪人中の受験生・透
オダギリジョー 人形師
同じ空っぽ人間として、心を射抜かれたような衝撃を受けてしまったよ。
私にはとても、「優しくて切ないファンタジー」などとは思えず、
生きるのが本当はとても辛いこと、孤独があまりにも寒々しい気持ちになること、
そんな「本当のこと」をそのものズバリ描いた作品だと思った。
「空気人形」、と書かれたエアリーな文字が、まるで空気に溶けそうに、フっと風にたなびく、
あまりに美しいタイトルバックから始まるこの話は、ラストでは、思いもよらないほど残酷。
『誰も知らない』と同程度に、驚くべきことをアリアリと描き出してみせる。
等身大のダッチ○イフに向かって話しかける、板尾さんのシーンを見て、思わず『ラースと、その彼女』を思い浮かべる冒頭。でもこちらの話は、『ラース~』が孤独を描きながらも、気づけば人々の温かさを感じるような、箱庭的世界観のファンタジーであったのとは全く正反対だ。
ダッチ○イフ人形に、心が生まれるというファンタジーでありながら、彼女が人というものを学んでいくうちに、余計に人間の孤独さ、空虚さが浮かび上がってくる。
人のこころを持ったがゆえに、哀しく感じ、人として生きようとするが故に、ウソをつかなくてはいけない。
人を愛したが故に、余計、寂しい気持ちになるだけだ・・・。
人として生きるのってなんて辛いことなんだろうって、私は、息も絶え絶えなほどに、辛くて辛くてたまらなくなってしまった・・・。
ここに描かれている人間は、どの人もみんな孤独だ。過去の女を忘れられずに、人を愛することをやめてしまったり、面倒くさくなってしまったり。一人で食べる食卓。片付けられない部屋。
ここで描かれる彼らの孤独は、過剰なまでに私たちの投影であると、それは分かっているのに。でも、私たち都会に住む人間世界の縮図、といえるような冷たさがその底流を流れていた。
人を愛さずに生きるのは、寂しい。
でも人を愛してもやっぱり、寂しく感じる。そんなことが、どれだけ多いか。
私は誰かの代わりでないと、どうして言い切れるんだろう?
考えれば考えるほど苦しくなって、なんだか凹みまくってしまう自分がいた。
たとえば、ARATA演じる順一のように、話すことがどれも的を得て(注1)いて、
余計なことを言わない人だったら、私も愛することができるかもしれない。
でも、大概の男って、余計なことばっかり言うでしょ。
言わない方がうまくいくような、上手につきあう方法を、正しく知るのは難しい。
だから、ドールが、「なぜ私が好きなの?」と、「私でなければいけない理由」を聞く。「何かの代用品」でない証拠に。
でも、それにきちんと答えられる人が、どれだけいるでしょうか?
男って、いや人間て、余計なことばっかり言うくせに、肝心なことをきちんと言えるのかな。
相手を傷つけないように、穴が開いてしまわないように。
それこそ、相手にも心があると分かった上での発言になっているかすら、疑問で。
なんかそんな空っぽな者同士が愛し合ったって、一体何が生まれるというんでしょうか・・・っ。
ああ、私は一体何を書いているんでしょう(苦笑)
こんな風に、いろいろ考えてしまったら、とても凹んでしまう映画だった。
※注1)的を射る・的を得るの表現について
バースデイパーティの幻影は、一番つらくなってしまった。何故って、自分も3年ほど、誰かに誕生日を祝ってもらっていないなあ、と。
自分の孤独をひしひしと感じてしまって。
私は、今後、一人で迎える誕生日のたびに、死にたくなってしまいそう。
これ、あの、この映画に対する究極の褒め言葉のつもりです、、、

古びたアパートで持ち主の秀雄と暮らす空気人形は、ある朝、本来は持ってはいけない「心」を持ってしまう。彼女は秀雄が仕事に出かけるといそいそと身支度 を整え、一人で街へと歩き出す。メイド服を着て、おぼつかない足取りで街に出た彼女は、いろいろな人に出会っていく。ある日、レンタルビデオ店で働く純一 と知り合い、そこでアルバイトをすることになる。ひそかに純一に思いを寄せる彼女だったが・・・
2009/10/12 | 映画, :SF・ファンタジー
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コメント(25件)
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映画『空気人形』(お薦め度★★)
監督・脚本・編集、是枝裕和。原作、業田良家『ゴーダ哲学堂 空気人形』。2009年
空気人形
ココロの深部にまで突き刺さるような優しく哀しい映画を作ってくれました。流石です。是枝監督。ダッチワイフの進化系のラブドール=空気人形が主人公。ある時、ココロを持ち、人間世界を探検、恋をし、自分の境遇を哀しむが責任は果たそうとし、恋が破れそうになり、自分の…
確かに男って生き物は余計なことを言う生き物ですわ。
でも、私も一人の男として言わせていただくと、女性は男性に言葉を求めすぎなところもあるんですよね。
「女心を理解して」という女性には「男心を理解して」と言いたくなるんですよ。
まぁそんなことはさておき、この映画は空っぽな自分にどうやって空気を入れ込めばいいか、自問自答してしまいますよね。
そういう意味では非常にいい映画でした。
『空気人形』
人はみんな空気人形。元々中身は空っぽ。でも「新鮮さ」という空気をもらうことで心も体も満たされていく、そんな生き物。
これまで実質的な「死」というフィルターを通して「生」を描いてきた是枝監督が少し路線変更をしたのか、「心を持たない」という精神的な死を通して….
