エンジェル ▲89
’07年、ベルギー、イギリス、フランス
原題:Angel
監督・脚本:フランソワ・オゾン
製作:オリビエ・デルボス、マルク・ミソニエ
原作:エリザベス・テイラー
撮影:ドニ・ルノワール
音楽:フィリップ・ロンビ
美術:カーチャ・ビシュコフ
衣装:パスカリーヌ・シャバンヌ
ロモーラ・ガライ エンジェル・ダヴェレル
マイケル・ファスベンダー エスメ
ルーシー・ラッセル ノラ・ハウ=ネヴィンソン
サム・ニール セオ
ジャクリーン・トング 母
シャーロット・ランプリング 発行者の妻
『めまい』、『スイミング・プール』、『8人の女たち』のフランソワ・オゾンの、毒気たっぷりな女性一代記。少々皮肉とパンチが効き過ぎているとも言えるのだけれど、そこは寓話的に、往年のハリウッド映画かのように描かれている(車で移動する時のあの合成の仕方!)。よって、全体的には上手くまとまっていて、この監督の作品が好きな人であれば、これはこれでブラックではあるけれど、それなりに面白く見れる人も居る、かもしれない。
女主人公のエンジェルが、徹底的に現実から逃れるかのように、自分の想像の世界に入り込む。その想像力を生かして(大仰な文体で)ベストセラー本を書き、トントン拍子に富と名声、そして愛、つまり全てを得る。
少女のまま大人になったかのような女性であるエンジェルは、決して成長することなく、現実を見ることなく、“美しいものだけを愛でる”人・・・。ゾッとするほど一面的で俗悪的な彼女の描き方に、居心地の悪いものを感じる人も多いかもしれない。だからこそ、オゾン常連のシャーロット・ランプリングの“怖いオバサン”演技を見ると、逆にホッとするぐらいだ。彼女の部分は“この映画の本音”が聞けるだろう、と期待して。
エンジェルの容姿や髪型から、また物語からも『風と共に去りぬ』を思い出す。さらに私は徹底的に俗物として女性を描いた、モーパッサン『女の一生』をも思い出すけれど(正反対ではあるが、薄っぺらな女性として描かれているところが)・・・原作はエリザベス・テイラーだ。きっととても皮肉な物語なのだろうと、ラストを見て思う。自分のデビュー作だった『イレニア夫人』そっくりそのままの台詞のやり取りを、死の間際に交わすなんて。
ロモーラ・ガライの透き通るまでに白い陶器のような肌は、まるで彼女の壊れそうな純粋さを表しているかのよう。夫の死の後、「本当に“真実”を知りたい?」とノラに尋ねられそれを知った後の、彼女の表情と服装の変わり具合が印象深い。彼女にとって、“真実”はあまりに痛いものだった。だが彼女の白い肌はよりいっそう儚げに見える。
また、夫の葬儀で自分の詩を述べる彼女の姿が印象的に思い起こされる。泣いていた彼女が、ふたたび想像の世界を語るその瞬間、ふと顔を上げる。一瞬だけ以前の彼女のような、夢見るような表情を、垣間見せる瞬間があるのだった。それが私には忘れられない。

1900年代初頭の英国。16歳のエンジェルは田舎町で小さな食料品店を営む母親と2人暮らしのつましい暮らしから目を背け、大時代なロマンス小説の執筆に情熱を傾けていた。やがて自らの出自さえ書き換えてしまうほどの類い稀な想像力と文才で一気に人気作家への道を駆け上がる。幼い頃から憧れていた豪邸パラダイスを買い取り、ノラという有能な秘書も得たエンジェルは、ノラの弟で孤高の画家エスメと恋に落ちる。
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コメント(4件)
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映画「エンジェル」
原題:Angel:The Real Life of Angel Deverell
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エンジェル
『わたしが書いた甘い人生に、 運命がしかけたビターな罠』
コチラの「エンジェル」は、フランソワ・オゾン監督が自身初となる全編英語、しかも原作モノの、12/8公開となった1人の女性の半生を描いたメロドラマなんですが、観て来ちゃいましたぁ〜♪
原作は、イギ…
こんばんは。
これ映画館で観ました!(オゾンファンなので)
でも、通常のオゾン作品と少し違っていて、ストーリーがわかりやすく(風と共に去りぬ→スカーレット)、スーッと入っていけました。
しかしシャーロット・ランブリングは存在感ありますね〜(老けたけどそれなりに)
直近で観たのは「ある公爵夫人の生涯」ですが。
nema_61さんへ
こんばんは・・・?あれれ?もしかして、cinema_61さんでしょうか(笑)コメントありがとうございました!
nema_61さんは、きっとお好きだったのですね。
私はオゾンのくせに文芸メロドラマ調なところや、主人公の性格がどうもダメでした・・・。ごめんなさい><
シャーロット・ランプリングは良かったです!私も彼女の意見に賛成でした。「エンジェルの小説は一つたりとも好きではない、だけど彼女が酷評され、叩かれるのは可哀想だ」
あ、『ある公爵夫人〜』これにも出ていたのですね。私もこれはDVDで見ようと思います★