音楽 ▲139
’72年、日本
監督・脚本:増村保造
原作:三島由紀夫
製作:藤井浩明、葛井欣士郎
撮影:小林節雄
美術:間野重雄
音楽:林光
黒沢のり子 弓川麗子
細川俊之 汐見(精神分析医)
森次浩司 江上隆一
高橋長英 麗子の兄
三谷昇 俊二
自分にとって、久々の増村監督作品!ということで、フンフンと鼻息を荒くして、観に行ってきました!@『妄執・異形の人々Ⅳ』特集のシネマヴェーラ。
こちら、原作が三島由紀夫の’64年の同名タイトルの小説、『音楽』。
思わず原作が読みたくなるような、とことん濃厚な物語なのだ。フロイト流の精神分析を主体としていて、扱うのは近親相姦。おそらく、原作からしてきっととてつもなく濃そうなのだけれど、これまた映画化した増村監督ならではの濃さもあって、・・・特濃です。
タイトルロールすぐ後がまたイイ!
裸の女性と、ハサミをフィーチャーした極めて印象深い映像。これだけで、「来たな、増村ワールド」って気持ちが盛り上がる。
不感症の女性の精神分析は、回を進めるごとに次第に真実が明らかになってくる。
「音楽が聞こえない」という言葉に隠された深層心理・・・。
フロイトの精神分析を学んだことがある人であれば、必ず思い出すのがブロイエルのアンナ・Oの症例。フロイトがヒステリーの症状形成を理解していくとともに、無意識のダイナミズムを解明していく手がかりとなるものだったから。(フロイトの有名な5症例とは別)。
このアンナ・Oの症例に似たタイプのヒステリーの症状である「音楽が聞こえない」というものは、なかなかに興味深い。アンナ・Oの「葉巻の匂い」は、抑圧された愛情の表れであった。
一方、こちらの「音楽が聞こえない」というヒロイン・麗子には、抑圧された感情のため、ハサミとなった良心が、感覚を遮断する形でヒロインに音楽を聴こえなくしてしまう、というもの。
自由連想法や、夢の中で出てくるハサミが、彼女の良心の現れであったり、想像の中で彼女の両足となる様などは、イマジネーションを描いた映像としてもとても見事で、見ごたえがある。
ヒロイン麗子が、病人や死人、性的不能の青年を愛することは出来るのに、性的魅力を備えた恋人を愛することが出来ない、という下りもとても分かりやすい。
一見すると変態的としか思えないけれど、フロイトそのものといった世界観は、自分には馴染みやすく感じるものだった。
黒沢のり子がまるっきり緑魔子に思えてしまった。
これだけ変態勢揃いの中、一番オカシイのは医者だったけど(笑)
この辺りが何とも増村的なのだ〜☆ムフ。

性的快感を得られない女性の深層心理を主題とした作品を、大映を離れた増村保造が行動社とATGの製作で映画化。精神分析医の汐見のもとにやってきた若く美しい麗子は、「音楽が聞こえない」と訴える。「音楽」は何かを探るうち、彼女は少女時代、実兄と性的関係を持っていたことが分かり・・・(シネマヴェーラ説明より)
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コメント(4件)
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非常にどうでもよい話ですが、この作品でヒロインの恋人役を演じている森次浩司氏が、あのウルトラセブンことモロボシ・ダン氏であります
今でも現役で、それ系の作品にちょくちょく顔を出していますね
三島氏はSFにも造詣が深かったそうですが、ウルトラまで見ていたかどうかは正直よくわかりません。大江健三郎は嫌いみたいです
ATG作品は深夜にテレビをつけていると、ちょくちょくかかってなんとなく見たことがあったなー。地方局の深夜って、こういう地味マイナーな映画をよくやってくれていたのですよ
のほほんと見ているときつい展開になって暗い気分になったり、シュールな展開に置いてけぼりにされたり、眠気に勝てずに途中で寝てしまったり・・・ということがよくありました(笑) まだあのころの自分には早かったんだろなー
SGA屋さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
あ、本当ですね!この方、ウルトラセブンに出演してる方だったようですね!
