バーダー・マインホフ 理想の果てに ▲108
’08年、ドイツ・フランス・チェコ
原題:The Baader Meinhof Complex
監督:ウリ・エデル
製作:ベルント・アイヒンガー
製作総指揮:マルティン・モスコビッツ
原作・監修:シュテファン・アウスト
脚本:ベルント・アイヒンガー、ウリ・エデル
撮影:ライナー・クラウスマン
美術:ベルント・レベル
編集:アレクサンダー・ベルナー
音楽:ペーター・ヒンダートゥア、フローリアン・テスロフ
マルティナ・ゲデック ウルリケ・マインホフ
モーリッツ・ブライブトロイ アンドレアス・バーダー
ヨハンナ・ヴォカレク グドルン・エンスリン
ブルーノ・ガンツ ホルスト・ヘロルド
シュティペ・エルセク ホルガー・マインス
ナディア・ウール ブリジット
ヤン・ヨゼフ・リーファース ピーター
トム・シリング ジョセフ
ここぞとばかりに詰め込まれた情報量の多さには呆れほうける。
ドキュメンタリータッチに娯楽性皆無で進むこの作品。どこをどう汲み取るべきか、自分の頭で整理しながら見ている自分が居た。「これはトンでもないドイツ映画に当たったゾ!」と我ながら思い、負けないぞーって思いながら見た。この重さがいいんですよネ。書いていて腕が鳴るっていうか、本気汁が出るっていうか。
これだけの物語を語っておきながら、そこに徹底してある冷徹な事実への目線。誰もヒーローにも描かれていないし、いや描きようがない有り様を見せつけてくる。
それこそ等身大に描かれているのだろうけど、うん、それが功を奏してすんごい大馬鹿者に思えるンですけど、アンドレアス・バーダー。ああ、共感できないったら。
しかし、ここに出演している俳優陣の数々を見よ。モーリッツ・ブライブトロイ、マルティナ・ゲデック、ブルーノ・ガンツ・・・。今のドイツ映画を牽引する魅力的な俳優陣。この映画は決して侮れない。
発端は’67年、ベトナム戦争を始めたアメリカに対する、帝国主義への反抗。世界で勃発するコミュニストの中、西ドイツでドイツ赤軍RAFの全貌について、ピッタリと肉薄し、その全てを内部からえぐり取る。
元は学生たちの青臭いデモ行動と思われた行動が、ドイツ国内の各地に進んでいった。だがデモが激化し暴動が起こったり、とある一人の革命のリーダーが銃弾に倒れるなどの事件から、運動は激化の一途を辿っていく。当時のドイツ国内における警察国家の管理の厳しさがまたこの反感に尾ひれをつけ、さらに激しくする要因になっていたとも言える。
“デパートの放火”というところから始まる武装行動は、あまり褒められたものに思えない人も多いだろう。こうした一連の行動が革命によもや結びつこうとは?
「それ本気なの?」とその時ウルリケ・マインホフはグドルンに尋ねた。しかしジャーナリストだったマインホフは、彼らに賛同してゆく。
何をどう描こうとも、武力行使を用いた一連のRAFの行動全てを、頭で理解しそこへ共感してゆく、そんな何かがあるかは疑問だ。おそらく、この作品が楽しめない人の多くは、ここがどうしても引っかかってしまうのだろうか。
ドイツ赤軍、RAFであるそのバーダーとマインホフという二人の組み合わせ。原題でもある、“The Baader Meinhof Complex”。
理論を持たず、頭で考えるより先に動き出しているかのような、行動派のバーダー。そこに、ウルリケ・マインホフという元はジャーナリストだった彼女が、その行動に意味を与え、世間に発信してゆく。
こうした二人のタッグを組んだ姿、これが最初のRAFであり、ドイツ全国各地に拡がっていく反乱武装行動の先駆けとなったのだった。
そして、警察がなぜ鎮圧できず、ここまでこじれにこじれたか。そうしたことも描き出している。
たとえば日本では、浅間山荘事件や当時の全共闘、学生運動もそれらの部類に入るだろう。
そうした行動が行き着いたところ、“理想の果て”は皆似たりよったりなのかもしれない。彼らそれぞれのグループがやったことは決して褒められはしない。
だが、不思議だけれど、自分には心に訴えかける何かがあった。
それはきっと、この頃の時代の持っていた、“信じて行動すること”に対する何かだった。
久しぶりに手ごわい映画を見た。
少なくとも私は大満足!五臓六腑に染み渡る、妙な快感があった。

1967年の西ドイツ。ジャーナリストのウルリケ・マインホフは、反米デモ活動中に学生が警官に射殺される事件を目の当たりにして衝撃を受け、社会変革の必要性を感じ始める。時を同じくして、アンドレアス・バーダーらがベトナム戦争への過激な抗議活動を開始。逮捕されたバーダーらの脱走を手助けしたマインホフは、彼らとともにドイツ赤軍(RAF)を立ち上げる・・・
2009/07/29 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物, :ヒューマンドラマ
関連記事
-
-
『沈黙』 日本人の沼的心性とは相容れないロジカルさ
結論から言うと、あまりのめり込める作品ではなかった。 『沈黙』をアメリ...
