ディア・ドクター ▲106
’09年、日本
監督・原作・脚本:西川美和
製作:川城和実、重延浩、島本雄二、久松猛朗、千佐隆智、喜多埜裕明
プロデューサー:加藤悦弘
撮影:柳島克己
美術:三ツ松けいこ
編集:宮島竜治
音楽:モアリズム
笑福亭鶴瓶 伊野治
瑛太 相馬啓介
余貴美子 大竹朱美
八千草薫 鳥飼かづ子
香川照之 斎門正芳
井川遥 鳥飼りつ子
笹野高史 村長
独特な目線で物語を紡ぐ西川美和監督。『ゆれる』の次作品ということで、観客の期待は最高潮にまで大きいところだと思うけれど。力の入りすぎない、自信のほどを感じた今作。
毒のある目線もほんの少し緩やかに、そこにちょっぴりの愛も感じる。山合いの自然の美しさを映した、見ていて癒される映像から来るところもあるのか。ホッと心が安らぐ感じと、さりげないユーモアに包まれた。落ち着いて見ることの出来る安心感があった。
とは言えやはりそこは西川監督、逆説的に物事をズバっと言い当てる、鋭さはお手のもの。
僻地医療を通して、医療の本質について語ってくる。「“何かの資格”があると本当に言い切れる人間がそうそう居るものか・・・」。「そもそも、偽者だらけじゃないか」。
“偽者”であることと無免許であること、その二つがだんだん、本当にイコールであるものなのか、疑問に感じて来るのだ。
この先ネタバレで語ります::::::::::::::::::
こ
の
先
ネ
タ
バ
レ
嘘をずっとついてきた伊野が、とある一つの嘘をつくことを決めた時から、だんだんに耐え切れなくなってしまう。その理由はなんだったんだろう。
がん治療を拒否し、医療を享受せず、「出来るだけ何もせず」、自らの生をまっとうすることを望む、一人の優しそうな老いた母。医師の母でもある。
彼女の望みどおりにするには、本来の医学では成せないことだった。
自分は以前、『癌と共に生きる』という主旨の本を読んだことがあるのだが、治療を受けず、自然に逆らわず生きることで、本来の人間らしい生き方が出来る、という人が居た。そしてもっと重要なことに、そのため癌の進行が遅くなる人さえ居たのだという。病院のベッドに縛り付けられ、延命治療を受けること、医学の成すことはそれだけでしかないのだろうか。人間の心のメカニズムはそうした範疇を超えるものである、ということについて考えさせられた。
これらのことは、この物語の中では主題になってくる問題ではないのだが、要するに人と病、ということを考える時に、そこに人間存在、というものを置いて考えると、非常に難しい問題、割り切れない問題になってくる、と思うのだ。答えなどないんだ。
伊野は確かに偽者だったが、本当に患者のためを考え、苦悩したが故に、ああした答えの出し方しか出来なかったのだろう。
人の嘘、を一緒につくことを決めたが故に、自らの嘘を曝け出さざるを得なかった男。
とても人間らしい苦悩をする人だったと思う。
PS…現象さんにバッタリ会った!