ここでの彼の役どころは、「こんなに肉体派で魅力的な彼氏なのに、性的快感が得られない」というのです〜。
若い頃のこの森次さんは、なかなか素敵な人でしたよ〜。
この作品ですが、一般的には結構ディープで、疲れる世界観かもしれません。
眠くなるというより、濃すぎてドン引き、という感じかも。
マニアックな一品ですよ。
み〜ん。。。スネークセンター写真のピントの甘さにつっこみを入れようかとも思いましたが、ここは順当に、マスムラーなので。。。
>タイトルロールすぐ後がまたイイ!
そうそうあのオープニング。でっかいハサミのオブジェがヒッチコックの『白い恐怖』を髣髴とさせ、、、
『増村は傑作も多いが駄作も多い』って、ネットで書いてる人がいて、その駄作例でこの『音楽』が挙げてあったのだが、、、まあボクもけして、それほど傑作だとは思わないが、、、思わないがだ、
そういう人はたぶん『清作の妻』とか『赤い天使』みたいなのが傑作だと思っているんじゃないか。しかし、増村の本質は、このエログロにあるとボクは睨んでいるんだよ。そして『清作の妻』も『盲獣』と同じ構造を有した、エログロ映画なんだと思うよ。って記事をもうじきわたくしのあのクソブログに書くので、機会があったら見てみて下さい。
>これだけ変態勢揃いの中、一番オカシイのは医者だったけど(笑)
ブハハハハ。喋り方がへんだよね。なんだろあの後期増村が俳優に強いた棒読み口調。それが実は後年、やはりATGで作られた『曽根崎心中』(宇崎龍童/梶芽衣子)で見事に結実しているので、機会があったら見てみて下さい。
あとボクはミシマーでもあるので、小説も読んだのだけれど、大昔なのであんまり覚えてないのですが、兄が住んでる場所が『山谷』に特定されていて、三島の美文が山谷を描写している。。。
この東京シティーにまさかスラム街が存在しているなんて、、、その憧れの山谷に潜入したレポートが、よりによってわたくしのあのクソブログにありますので、機会があったら見てみて下さい。
http://ameblo.jp/marukawa-gum/entry-10236963565.html
あと森次晃嗣さんはだいぶ前から藤沢でカレー屋さんをやってます。カレーを好きな人に悪い人はいないというのが、とりあえずボクの心信条です。。。
裏山&さん。。。へ&
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
>スネークセンター写真のピントの甘さにつっこみを入れようかとも思いましたが
ぎゃははは!そこツッコまれたあ
あの写真、昼間なのにすんごいレストランが暗いんですよ。そのせいか、なんだか全然ピントが合わなかったというか、・・・要するにカメラを使いこなせてなかったよ!(爆)
でも、もうやり方分かったのだ。
>マスムラー
わーい!マスムラー作品にコメントくれて、ねこりん嬉しい〜!
ミシマーにしろ、マスムラーにしろ、語尾伸ばしただけやんw
いやいや、こういう無駄話をしていると、文字数が減ってしまう・・
確かに、この作品は、他の増村作品に比べれば、ゆきすぎな上になんだかいまいち感はあるかもしれないですね。
昔の日本文学って、フロイトの説に傾倒した作品てあるじゃない?私は、そんな三島のフロイトへの傾倒傾向を、増村監督がさらに推し進めた作品のように感じたんですね。
精神分析学の基礎を読んだことがありさえすれば、そんなに駄作のようには感じなかったりするんですよ。。。
>増村の本質は、このエログロにあるとボクは睨んでいるんだよ。そして『清作の妻』も『盲獣』と同じ構造を有した、エログロ映画なんだと思うよ。
うん賛成〜!私も、増村作品はエログロが基本だと思いま〜す!
ただ『盲獣』に似ているのは、『赤い天使』の方、と思うカナ。
>曽根崎心中
了解〜!これ見ないといけませんね!ねこりんは、増村作品はこれまで、全部映画館で見ているのだ!エラいっしょ。
山谷のところも、後でブログ読みにいきますねー!
森次さんは、現在カレー屋さんなんですね!
藤沢かあ、ちょっと遠いなあ。
ウラヤマレポもそのうち待ってま〜す!