とらねこさん、私もこの映画はとてもじゃないけど「優しくて切なくいファンタジー」なんてなまぬるい表現の作品じゃないなと思いました。「生きる」って息を吐いたりすったり永遠に続ける事だけど、それをやめたくなってしまう孤独というものをこんなにも上手く表現していたとはすごいなあって。
勿論、見る人によって感じ方が違うと思うんだけど、私には哲学的な突き詰めた監督の想いが全編貫かれていて、本当に「ゆるみ」のない作品だなと思ったのです。
あ、上の投稿「優しくて切ないファンタジー」でした。訂正します。
にゃむばななさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
>女性は男性に言葉を求めすぎなところもあるんですよね。
うん・・そうかもしれませんね。
私の理想はですね、キム・ギドクの『魚と寝る女』みたいに、男も女も押し黙って、何にも語らないのが本当にいいな、って。私つねづねそう思います。
言葉でのコミュニケーションが、時々嫌になってしまうんですよ・・・。
にゃむばななさんのような男性たちが、リアルの女性でなく2Dの方が良くなってしまうということについても、何となく分かる気がするんです。
>この映画は空っぽな自分にどうやって空気を入れ込めばいいか、自問自答してしまいますよね。
>そういう意味では非常にいい映画でした。
ええ、本当にそうですね!とても素晴らしい表現だったなあ、と思います。
シリキさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
>私もこの映画はとてもじゃないけど「優しくて切ないファンタジー」なんてなまぬるい表現の作品じゃないなと思いました
シリキさんもそう感じられますか!「なまぬるい表現じゃない」、うん、この言葉とってもいいですね。
おっしゃるとおり、全編とてもゆるみのない作品なのに、一見柔らかな、あえてかわいらしい映像を心がけている、という・・・。
美しい映像表現の中に、隠された人間嫌悪感に、私正直ヘドが出そうなほど、辛い気持ちになりましたわ。
皆さん平気なのかな・・・。
>「生きる」って息を吐いたりすったり永遠に続ける事だけど、それをやめたくなってしまう孤独というものをこんなにも上手く表現していたとはすごいなあって。
うーん、この映画の感想を、たった一言で見事に表現されましたね!w
なんだか、シリキさんと『イントゥ・ザ・ワイルド』の話が出来なかったこと、今更ながら悔やまれるぐらいです(笑)
(でもその時も、「この映画の感想はまだ自分には言えない」という表現にシビれたんですけどね!)
空気人形
「私は心を持ってしまった。空気人形」
心を持ってしまった空気人形。
窓辺でたたずむ心初心者の彼女は、人間の世界を見て何を思うのか。
【STORY】(シネマ・トゥデイ様より引用させていただきました。)
『歩いても 歩いても』などの是枝裕和監督が、業田良家原作の…
とらねこさん。こんにちは。
なんだか不思議な映画でした。
全ての感情を表す言葉を書いてもいいような。
心の複雑さからだろうなー。
なんて思ってます。
de-noryさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
>全ての感情を表す言葉を書いてもいいような。
>心の複雑さからだろうなー。
なるほど。この映画はおっしゃるとおり、様々な言葉を彷彿とさせる映画であるかもしれません。
それがすなわち、心の複雑さである、と。
なるほど、それは面白い見方ですね!
「空気人形」プチレビュー
空気人形とは・・・
大人のおもちゃ、性欲処理の代用品。
カップルで観賞して言葉を失った女性もいました。
男って人形にあんな事するの?なんて会話もあったり。
あんまりカップルで観ることはお薦めしないかな
『空気人形』に詰まっているもの
是枝裕和監督は、トークショーで「映画は映画館で観るもの」と語っていたが、おんなじセリフを岩松了さん演じるレンタルビデオ店店長に云ギ..