山間の小さな村のただ一人の医師、伊野が失踪した。村人たちに全幅の信頼を寄せられていた伊野だったが、彼の背景を知るものは誰一人としていなかった。やがて刑事が二人やってきて彼の身辺を洗い始める――。失踪の2か月前、東京の医大を出たばかりの研修医・相馬が村にやってくる。看護師の朱美と3人での診察の日々。そんなある日、一人暮らしの未亡人、かづ子が倒れたとの一報が入る・・・
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コメント(19件)
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ディア・ドクター
『その嘘は、罪ですか。』
コチラの「ディア・ドクター」は、「蛇イチゴ」、「ゆれる」の西川美和監督が、自らの著書「きのうの神さま」を脚本も手掛け映画化した、6/27公開の長編3作目となるヒューマン・ドラマなのですが、早速観てきちゃいましたぁ〜♪
無医村に…
こんばんはー。
私はこの映画の主題を僻地医療うんぬんよりも、「死および死へのプロセスの決定のあり方」と見ました。もちろん、この映画で提起されているたくさんの問題のほんの一部ではあることは重々承知です。
以前ならば当たり前だった、「家族に看取られながら自宅で死ぬ」という儀式が、最近ではほとんど見られないと聞きます。それは、医療の発達という要素も大きいのだけれど、そこには日本が本来持っていた、共同体社会の崩壊、という要素が大きいんじゃないか、と感じます。もちろん、「共同体が破壊されたから大病院に行く」のか、「大病院が出来たから–」のかの議論はあるとは思いますが。そして共同体社会がかろうじて残る村落で、かづ子が選んだのは「伊野という家族」に看取られるという選択だったんじゃないかと。
この映画を観ていて、日本の疲弊した社会に豊かさを与取り戻すことがどんなに難しいかを痛切に感じてしまいました。
ディア ドクター
現在公開中の邦画、「ディア・ドクター」(監督:西川美和)です。有楽町シネカノン1丁目で鑑賞しました。
これは…単純に「泣けた」だとか「感動した」だとか言える作品で…
単に延命することが生きることのなのか、
それとも自分らしく生活することが生きるなのか。
医者ではない伊野治だからこそ選んだ道だったのかも知れませんね。
こういう考える映画は結構好きです。
『ディア・ドクター』
医者とは何か?流れ作業的に病気と向き合う仕事なのか、それとも患者一人一人と向き合う生き方なのか。僻地医療という社会問題をテーマにしていながら、TVドラマの「Dr.コトー診療所」とは違い、観客に「あなたならこういう存在を受け入れることができますか?」と静かに問い…
マサルさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>「死および死へのプロセスの決定のあり方」
なるほど、マサルさんの心に残ったのはその部分でしたか。
そうですね、たとえば長期に入院していても、せめても畳の上で、といよいよになってから自宅に帰らされますし、
せめて病院の冷たい一室ではなくて、家族に看取られ畳の上で・・というのが一番しっくり来る、という人は相変わらず多いでしょうね。
医療が発達し大病院に行くことと共同体社会の崩壊、というものが結びつく辺りは、はじめ自分にはあまりピンと来なかったのですが、
では、と逆説的に考えて、「もし大病院が近くに無く、何でもカバーできるような一人の医師が活躍する小さな田舎町があったら」
この小さな町のように、一人一人が「足りないということを知っていて」(伊野の台詞にありましたね)、それらが逆に人との絆や繋がりを生むのだろうか・・などと、いろいろと考えることが出来ました。
>かづ子が選んだのは「伊野という家族」に看取られるという選択だったんじゃないかと
「もし私(娘のりつ子)が現れていなかったら一体どうしたのか」という質問が投げかけられていましたが、その答えとも近くなってくるでしょうか。
おそらく伊野を初めとした、小さな周りの人たちだけで、ウソを貫いたまま畳の上で死ぬことになっていたら、それはそれできっとかづ子にとって幸せなことだったに違いない、と思えるんですね・・・。
きっと先夫の入院と看病のため、ウンザリした気持ちになっていたに違いないですよね。
にゃむばななさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>医者ではない伊野治だからこそ選んだ道だったのかも
そうなんですよ。伊野だからこそ、自分だったらこうしてあげたい、という辺りに、普通の医療従事者が考えもつかない、マニュアルにはないやり方で葛藤することが「できた」のですよね。
>こういう考える映画は結構好きです
『ゆれる』ほど複雑でも鮮やかでもないのですが、この作品なりの良さがありましたよね。
『ディア・ドクター』
@神保町・一ツ橋ホール, 西川美和監督(2008年・日本)
山あいの小さな村。その村で慕われていた医師が、突然謎の失踪を遂げた。やがて事件は思わぬ方向へ─。
さかのぼること2ヵ月前。医大を卒業したての研修医・相馬(瑛太)がこの村に赴任した。相馬は田舎の医療に戸惑い…
映画 「ディア・ドクター」を見てきました。
{/m_0058/}映画「ディア・ドクター」@シネカノン有楽町1丁目
モントリオール映画祭出品
原作・脚本・監督:西川美和
出演:笑福亭鶴瓶、瑛 太、余貴美子、井川遥、
香川照之、八千草薫
写真はクリックすると大きくなります。
{/m_0167/}山あいの小さな…
とらねこさんこんばんは、
西川監督作品は「ゆれる」も「ディア・ドクター」もキャスティングが良いですね。
演じる以前の役者の人間性を見抜いているような
気がします、役者はもちろん演じているのですが
その人間性は必然的に現れるのでキャスティグが
はまる、とはこういう事なのかなと思いました。
この映画では僻地の無医村の問題、高齢者の終末期医療の問題などいろんな問題を考えさせられるが
嘘と本当ってなに? 嘘は悪い事なの?