記事を読む
-
-
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』 アメリカ亜流派のレイドバック主義
80年代の映画を見るなら、私は断然アメリカ映画派だ。 日本の80年代の...
記事を読む
-
-
『湯を沸かすほどの熱い愛』 生の精算と最後に残るもの
一言で言えば、宮沢りえの存在感があってこそ成立する作品かもしれない。こ...
記事を読む
-
-
『ジャクソン・ハイツ』 ワイズマン流“街と人”社会学研究
去年の東京国際映画祭でも評判の高かった、フレデリック・ワイズマンの3時...
記事を読む
-
-
『レッドタートル ある島の物語』 戻ってこないリアリティライン
心の繊細な部分にそっと触れるような、みずみずしさ。 この作品について語...
記事を読む
コメント(22件)
前の記事: 多重人格探偵サイコ 雨宮一彦の帰還 (Vol.1〜6・全話) ▲107
次の記事: ノートン先生、稼動中なり。
バーダー・マインホフ 理想の果てに
『ムー』最新号、南山宏の「ちょっと不思議な話」によると、戦争で空中衝突し、一体化された二つの銃弾がウクライナで発見されたという。南山は、空中で弾丸が衝突する可能性は無限にゼロに近く、前例のない未曾有の珍事だと書いている。
とらねこさん、ぐーてんあーべんと。
キャストがよかったからか、エンタメ風味の演出のおかげが、長尺なのに、魅入ってしまいました。
この手の史実ベースのものは普通だと、事件やその背景のことをよく知らないと楽しめなかったりするものなんですが、これはそういうのとは関係なく興味深くー。
反体制系青春暴走ものは結構好きな私であります。基本的に。
「バーダー・マインホフ 理想の果てに」:東砂六丁目バス停付近の会話
{/kaeru_en4/}カフェ・コロラドって昔からあるよな。
{/hiyo_en2/}第1号店は1972年に川崎市に誕生したっていうからね。
{/kaeru_en4/}1972年て言やあ、バーダー・マインホフが西ドイツで連続爆破事件を起こした年じゃないか。
{/hiyo_en2/}おや、妙に詳しいわね。
…
かえるさんへ
ぐーてんなーべん、かえるさん。
キャストは良かったですよね〜!
えー、私はエンタメ風味とはあまり思わず、むしろ詳細に渡り過ぎるが故に逆に不親切な、娯楽性を欠いた作りかなと、思えてしまったりもしたんですが。だからこそ自分でポイントを掴もうとして緊張感を持って見ることが出来ましたし、逆にそこが気に入って、結果的に次第にハマっていけて面白かったです。
それはかえるさんのおっしゃるように、事件の背景や人物像を知らずとも、見ていてだんだん引き込まれていけるような、肉薄した作りのせいかな、と思ったりしました♪
バーダー・マインホフ
現在公開中のドイツ映画、「バーダー・マインホフ 理想の果てに」(監督:ウリ・エデル)です。渋谷シネマライズで観賞しました。
「バーダー・マインホフって何?人の名前?」…
「バーダー・マインホフ 理想の果てに」ウリ・エデル
バーダー・マインホフ公式サイト
バーダー・マインホフ 理想の果てに
DER BAADER MEINHOF KOMPLEX
2008ドイツ/フランス/チェコ
監督:ウリ・エデル
製作・脚本:ベルント・アイヒンガー、ウリ・エデル
原作:シュテファン・アウスト
出演:マルティナ・ゲデック(ウ…
バーダー・マインホフ 理想の果てに
ドイツ
ドラマ
監督:ウーリー・エデル
出演:マルティナ・ゲデック
モーリッツ・ブライブトロイ
ヨハンナ・ヴォカレク
ブルーノ・ガンツ
【物語】
1970年代に、ドイツでアンドレアス・バーダーとウルリケ・マインホフによ
…
『バーダ―・マインホフ 理想の果てに』
(原題:THE BAADER MEINHOF COMPLEX)
—–バーダ―・マインホフ?