『空気人形』
□作品オフィシャルサイト 「空気人形」□監督・脚本 是枝裕和 □原作 業田良家(「ゴーダ哲学堂 空気人形」) □キャスト ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、高橋昌也、余貴美子、岩松了、星野真里丸山智己、奈良木未羽、柄本佑、寺島進、オダギリジョー、富司純子■鑑賞…
映画「空気人形」
監督:是枝裕和(昔の作品も観てみようと思いました)
出演:ぺ・ドゥナ(☆)ARATA 板尾創路(◎)高橋昌也(◎)余貴美子(何気に効いていた)
出演:岩松了 星野真里 寺島進 柄本佑 オダギリジョー 丸山智己 奈良木未羽
中年の男が所持していたラヴドー…
「空気人形」是枝裕和
「空気人形」公式サイト
空気人形
2009日本
監督・脚本・編集:是枝裕和
原作:業田良家
出演:ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路 ほか
ものたりないな〜と思ったのは、なんでだろう?と
考えていたんだけれど、
ああ、そうか、
ワタシが期待したものは、
ペ・ドゥ…
こむばむわ
そうそう
>息も絶え絶えなほどに
こんな感じですね〜
この感じになるのがこの映画の目標だったのかなあ?
順一も空気人形に空気吹き込むのって、相手を満たしてやるというより自分の快楽でやってた部分が大きいと思うし、心が交わって温かくなるハナシでは全然ないですしね。
>大概の男って、余計なことばっかり言うでしょ。
ああ、耳が痛てえ
manimaniさんへ
こんばぬわ。コメントありがとうございました!
>この感じになるのがこの映画の目標だったのかなあ?
うん、そうでしょうねえ、これ絶対狙っているでしょうね。
きっと「やり尽くした感」があるんじゃないでしょうか?是枝監督、「休止宣言」していましたが、そういうことかなーなんて思います。
構想9年ですもんね〜。さすがに、自分を出し切った感じがあるんではないでしょうか?
「ここまでの作品を作ったらしばらく作れないよ」・・・そんな声が聞こえるような気すらします。
>心が交わって温かくなるハナシでは全然ないですしね。
ですよね〜。美しいというのはまだ分かるんです。「監督の優しさ」みたいな言い方をする人も結構いて、「エッ?」なんて思いました。
鈍感でポジティブな人って、生きるの楽なんだろうな〜。羨ましいですね(苦笑)
>順一も空気人形に空気吹き込むのって、相手を満たしてやるというより自分の快楽でやってた部分が大きいと思うし
ああ、それもあるでしょうね。私は、順一は、一番いい死に方したんじゃないか、って思うのですよ。
だって、この世に存在する一番美しい「生き物」に、「自分の為を思って」行われた行為によって殺されるわけですから。順一はもともと死にたかった人ですしね。勘違いではあったけれど、ある意味正しい「双方向の行動」でもあったんですよね。順一が行ったことを考えたら。
ああ、この言葉、自分の記事中には強烈なネタバレ過ぎて書けなかったんですよ・・・。
>大概の男って、余計なことばっかり言うでしょ。
うーんこれね、自戒でもあるんです。
私も余計な言葉を言ってしまうんですよ。人を傷つけない人になりたい、と思っているのに。
空気人形
是枝裕和監督の作品が好きです。
いつか作品に出たいと思っています。(マジ)
映画館で予告編を観た時から絶対観ようと思ってました。
業田良家原作の短編コミック「ゴーダ哲学堂 空気人形」も読みました。
映画館は公開されたからちょっと経ってましたが
結構人が入って…
空気人形
空気人形 豪華版 [DVD]
「空気人形」 感想
私は、「心」を持ってしまいました。
持ってはいけない「心」を持ってしまいました。
すば??.
「空気人形」 心にぽっかり穴の開く映画
てっきり、空っぽの身体の中を、温かい空気でいっぱいに満たしてくれる映画だと思っていた。
パンパンに膨らんでいるときは、ふわふわとして楽しいけれど、穴が開いてしまうと、そこから空気はどんどんと抜けていき・・・・・・
こんなに美しい映像なのに。
こんなに可愛…
【映画】空気人形
2009年 日本 空気人形とは、男性の性の相手をつとめる人形のこと。
mini review 10469「空気人形」★★★★★★★★☆☆
『歩いても 歩いても』などの是枝裕和監督が、業田良家原作の短編コミック「ゴーダ哲学堂 空気人形」を映画化した切ないラブストーリー。心を持ってしまった空気人形と人間の交流を温かく見守る。『グエムル -漢江の怪物-』のペ・ドゥナが空気人形役を熱演。共演者も『蛇にピ…
『空気人形』’09・日
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