本当なら良いの?
などなど、ほんまもんてなんやねん
と問いかけられる気がしました。
tatsuさんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
そうですね、キャスティングはどうしても、役者のイメージに左右されちゃうところがありますよね。
今回で言うと、たとえば笑福亭鶴瓶なんかは、実を言うと、ちょっと不安だなあ、なんて思ったんですが。だんだんリアリティを持った伊野の姿にしか思えない瞬間がありました。
どこか飄々とした感じがするのも、この人の持つ魅力だったりしますよね。
>ほんまもんてなんやねん、と問いかけられる気がした
本当にそうですね。無資格であることは確かに法に反することではありますが、しかし有資格者が「本当に自分にはその資格があるのか?この決定で本当に正しいのか?」と常に自問することが必要なんですよね。
「ディアドクター」
伸びる伸びると思ってたら伸び切ってしまったゴム。無医村、いわゆる限界集落にスポットを当てたところは良かった。笑福亭鶴瓶を主役に据えたのも新鮮だったし、脇を固める俳優陣はなお良かった。鶴瓶演じる伊野という男が失踪するということを聞いた時点で、話のからくり…
「ディア・ドクター」プチレビュー
作「ゆれる」で兄弟のゆれる心情を見事に描いた
西川美和監督の手腕にたった1作品しか
鑑賞していないが驚かされました。
夢から着想を得てそのアイデアを映画に活かす手法。
今回も、この企画のスタートは夢のようです。
映画は、人間を人物をいかに掘り下げていくか
…
Gott ist tot
凄い映画を観た。観賞後、いつものように牛の如く反芻すると、その度に気付くことがあり、その深い味わいに…
「ディア・ドクター」 ちゃんと向き合う
ちょうど海堂尊さんの「イノセント・ゲリラの祝祭」を読んでいるところだったというこ
「ディア・ドクター」資格とは何か
完全ネタバレです。でも映画が始まるとすぐにこのあたりのことはばればれなので、この秘密の暴露は許してください。その前にすこしあらすじ。山間の小さな村のただ一人の医師、伊野が失踪した。村人たちに全幅の信頼を寄せられていた伊野だったが、彼の背景を知るものは誰…
ディア・ドクター
ディア・ドクター’09:日本
◆監督・脚本:西川美和「ゆれる」「毒イチゴ」◆出演:笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、井川遥、香川照之
◆STORY◆山間の小さな村のただ一人の医師、伊野が失踪した。村人たちに全幅の信頼を寄せられていた伊野だったが、彼の背景を知るものは…
ディア・ドクター??鶴瓶人気に
平日の朝一番の上映。
空いていると思いきや、
「満席です」
「え、まじっすか?」
久しぶりに立ち見席(とは言いつつも横の通路床で
座って見ましたが)で鑑賞となりました。
NHKの「鶴瓶の家族に乾杯!」で
高齢者のハートを掴んだのか?
観客は5…
『ディア・ドクター』’09・日
あらすじ東京の医大を卒業した相馬は、過疎の進んだ山あいの小さな村に、研修医として赴任してきた。そこで、村人から絶大な信頼を寄せられている伊野という勤務医と出会うが・・・…