それってニャんのこと?
「一言で言えば、後のドイツ赤軍(RAF)の母体。
バーダーは、ベトナム戦争に抗議するためデパートに放火したカップルの中の、
男性の方アンドレアス・バーダー。
マインホフ…
こんにちは。
とらねこさんのところにおうかがいすると、
いつも高揚しちゃう自分がいます。
観てられるラインナップがとにかく超個性的!
これなんかビンゴ!
manimaniさんのところでお名前を拝見したときなんか、
ほくそ笑んじゃいましたもの。
この映画、客観性、ドキュメンタリー・タッチの作品でしたが、
あのイスラエルのシーンは、
妙に映画っぽかったですよね。
なんとも不思議な体験をしました。
こんばんは^^
ワタシはこの冷徹なドキュメンタリータッチの一方で妙に音楽や画面つなぎがドラマ風なところが気になりました。
それは欠点ではなくて実は誠実さなのでは?との深読みはワタシの記事に〜(誘導ではありません^^;)
ヒロイックでないところは例えば「実録連合赤軍」とは違う点ですね〜
仕掛ける方も立ち向かう方も徹底して現実主義者ばかりというところもドイツ的なのかなあと思いました。
機会があったらモウイチド観たいですね
えいさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
うわあ、私もえいさんからコメントをいただいて、とっても高揚しちゃう自分が居ます。
最近ちょっとご無沙汰しちゃってました。またこれを機に(笑)、今後もどうぞお話させてください♪
そうですね、確かにイスラエルの場面は、映画的と言えますよね!
私にはイスラエル人の言うことが明らかに正しく思え、その時のバーダーは単に気の短い考え無しの白人の若者にしか思えませんでした。
さらにその後のマインホフの裏切りと続くのですものね。その際の対処の仕方も、人間らしかったのはイスラエル人の方だ、と思いました。
でも彼ら一次世代には彼らなりの考えがあったのだ、とその最後には思ったのです。
manimaniさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>ワタシはこの冷徹なドキュメンタリータッチの一方で妙に音楽や画面つなぎがドラマ風なところが気になりました
私もそれを欠点とは全然思ってないですよ本当は。
そうですね、確かに使われている音楽はmanimaniさんのおっしゃる通り、エンターテイメントとして成功しているものだったりしましたね。
へえ、『あさま山荘〜』の方はヒロイックに描かれているんですね。そうだったんですか・・・。
バーダー・マインホフ 理想の果てに
「バーダー・マインホフ 理想の果てに」DER BAADER MEINHOF KO
『バーダー・マインホフ 理想の果てに』 Der Baader Meinhof Komplex
青春暴走ものとしても魅力的。社会派視点で考察しがいもあり。この手の映画が私はとても好きらしい。
そして、今までありがとう、ムービーアイ!
1970年代にヨーロッパを震撼させた、10年に及ぶドイツ赤軍(RAF)による数々の事件の全貌を明らかにしたシュテファン・アウ…
とらねこさん、こんにちは!
恐らく劇場では観られないので(号泣)、とらねこさんの記事を興味深く読ませて貰いました。
やはり、かなり見応えのある作品そうですね!
この時代の西ドイツが一体どんな風だったのか知りたかったです。
ちなみに邦題の『バーダー・マインホフ』とは2人の名前を組み合わせたものだったんですね。
てっきり誰かのフルネームだと思っていました。汗
Elijahさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございます!
