扉をたたく人 ▲112
’07年、アメリカ
原題:The Visitor
監督・脚本:トム・マッカーシー
製作:アリー・ジェーン・スカルスキ、マイケル・ロンドン
製作総指揮:オマー・アマナット、ジェフ・スコール、リッキー・ストラウス、クリス・サルバテッラ
撮影:オリバー・ボーケルバーグ
美術:ジョン・ペイノ
編集:トム・マカードル
音楽:ヤン・A・P・カチュマレク
リチャード・ジェンキンス ウォルター・ヴェイル
ハーズ・スレイマン タレク
ヒアム・アッバス モーナ
ダナイ・グリラ ゼイナブ
静かに感動が押し寄せる良作。
リチャード・ジェンキンスの、自然体なのに孤独を感じる佇まいが本当に素晴らしい。
ナレーションも多くなく、まるで主人公の心の中を描くように、コミュニケーションで使われる台詞もとてもありきたりで、飾り気のない素朴な印象を受ける。にも関わらず、そうやって少しづつ人と関わることで、だんだんと孤独が癒されていくのを、じわりと感じる。心の扉が少しづつ開いていく。
“9.11以降”、NYでは移民に対し、非常に厳しく取り締まるようになったという設定。「移民は財産です!」という誰かの政治家の言葉がハイウェイの垂れ幕で掛かっていたり、新聞の見出しが映るけれど、その言葉は空しく響く。
9.11以降、移民に対し厳しくなったということの裏側にあるのは、よそ者を疑い、排斥しようとする意識。どこか人との関わり合いを持つことに対し、積極的になれない感情。それらが、妻を亡くした主人公ウォルターの孤独な姿にどこか投影されているのかもしれない。
人を信頼し、目の前の人に何のてらいもなくジャンベを教えようとする、まっすぐな瞳のタレク。彼の姿、彼の苦境を見て、ウォルターが「自分の出来る限りのことをしよう」とする気持ちが良く分かる。
何より心に響くのは、ジャンベを叩くその音。とても軽快で、一気に心が軽くなる。
音楽は極めて少なめに、抑制されたその静かな世界に、突如として響くジャンベのリズム。
静と動という正反対のものが、いかに力強く映るかをこの映画は見せつけてくれた。
ジャンベのセッションを通し、音が絡み合っていく中で、少しづつ人と人との絆を感じていく。
何と言ってもジャンベのシーンが本当にいいので、そこだけでもこの映画は評価したくなってしまいそう。
フェラ・クェティのCDが欲しくなってしまう!

コネチカットで暮らす大学教授のウォルター(リチャード・ジェンキンス)は、妻と死に別れて以来本を書く事にも、教える事にも情熱を燃やせず憂鬱な日々を送っていた。ある日、出張でニューヨークを訪れた彼は、マンハッタンにある自分のアパートで見知らぬ若いカップルに遭遇する。知人に騙されて住んでいたというそのカップルは、シリアから移住してきたジャンベ奏者のタレク(ハーズ・スレイマン)と彼の恋人でセネガル出身のゼイナブ(ダナイ・グリラ)だと名乗る。・・・
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コメント(28件)
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扉をたたく人
『扉を閉ざしたニューヨーク─ 移民の青年との出会いと“ジャンベ”の響きが 孤独な大学教授の心の扉を開く。』
コチラの「扉をたたく人」は、「サンシャイン・クリーニング」同様たった4館での上映から、口コミで広がり6週目にして全米興行収入トップ10に入り、6か…
静かに胸にしみる作品でした。ジャンベの響きに心奪われ、音楽の持つ力というか、理屈でなくダイレクトに人と人の心を結びつけ、また頑なな心の扉を力ずくでなく自然に開かせてしまう力に、打たれました。公園でのストリートパフォーマンスのシーン、ジャンベをおずおず触る姿、楽しくたたく姿、地下鉄の駅で一心にたたく姿・・・etc.etc.忘れられないシーンがこんなにいっぱいあったとは!!
>フェラ・クェティのCDが欲しくなってしまう!
私も、全く同じこと考えました!!今、どれにしようか思案中なんです!!
rubiconeさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ジャンベを叩くシーンが本当にいいんですよね!
音楽が与えてくれる喜び、というのも元々あると思うんですが、
ジャンベはセッションすることが大事だ、というスタイルだからこそ、余計にウォルターの胸に響いたのかなあ、なんて思いました。
忘れられないシーンが本当多いんですよね
あ、フェラ・クェティ、今探してらっしゃるんですね♪
かかったのは一瞬だったんですが、オリジナリティと圧倒性を感じました。私も欲しい!
