つみきのいえ ▲73
’08年、日本
監督・アニメーション:加藤久仁生
プロデューサー:日下部雅謹、秦祐子
脚本:平田研也
(ナレーション:長澤まさみ)
ああ、大好きになりました!心から、見て良かった!
アカデミー短編アニメ映画賞、取れて本当に良かった・・・!この作品、人気でなかなか借りられなくて、ようやく見れたのだけれど。今更ながら、アカデミーの時の受賞スピーチを、温かい思いで思い出す。
長澤まさみのナレーションのついているバージョンと、ついていない、音楽だけのバージョンと二種類あるのだけれど、私はナレーションつきの方は見ていない。
「いや、一応見ようかな」と思い、もう一度TOPページまで来たんですよ。しかし、やはりナレーションなしの方を二度目も選んでしまった。
だって、映像で語る物語は、私大好きなんだもの!自分だけの思いに浸りたい。ああ、至福の12分・・・。
以下、完全ネタバレ。これから見る予定の人は、先を読まないでください。
以
下
、
ネ
タ
バ
レ
海面がいつしかどんどん上がってくる、そんな地球の姿。おじいさんは上へ上へ、せっせとレンガを積み上げて生活をしている。
床が浸水してくるから、天井にもう一つ部屋を作るため、屋根に上がって作業をするおじいさん。その間も、容赦なく雨は降りつけてきて、おじいさんは時に、寝る間も惜しんで作業をしなければいけなかった。
周りをぐるり見回すと、こんなに高い家はもう、あまり見当たらなくなった。だけどまだ巡回の船は来ているので、どこか遠くに生きている人たちも居そうだ。おじいさんはとっても真面目な人なんだろう。誰よりたくさん働いたから、こんなに生き延びてこれたのかもしれない。そして、運もきっと良かったのかな・・。寝ている間に浸水してしまった人も、居たことだろうから。
だからこそ、今こうして、たった一人ぼっちになってしまったのだけれど。
おじいさんの大切な思い出は、壁に掛けられた数枚の写真たちだけ。上に上がって生活をするため、きっとほんのわずかな手荷物だけ、持って上がるんだろう。
そんなおじいさんの大切な身の回り品の一つである、愛用のパイプが、過って落ちてしまった。ちょうど近くの家にあった、ついこないだまで元気だった人が持っていた、潜水服をお借りして、一つ、下へ潜ってみることに、おじいさんは決心した。
下へ下へ・・・下がれば下がるほどに、おじいさんには思い出が甦る。
最後、寝たきりになってしまったおばあさんが臥せっていた床。
娘が結婚を承諾するため現れた婿に対し、思わず後ずさりしてしまったおじいさんを、そっと後押ししてくれたおばあさん。彼らの幸せだった頃の写真。
もっと若い頃のおじいさんとおばあさんも、甦ってきた。子供が小さかった頃は、巡回定期船も、個々の家の桟橋まで来てくれた。この頃は、きっと浸水も少しづつだったのかもしれない。遠くには、まるで大きな水道橋みたいに、橋にたくさんの家が寄り集まって住んでいた。まるで、ヴェネチアそっくりの風景。
音楽は、きわめて控えめで、朴訥とすら言える静かさに満ちている。
この音楽はまるでおじいさんの心のよう、平穏な音をそっと奏でるメロディなんだ。とっても哀しい物語であるはずなのに、とってもゆるやかにやさしい気持ちで、おじいさんと一緒に心の旅をめぐることが出来た。
忘れていたおじいさんの若い頃の幸せも甦ってきた。夫婦がまだ若い頃に、乾杯のワインを傾けたあの頃。忘れられていたワイングラスが、床に横たわっていた。グラスを拭き、拾い上げるおじいさん。
一番下の階まで行くと、まだ海面が上がってこない、平原だった頃の地球の姿を思い出した。初めて会った時のおばあさんとおじさんは、まだ小さな子供だった。木も立派な幹をしていて、鳥も飛んでいた、ずっと昔のおじいさんの記憶。
おじいさんはその夜、きっとおばあさんがいなくなってから初めて、ワイングラスを二人分注いだ。思い出とともに乾杯するおじいさん。
おじいさんは寂しくても、絶望に暮れたりしない。このポジティブさが、私の心を打った。
きっと、哀しくなったり、死ぬことを考えるぐらいなら、おじいさんは、一つでも多くレンガを積むのだろう。
優しくて寂しい物語なのに、こんなにもあったかいのは、おじいさんがまっすぐだからだ。この目線は決してブレない。
ちなみに、何もメモを取らずに書きました。
私もおじいさんと一緒に、心の旅をしっかりと、記憶に刻みつけたくなったんだ。

まるで「積み木」のような家。海面が、どんどん上がってくるので、家を上へ上へと「建て増し」続けてきました。そんな家に住んでいるおじいさんの、家族との思い出の物語・・・
・つみきのいえ@映画生活
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これだけの短さで、これだけ深く感じさせる作品ってすごいですよね。
レビュー:つみきのいえ
[懐古][人生][ドラマ][ハートフル][アニメ][邦画]
あるところにおじいさんが住んでいました。
おじいさんの家は水面に飛び出ていました。
水面下には沢山の住めなくなった階層が………
温暖化による海面上昇によって、家が水没する度に、
上の階を増築していった結果….
まりっぺさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
本当に、深い味わいの良作でした!
映像で語らせる、アニメーション本来の力があって、)2月24日のアカデミー発表後、25日には一挙に2万枚に
味わいもいいですよね。
うまいなぁ、狙って着実に届けてるなと思います。
まだ三十代前半の作家さんなので、これからも楽しみです。
この作品は、私には優等生的過ぎで、(また意外性や
驚きも少なく)感動させようと狙いすぎてるきらいも
多少あるのですけど(笑)
まぁ、これはきっと、私が捻くれているからでしょう。
余談ですが、この作品アヌシーでのグランプリという
快挙を初め国内外でたくさん受賞していたにも関わらず、
2008年10月に発売されたDVDの初回は1500枚程度、
アカデミー受賞前の2月中旬でもまだ3000枚程度にしか
売れてなかったのに、(まぁでも、日本でのアート系作品の市場なんてそんなものなのですが
膨れ上がったらしいです(笑)
一般人に、如何にアカデミーの効果があるかが
よくわかりましたー。
とらねこさ〜ん、こんばんは!「アフタースクール」へのTB&コメントをどうもありがとうございました(嬉)しっかり確認したはずなのに、見逃してしまっていてスミマセン(><)!
本作、わたしも興味シンシンで、放送されたら必ず観たいと思っています。今週末に同じく海外で評判の高かった「頭山」がCS放送されるので観賞するつもりです。
ところで、わたしも、とらねこさんといつかぜひぜひ映画観賞したく思います!せっかくだから、わたしひとりならば絶対観ないであろう、とらねこさんオススメの映画とか!?年内に実行できるといいな〜!!
つみきのいえ
2008年度アカデミー賞短編アニメ賞を受賞した作品です。\(^0^)/
海面の水位が、どんどんと上昇してくるので、
おじいさんは、家を上へ上へとレンガで増築していく。
ある日、パイプを水の中に落としてしまい、
おじいさんはパイプを拾うために水に潜る。
そこに…
ochiaiさんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
おっしゃるとおり、アカデミー効果はあるでしょうね。だって、全く名前すら知らなかったので、受賞のニュースをTVで見た時は、「えっ、そんなの全く知らなかった!」なんて感じでした。数字にすると、如実に変わるのですね。まあ、仕方が無いと言えるのではないかと思うんですけど・・・。
>優等生的過ぎで、(また意外性や驚きも少なく)感動させようと狙いすぎてるきらいも
人が居なくなった未来、ディストピア童話でしたが、確かに、静かに美しく描こうとして、一本調子的ではあるかもしれませんね。
下の方に行くと、少しだけ音楽のトーンが変わりますが、それもあまり気にならない程度でした。
一番最後の海底に着いた時に、本当はもっと海底は暗いのではないか、と思ったりもしましたね。
おじいさんにとっては、一番下の海底部分が、まだ“地上”だったことを思い出しますね、この部分がとっても美しく描かれていたのですけれど。
おじいさんにとっては最早遠い過去で、思い出すのが少し怖いぐらいの痛みを伴っていても良いと思ったので、海の一番下の色をもっと暗く、そして少し恐ろしく描いてくれた方が自分的にも納得がいったような気がします。
大木の周りでグルグル廻る、子供の頃のおじいさんとおばあさんが描かれ、その後、鳩(もしくは白い鳥)が飛んで行く、という映像でしたが、
この絵と今現在の暗い海の底を、対比して描く・・たとえば、鳩を何か海に居る別のものに変えて描くなど、ゾっとするような別映像にスリ変わるような演出、もしくは毒があったら、もっと自分は評価したかな、と思います。ただ美しく描かれていただけだったので。
とは言え、自分はやはりおじいさんの持つ徹底的なポジティブ精神、そこにとても打たれましたよ。
JoJoさんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
TBは今頃すいませんでした。あまり気にしなくていいですよ!