そうですね、とても硬派な映画でした。ガッツリ二時間半ですから、もう見るとグッタリしてしまいましたがw
大阪で配給されなくなってしまったなんて、残念です
>『バーダー・マインホフ』とは2人の名前を組み合わせたものだったんですね
そうですね、このタッグ、頭で考えず、とにかく行動に走るバーダーと、元々マスコミで、自分の意見を発表することのできる場を持っていたマインホフとが組み合わさって、
「1+1=3」になってしまったんだと思います。その3は爆発的なエネルギーとなってしまったようで。それを表したタイトルのようです。
こんばんは♪
>すんごい大馬鹿者に思える。ああ共感できないったら
智恵子は東京には空がないといふ
バーダーはドイツには砂漠がないといふ
都市ゲリラ戦をやりたいといふ
私は驚いて噴出する…
もうどんだけ堪え性ないのよと(笑)
粗にして野だが卑ではない何かがあったから彼のまわりに人が集まったんだろうと思うのですが人間的魅力や武力闘争に身を投じるに至った背景があんまり描かれないから何一つ共感要素はなかったですねー
「立ち上がれ!銃をとれ!銀行強盗じゃ!」て言われても…
ウルリケの背景はそこはかとなく描かれてましたけど、あの編集だと旦那の浮気がきっかけみたくなってるヨ!
と、登場人物に全く寄り添えないのになぜか見入ってしまうのは演出の妙だったのかなーと皆さんのコメントを読んで改めて
この骨太な話の語り出しがヌーディストビーチからって斬新過ぎるわー(笑)
みさま
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>もうどんだけ堪え性ないのよと(笑)
そうなんですよねー。バーダーは特に、いかにも青臭い、考えなしの白人の若者にしか見えない描写があるんですよね。
車に乗って「銃をぶっ放す楽しさを年若な青年に教える」シーンとか、みさまのおっしゃったイスラエル人との訓練なんかもまさにそうで。
私なんかはその後、マインホフのその時の内縁の夫(恋人というべきか?)の「ごめんねーキミのズボンが汚れちゃったね」の台詞でブブッ!と笑ってしまったぐらいでしたよw
で、この後にヌーディストビーチ@イスラエル革命戦士眼前決行、に至るというw
あとおっしゃるとおり、確かにウルリケはダンナの浮気が理由で子供連れて出ていっちゃいましたが、その後一緒に住んでた恋人が、ウルリケの革命への気持ちに理解を示してくれていたんですよね・・
少なくても一緒に彼らを匿ってくれて、イスラエル革命戦士と一緒に行動を取るところまでは。
とはいえ、この彼がバーダーと上記のことで対立してしまう訳ですが・・
私はバーダーより、その彼女のグドルンの方が、ナニゲにバーダーを動かしていたし、彼らなりの哲学を持っていたんじゃないかと考えてます。
結局グドルンがマインホフの気持ちを揺るがせることになったり、重要な決定打になるスピーチを行ったりだとか・・
確かにヌーディストビーチから始まっていたり、退屈しない過激な描写がありましたよね。
(今日の映画)バーダー・マインホフ 理想の果てに
バーダー・マインホフ 理想の果てに (2008/独=仏=チェコ)
Der Baader Meinhof Komplex
The Baader Meinhof Complex
製作 ベルント・アイヒンガー
監督 ウーリー・エデル
脚本 ベルント・アイヒンガー
原作 シュテファン・アウスト
撮影 ライナー・クラ…
こんばんは。
僕、若松監督の「実録・連合赤軍」をDVDで観た翌日に
この映画観にいったんですよ。笑
で、すっきりしましたね。
そうそう、求めていたのは断然こっち!ってことで。
僕もグドルンに夢中でしたね。おっしゃるように
彼女が割と組織を動かしてるイメージが強く残りました。
映画「バーダー・マインホフ 理想の果てに」
監督:ウリ・エデル(ドイツ人)
出演:マルティナ・ゲデック モーリッツ・ブライプトロイ
出演:ヨハンナ・ヴォカレク(◎)ブルーノ・ガンツ
1970年代に、ヨーロッパを震撼させたドイツ赤軍。
そのグループの歴史と、銀行強盗・ハイジャックなどの
犯罪に…
himagineさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
『実録・連合赤軍』とこちらを並べてupとは、なかなかやりますね!
こうやって並べて記事に関連性を持たせるのって、なんかいいんですよね〜。
私もよくやりますよ、自己満かもしれませんが、気にしない(笑)
グドルンは中流階級の娘なのに、始めから自分なりの論理を持っていましたよね。