扉をたたく人
原題:THE VISITOR
2007年/アメリカ/1時間44分
監督・脚本:トム・マッカーシー
音楽:ヤン・A・P・カチュマレク
出演:リチャード・ジェンキンス、ヒアム・アッバス、ハーズ・スレイマン、ダナイ・グリラ、マリアン・セルデス
…
こんにちはー。
「9.11後の(国全体の)感情の偏り」を反省し、バランスをとろうという意図のある作品なのだと思うのですが、こういった作品が事件後にすぐに出てくるところにアメリカの「民主主義国家としての成熟度」を感じますね。ま、作品の評価とはもちろん別なのですが。
私もとらねこさんと同じく、ジャンベの響きとそれを演奏する彼らの表情に魅入らされました。むしろ作品としては、そちらの印象が強過ぎて、主題(と思われる)の「アメリカ人の恐怖心・不安が他民族の排斥につながり、多くの悲劇を生んだ」というテーマや、「実は人間は非常に脆弱な根拠のもとに他者を信用して社会生活を送っていて、それは簡単に崩れてしまうものだ(=社会は底が抜けている)」というテーマがちょっと弱まってしまっているような気さえしてしまいました。ちなみに後者のそれは、「ちょっとヘンな犯罪者が(従来の期待値以下で)表れただけで、監視カメラをつけまくろうとする日本」にも通じるかと。
まぁ、もちろんそれは、「演奏シーンが良すぎたがゆえの副作用」なのですが。
# フェラ・クティですが、iTunes Music Storeでとりあえずベスト版をポチってしまいました。(^^;
扉をたたく人
現在公開中のアメリカ映画、「扉をたたく人」(監督:トム・マッカーシー)です。恵比寿ガーデンシネマで観賞しました。
なんとも言えない余韻の残る作品でした。世の中の理不尽さ…
マサルさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>「9.11後の(国全体の)感情の偏り」を反省し、バランスをとろうという意図のある作品なのだと思うのですが、
なるほど、この文を読んでマサルさんの書いた記事での意味が理解できました。
私も、喪失の後で、少しづつ荒れ地に草が生えるように、人をもう一度信用しよう、目の前の人を人種に変わらず信じていこう、という作品のように思えました。もともと、アメリカは人種のるつぼなのに、と。
>主題(と思われる)の「アメリカ人の恐怖心・不安が他民族の排斥につながり、多くの悲劇を生んだ」というテーマや
そうですね、ただ私は、こうしたことはテーマと言ってしまうと少し強いかな、とも思います。おそらく根幹にあるかもしれないけれど、むしろ“それ以降”の話であるかな、と。
>「実は人間は非常に脆弱な根拠のもとに他者を信用して社会生活を送っていて、それは簡単に崩れてしまうものだ
おっしゃる通りだと思います。心が沈んでいると、コミュニケーションを取る意欲すら無くしてしまう・・。
もしかしたら、そこで見えなくなってしまうものがあるのかもしれない。
ウォルターはおそらくこの青年と出会わなかったら、アメリカが排除しようとしている何かに気づかなかったのでは、と思います。
自分は、とても微妙な心の襞を描いた作品だと思えましたよ。
マサルさんのおっしゃるテーマとは、映画全体を通して最後まで見た時に、ふとその根っこに見えてくるものかもしれない、なんて。
>とりあえずベスト版をポチってしまいました
ポチってとは、PCでモノを買う時によく使われる言葉なんでしょかw
フェラ・クティ、いいですよね!ちなみに私はHPにあったクティでなく、字幕に書いてあったクェティを使用してみました。
こんばんは。
友人と2人で観たのですが、鑑賞後「リチャード・ジェンキンス最高!」でした。
あの偏屈で保守的なウォルターが少しずつ心の扉を開いていくところが・・・・。
ジャンベの音がずーっと耳に残り、いろいろな扉をたたく音のように思えました。
映画 「扉をたたく人」を見てきました。
{/m_0058/}映画「扉をたたく人」@恵比寿ガーデンシネマ
監督・脚本:トム・マッカーシー
出演:リチャード・ジェンキンス、ヒアム・アッバス
写真はクリックすると大きくなります。
アメリカに旅行に行くと厳しいセキュリティチェックにうんざりさせられる
日本人…
とらねこさん、
こんばんはコメント有難うございました。
妻を亡くして生きる希望を失った教授の心の扉を叩いたジャンベのリズム、人種を超えて通じる相手を想う心、とても丁寧に描かれてました。
最後に万感の思いを込めてジャンベを叩く教授の姿が感動的でした。
cinema_さんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
>リチャード・ジェンキンス最高!
驚きましたよね〜!今までよく見る顔なのに、はてさて何に出てる人だったっけ、と、
帰ってすぐに出演作をチェックしてしまいました!