この作品、ご覧になったら感想是非聞かせてくださいね♪
「頭山」、これまたなかなか素敵なタイトルですね
いいなあ、CS見られて・・・。ウチは、スカパーの電波が向きが悪くて届かなくて、契約を解消しました
そうですね、いつか何かでご一緒したいですね♪
>たとえば、鳩を何か海に居る別のものに変えて描くなど、
>ゾっとするような別映像にスリ変わるような演出、もしくは毒があったら
さすが、とらねこさん!!
いいですねー、そのアイデア!
そうなると、潜っていくのにも、ただ感傷に浸るだけの
ものではない覚悟がいりますものね。
そうなんです、せっかくこういう作家性の強い
アートアニメなのに、
“どろり”とした部分や、闇の部分が全然無いのがちょっと物足りないのですよ〜(汗)
「頭山」は山村浩二さんの作品ですね。
好みは分かれるとは思いますが(つみきの家のような、一般ウケは難しいかと)
個性的で、ユーモアと毒も怖さもあって面白いですよ♪
この作品、アカデミーのノミネートまでは言ったんですけど、
惜しくも受賞は逃したんですよね〜。
それまで日本のアートアニメがノミネーションされることも
無かったので、それだけでも大快挙でした。
そんな流れがあって、今回の「つみきのいえ」の加藤さんの受賞があります。
ochiaiさんへ
>潜っていくのにも、ただ感傷に浸るだけのものではない覚悟がいりますものね。
そうなんです、深くなっていくに従って、もう少しおじいさんが感じていたはずの何か別の感情があるべきだ、と思うんですよね。
それをわざとらしくでなくていいので、無意識的に、たとえば水の抵抗力等で示して欲しかったようにも思います。
>“どろり”とした部分や、闇の部分が全然無い
でも、そういう風に厳しくチェックなさるのも、ochiaiさんがご専門だからこそ、ですよね!
素人である私には、本当に素晴らしかったと思いますし、何よりこれだけの短さの尺でこれだけ入り込むことができたので、すごく完成度が高い、と感じてしまったんです。ごめんなさーい、『おくりびと』よりこちらの方が好きです。
あと、こういうテイストがこの人の素質なのかな、とも思いました。アカデミーのあのスピーチ、朴訥そうな雰囲気や、英語の下手さを思い出すと。あの受賞では思わずもらい泣きをしてしまいそうだったんですよ。職場だったんですが。
>山村浩二
あ、『年をとった鰐』『カフカ 田舎医者』の人ですね!私二度も見逃しています。せっかく映画館でやっていたのに。残念!
『年をとった鰐』はユーロスペースでやってましたね。そこで監督の絵コンテが飾られているのを見ました。
私はあの物語は、あらすじを聞いて思わず哀しくなってしまったんですよ。シェル・シルヴァスタインの絵本『大きな木』を思い出しそうだな、なんて。やっぱり私には年をとった鰐より“わかいワヌ”の方がー。ゲーナ〜♪
『カフカ 田舎医者』はシネカノン有楽町何丁目でやってましたよね!あれも年末の忙しい時期でしたっけ、なんか時期が悪かったんですよね。時間も難しくて。
でも、ochiaiさんがオススメしてくださったので、是非見たくなりました!ありがとうございます。今後チェックします!
「つみきのいえ」
心の奥底にある記憶を手繰る旅。オスカー受賞の凱旋上映があるというので行ってみた。地球温暖化の影響か海面が上昇し、次々にレンガを積み上げた家に住んでいるおじいさんのお話。これだけ聞くと、環境問題を風刺した社会派の作品なのかと思うが、実はそうではない。あく…
つみきのいえ
DVDカテゴリーは「ネタばれ」気にせず書きます。ご容赦下さい。
(本だけど)
アカデミー賞短編アニメーション賞に輝く本作品。
DVD借りたかったのだが、残念レンタル中。
そうしたら、ボウズが学校の図書館で絵本化されたものを借りてきた。
絵も、作品と同じ。
とて…
こんばんは。TBありがとうございます。
温かい気持ちにしてくれるいい話ですよね。
早くDVD観よ。
これからもよろしくお願いします。
de-noryさんへ
初めまして、こんばんは!こちらこそ、TBありがとうございます。
コメントもありがとうございました。
こちらの物語、絵本もさぞかしイイだろうなあ〜♪なんて想像します。
温かい色合いで、絵本の方が良かった、なんていう声も聞きましたよ。
こちらこそ、丁寧にどうもありがとうございました。
今後もどうぞよろしくお願いします!
記憶の形。『つみきのいえ』
2008年度、第81回アカデミー賞で短編アニメーション賞を受賞した作品。海面がどんどん上昇する場所にひとりで住むおじいさんの物語です。