シークレットサンシャイン ▲104
’07年、韓国
原題:密陽
監督・脚本・製作:イ・チャンドン
原作:イ・チョンジュン
撮影:チョ・ヨンギュ
音楽:クリスチャン・バッソ
美術:シン・ジョムヒ
チョン・ドヨン シネ
ソン・ガンホ ジョン・チャン
チョ・ヨンジン パク・ドソプ
キム・ヨンジェ ミンギ
ソン・ジュンヨプ ジュン
ソン・ミリム チョンア
キム・ミヒャン キム執事(薬屋)
「これこそ人間だなあ」、と言うのが素直な感想だった。
決して「すごく共感してしまう!」とか言うタイプの映画ではなかったの。どちらかと言えば、一歩離れたところから主人公たちの行動を見ていた、という感じ。それなのに、ラストシーンを見ていたら、涙が溢れてしまった。どことなく優しさを感じることが出来て、心から感動が押し寄せて来た。
シネは夫を亡くし、亡き夫の故郷である田舎町、密陽へと子供と共にやって来る。その田舎町で起こる、等身大の人物の、出来事を描いた物語。物語の展開としては、うーん、そうだなあ、どちらかと言うと、「その気持ちは分かるんだけれど、そこに行ってしまうかなあ」という思いでいっぱいだったりもした。
たとえば、主人公に悲劇が更に降りかかり、彼女はどん底の絶望にまで落とされてしまう。その時に、一時的に宗教にハマってしまう。見ている方としてはなんだかやるせない思いでいっぱいになってしまうのね。一言で言えば、少し危険な題材の描き方のように思える。静かに描き出している日常で、難解なことは一切していないのに、一方でこれだけの物語を紡ぎ出すのには余程、安定した実力の凄腕の人でないと出来ないことだと分かる。
温かく感じるのは、そこにソン・ガンホ演じるジョン・チャンの存在があるから。「あなたは、姉のタイプでは絶対にないです」と言われてしまう、粗忽なタイプの男性であるジョン・チャン。彼は彼女と心が通じ合うタイプの男性ではないのに、彼女の傍に積極的に寄り添ってゆき、信じていなかった宗教にまで一緒に入ったりする様には、「懲りない人だなあ」なんて少し呆れながら、でもいつの間にか、彼女にとってほんの少しだけ必要な人になっていく。
周りから見れば少し愚かに見える人間の行動も、決して見下して描いているわけではないところに、温かさと救いを感じて泣けてしまった。
すぐそこまで陽の光は当たっているのに、今シネが居るのは影の中だと、ラストで初めて分かる。
手を伸ばせば本当は温かい光を感じることが出来るのに・・・。でも、そこまで陽の光は来ているのだ。静かに地面を映しながら、そんなことにハッと気づくラスト。
彼女が自分で髪を切るラストで、ジョン・チャンが鏡を支えてくれている。ここのシーンが忘れられなくなった。
髪を切るというシーンから、彼女が何かを断ち切ることが出来るといいなあ、と期待をこめて思う。そこまで来ている陽の光を感じることが出来る日が、いつか来るだろうと、祈りに似た気持ちになる。“救い”ってこういうものだなあ、なんて思いながら、静かにそっと涙がこみ上げてきた。

夫を交通事故で亡くしたばかりのシネは、夫の故郷で再出発するため、息子とソウルからミリャンに引っ越して来る。車が途中で故障してしまい助けを呼ぶと、自動車修理工場を営むジョンチャンがやってきた。それ以降、何かと気にかけてくれるジョンチャンの尽力もあって、シネは無事にピアノ教室を開くことができた。隣人たちとなかなか馴染めないことに不安を抱きながらも、なんとか順調に新生活を送っていたが、ある日・・・
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人間の本質に切り込んだ作品は、タンタンとしていても凄みがあります。
ベタな韓流ドラマだけじゃなくて、こういう作品もヒットして欲しいものです。
イ・チャンドンは本当にハズレなし(4作しか無いですけど)なので、全部の作品がお勧めです!
ノラネコさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
イ・チャンドンは外れ無しですか!それは楽しみです。是非他作品を見てみたいと思います。
「淡々としている」と言う表現を私も使う時があるのですが、正直、自分はこの手の描き方は決して嫌いではないんですよね。
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