きっとこれをやったのは私だけではないはず・・なんて思っていますw
ジャンベの叩く音が本当に心に残るんですよね。じわりと心に残りました。
tatsuさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
万感の思いをこめてジャンベを叩く、本当にその通りでした。
NYの地下鉄がちょうどそこを通るその映像、というのも素晴らしくって。
この瞬間の映像を見て「この映画を見たい」と思いましたよ。
『扉をたたく人』 The Visitor
ジャンベのリズムが生きる鼓動となるのだ。
妻と死に別れて以来無気力に暮らしていたコネチカットに住む大学教授のウォルターは、出張でニューヨークを訪れた際、マンハッタンにある自分のアパートで見知らぬ若いカップルに遭遇する。『The Visitor』というタイトルからし…
扉をたたく人
老年の大学教授・ウォルターは、同僚の論文発表の代役を嫌々任され、数年ぶりにニューヨークの別宅を訪れた。しかしそこには、シリアから移住してきた青年とその恋人が暮らしていた。仕方なしに二人を居候させる事にしたウォルターは共同生活の中で二人と打ち解けていく。…
こちらにもお邪魔します。
いい映画でしたよねぇ。ジャンベの響きがいつまでも耳に残ります。
911以降の移民問題もよく描けていましたが、一人の老人の孤独が彼を必要とする人々の想いで氷解していく様がとてもよかったです。レストランでの彼の独白が、何故か無性に胸に響きましたね。
えめきんさんへ
こちらにもコメントありがとうございます〜♪
>一人の老人の孤独が彼を必要とする人々の想いで氷解していく様がとてもよかったです
そうですね。人と人がコミュニケーションを取る・・すごく大切なことなのに、時に自然にそうすることがとても難しいことってあるんですよね。
レストランでの独白は、心に響きましたね。忙しいふり・・確かに私もそうしているところがあるなあ、ってつくづく思いました。
ラスト、地下鉄のホームで一人怒りを込めてジャンベを奏でる姿は凄く印象的でした。
表情を見せずにあれだけの演技ができるのも、リチャード・ジェンキンスだからこそなんでしょうね。
『扉をたたく人』
俳優生活40年目にして初めての主演映画だというリチャード・ジェンキンス。これまで数多くの映画で様々な役を演じた名脇役として見慣れてきた彼ですが、その彼のいろんな魅力がまさに凝縮されたような映画でした。そしてそんな彼が演じたウォルター・ヴェイルこそアメリカそ….
にゃむばななさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ラストのシーン、本当に印象的でしたよね!
>表情を見せずにあれだけの演技ができるのも、リチャード・ジェンキンスだからこそなんでしょうね
そうですよね。こちらを向いてすらないのに、演技で差がつくシーンでしたよね。ジャンベの腕前も見事でした。
扉をたたく人◇◆the Visitor
8月22日から、京都シネマにて公開されました!
最近こういうかたちでのヒットが多いですね。本国アメリカでの封切時の上映館はわずか4館だったそうです。鑑賞した人たちの感動が口コミで広がり、何と最終的に270館に拡大したという本作。観ないわけにはいきませんよ…
扉をたたく人■出会いを阻む国の仕組みの不健全さ
邦画・洋画の中から最も優れた日本語タイトルの作品に与えられる筑紫賞(故・筑紫哲也氏が創設され、その思いを受け継いで継続されている)、その第5回目に選ばれたのがこの「扉をたたく人」。この「扉をたたく人」という題名はは、作品のテーマにもつながっており、同時…
「扉をたたく人」
静かだけど、力強い作品でした
mini review 09421「扉をたたく人」★★★★★★★★☆☆
主人公の大学教授を演じた名優リチャード・ジェンキンスがアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた感動ドラマ。911以降、移民希望者や不法滞在者に対して厳しい措置を取るようになったニューヨークを舞台に、孤独な初老の大学教授と移民青年の心の交流を描く。監督は俳優と…
「扉をたたく人」(THE VISITOR)
コネティカット州の大学教授とシリアからの移民青年との音楽を通して心の交流や連帯を描いた感動のヒューマン・ドラマ「扉をたたく人」(原題=訪問者、2007年、米、104分、トム・マッカーシー監督・脚本)。この映画は、全米封切り当初は4館だけだったが、口コミで…
『扉をたたく人』’07・米
あらすじ愛する妻に先立たれ、全てに心を閉ざし、無気力な毎日を送っている大学教授のウォルター(R・ジェンキンス)。ある日、ニューヨークで移民青年タレクと予期せぬ出会いを果たす…
とらねこさん。
お久しぶりです!!
劇場公開時に見逃したのですが、DVDで観て、とても感動しました。
見逃したことを悔やんでます。
「忙しくなんか無い」
の告白シーンがすごく響きましたね。
扉をたたく人
「何もできていない。忙しいふりをしているだけ」
【STORY】(goo映画様より引用させていただきました。)
主人公の大学教授を演じた名優リチャード・ジェンキンスがアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた感動ドラマ。911以降、移民希望者や不法滞在者に対して厳…
de-noryさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
DVDで見ても、感動されましたか^^
これ、劇場公開はそれほど大規模でもなかったですもんね。
そうですね、「忙しくなんかない、もう何年も同じことをしているだけだ。」という気持ち。
自分が停滞しているように感じる、というのは、どんな職業でもそう思いそうです。