rss twitter fb hatena gplus

*

動物農場 ▲119

動物農場’54年、イギリス
原題:Animal Farm
監督:ジョン・ハラス、ジョイ・バチュラー
原作:ジョージ・オーウェル
音楽:マティアス・サイバー

またすごい作品が、「ジブリ美術館ライブラリー」のラインナップで送り出されて来た。
’54年にイギリスで製作されたこの作品、50年以上も前に作られた、こんな名作アニメがあったなんて。

私は以前もどこかに書いたかもしれないけれど、ジブリが元々大好き、という人ではなかったんですね。『もののけ姫』から、注目し始めた。ジブリがそれまで描いたことのないような、暗いタッチが、私にはとても気に入った。エコをテーマに「お子さまと安心してみれますよ〜」というNHKのTVでも見るような安心感、そういうのは自分の好みではなかったので、『紅の豚』ぐらいかな、結構好きだったのは・・・。でも『もののけ〜』は初めて「おやっ」と思ったわけです。そして『千と千尋〜』ぐらいから、本当に好きになってきた。
でも、それよりむしろ、このジブリ美術館ライブラリーを知ってから、ジブリって本当にすごいんじゃないか、こんな素晴らしいアニメの歴史があったなんて、そして製作年代にかかわらず、これまでの素晴らしい作品ばかりを贈る・・というコンセプトがとても気に入ってしまって、突如として気になる存在になってしまったのです。そしてついでに『もののけ』以前の作品も改めて見て素晴らしいな、と思い至ったりしたのですね。

こちらの作品が東京で公開されたのは去年の暮れ、’08年の12月。いつの間にか公開が終わっていたのだけれど、DVDになったら必ず見よう、と二ヶ月も前からTSUTAYA DISCASに予約を入れていたのに、ずっと人気で今頃になってしまった。だって面白いもの!すごい、相変わらず鋭い作品。

タッチはどことなくフランスの『王と鳥』を思わせるような、ウォルト・ディズニーに影響されたような、柔らかい曲線のかわいらしい動物たち。
しかし、物語は『王と鳥』同様に、決して一筋縄ではいかない。

ストーリー・・・
残忍な農場主に虐げられて暮らしてきた馬、牛、ブタなどの動物たちは、人間たちに耐え切れず、2匹の有能なブタ、スノーボールとナポレオンを先頭に、革命を起こす。人間を追い出した動物たちは、「全ての動物は平等である」という理想を掲げ、自分たちで農場経営を始める。しかし、順調だったのは数ヶ月だけ。動物たちに仕事を教えていたスノーボールとナポレオンが対立を始め、やがて農場はかつてよりひどい有様になっていったのだった・・・

人間を追放し、動物たちが統治するようになるも、次第に内部腐敗が進んでいく。少しづつ楽をするものが現れるようになったり、やがては初めに統治していた豚のスノーボールが失脚したり。身を粉にして働いている動物たちが、少ない食べ物しか与えられないのに、楽をしている豚たちが柔らかいベッドに寝て、好きなだけ食べている・・・。この有様は、そのままそっくり現代の不況と、格差社会をものの見事に表現しているかのよう。見ているこちらも辛酸を舐めるような、激辛な表現が使われている。だんだん腹が立つやら、なにやら煮えくり返るものが・・・。

このジブリの謳い文句がまたすごい。「今、豚は太っていない」。このチラシの意味は、実は当時見た時は分からなかった。見て初めて分かった。
宮崎駿が言うには、「ブタってセレブのことでしょ。今、ブタは太ってないんだよね。ジムに通ったりせっせとトレーニングして、痩せてるから。」
太っていれば分かりやすいのにね、ブタも。

それにしても、馬のボクサーの最後は本当に悔しくて悲しくなった。ロバのベンジャミンの悲痛な鳴き声が、忘れられない。
よくあんな音を見つけてきたなあ、なんて思う。

それから、風車がようやく完成し、「初めは犠牲者のモニュメントのようであったのに」、だんだんそれを人々が忘れていく様、これも非常に痛烈な一言だった。
そう、忘れるんだ、人間も動物も。あんなに悔しかったことすら忘れて、そのヒエラルキーに次第に慣れていってしまう。慣れの力はすごい。

ブタのナポレオンが、人間の農場主だったジョーンズ氏にそっくりに見える一瞬がまたすごい。統治者がその首をすげ替えようとも、誰が統治しようとも、所詮その中身は変わらない。むしろいよいよ悪いのだ。

ラスト、まるで『蟹工船』にそっくりに思える瞬間があった。そうだ、こちらもソヴィエト共産主義に落胆したジョージ・オーウェルが作った作品とのことだけれど、こちらもまた別の蟹工船。
最後は、原作とは違っているようなのだけれど、重苦しく悲しい物語のこちらに、一筋の光を差し込むラストで、私は良かったと思う。

動物農場@映画生活

 

関連記事

『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む

『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義

80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む

『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの

一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む

『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究

去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む

『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン

心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む

2,355

コメント(4件)

  1. とらねこさん、こんにちは。
    これ、映画になってたんですね。
    っていうかアニメかぁ。
    知らなかったー。
    私、ジョージ・オーウェル作品結構好きなので、これ原作読んでるんですが、良くできてますよね。
    これ、アニメ見てみようっと。

  2. あすかさんへ★
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    へー!あすかさんは、原作を読まれていたのですね!
    これアニメなんですが、下手な実写映画より、よっぽど鋭い作品でした。私は結構ヤラれちゃいましたよ。
    とことん社会派で、激重ではあるんですが、機会があればこちらも是非♪
    感想、待ってま〜す!

  3. 動物農場は約30年前に大学の卒論で書いたのでこうして取り上げられるとうれしいです。
    でもいまなぜ動物農場なのか?
    実は今だからこそ非常に身近な問題なのだと思います。

  4. 新太さんへ
    おはようございます。不在にしていて、コメント返信が遅れました。申し訳ありませんでした><
    卒論で動物農場を取り上げられたのですか!
    ああ、それ読みたいです。
    そうなんですよね、今だからこそ、古くて新しい素材ですね。古田新太・・・いやいや、温故知新ですねw
    普遍的な価値のある作品とも言えるし、また今だからこそ、新鮮に感じるともいえますね。




管理人にのみ公開されます

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)


スパム対策をしています。コメント出来ない方は、こちらよりお知らせください。
Google
WWW を検索
このブログ内を検索
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ

結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...

【シリーズ秘湯】乳頭温泉郷 鶴の湯温泉に泊まってきた【混浴】

数ある名湯の中でも、特別エロい名前の温泉と言えばこれでしょう。 乳頭温...

2016年12月の評価別INDEX

年始に久しぶりに実家に帰ったんですが、やはり自分の家族は気を使わなくて...

とらねこのオレアカデミー賞 2016

10執念…ならぬ10周年を迎えて、さすがに息切れしてきました。 まあ今...

2016年11月の評価別INDEX & 【石巻ラプラスレポート】

仕事が忙しくなったためもあり、ブログを書く気力が若干減ってきたせいもあ...

→もっと見る

【あ行】【か行】【さ行】【た行】 【な行】
【は行】【ま行】【や行】 【ら行】【わ行】
【英数字】


  • ピエル(P)・パオロ(P)・パゾリーニ(P)ってどんだけPやねん

PAGE TOP ↑