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フロスト×ニクソン ▲68

フロスト×ニクソン原題:Frost/Nixon
監督:ロン・ハワード
製作:ロン・ハワード、ブライアン・グレーザー、ティム・ビーバン、エリック・フェルナー
脚本・原作・製作総指揮:ピーター・モーガン
撮影:サルバトーレ・トチノ
美術:マイケル・コレンブリス
音楽:ハンス・ジマー
編集:マイク・ヒル、ダン・ハンレー

フランク・ランジェラ  ニクソン
マイケル・シーン  フロスト
ケビン・ベーコン  ジャック・ブレナン
レベッカ・ホール  キャロライン・クッシング
マシュー・マクファディン  ジョン・バート
サム・ロックウェル  ジェームズ・レストン
オリバー・プラット  ボブ・ゼルニック
トビー・ジョーンズ  スイフティ・リザール

ニクソンと言えば、ブッシュより以前に自分の一番嫌いな大統領だった。
この作品では、ニクソンがギャフンと言わされ、冷汗を大量にかく姿が、心から私は見たかった。
この作品では、ニクソンに初のロング・インタビューを敢行するTV番組司会者、現在では“サー”の称号を持つ(エンドロール参照)、デイヴィッド・フロストは、物語序盤より中盤までずっと頼りなく、こちらの方が冷汗をかき、ヤキモキせざるを得なかった。その張り付いた笑顔を見ていると、だんだんに腹が立ってくるほどに。

一見して好感を抱かせるような人物であるデヴィッド・フロストの人間的魅力、というのは十分に伝わってくる。笑顔で面白いことを言う好人物。飛行機の中でナンパした女性、キャロラインは初対面、かなり失礼なことばかり言う毒舌な人であったのに、物怖じしない。ニクソンに関する専門家、ジェームズ・レストンが「握手の前に、今回の趣旨を聞かせろ」と高飛車に掴みかかって来て、さらには興奮と怒りのために声さえ震わせながら(このサム・ロックウェルの演技は最高だ!)、一方的に主張して来ても、それすら受け入れる度量はちゃんとあった。

それに対して、ニクソンの方は、“一流の策士”、なかなか尻尾を掴ませない古戦歴戦の古狸だ。膨れ上がった頬も、喋り方も、いかにも憎々しい。トーク番組の最中も、最終日までずっと余裕で優位に立ち、引っ張って来た。話し合いには、期待したような“舌鋒鋭い言葉の応戦”というものは全く感じられず、フロストにはガッカリするばかり。一方で、自分の私財を投げ打って、ほうぼうのスポンサーを自ら探し、それでも何とかやり抜こうとする姿勢や、周りに決して落胆した自分を見せない装いには、瞠目するものがあったけれど。

最終日前に準備をし、突如豹変したように、ニクソンに詰め寄るフロスト。待たされ続けた挙句にようやく出た、最後のラッキーパンチが、ニクソンに思わぬ本音を吐かせる。このニクソンの表情がとにかく凄かった。これまでの自分の人生を全て背負い、省みるような表情、その重責の重さ。この瞬間のこの演技、最高の表情だった。今、ニクソンは初めて重荷を降ろしたのだ。これまで心のどこかで思い患ってきたものを。すごい。この作品の価値は、この一瞬で決まってしまった。見ているこちらが、そのリアルな緊迫感を感じることが出来なければ、この作品は成り立たなかったのかもしれない。そんな重要な一瞬だった。
眉根の寄せ方、筋肉の動かし方、それを全部真似したとして、この悲哀が表現できるかどうか。自分はDVDで見ていたとしたら、必ず巻き戻してもう一度見ただろう。

フロストに電話した晩のニクソンは、本当に記憶が無かったのだ。そのことに思い至り、私は少し驚愕する。トーク始まる30秒前で、いつも心理作戦をしていたニクソンが(「・・・で、ヤッたのか?」政治家がこの下卑た口のききよう!思わず笑ってしまった)、最後の日ばかりは挨拶の握手もわざと無視し、トーク前の、思いがけぬ一言も無しを決め込んでいたその矢先。フロストがあの晩の電話について言及すると、意外にも覚えていないニクソンだった。ここに、ニクソンの闇が見える。
最後に言葉を交わした時に、ニクソンは“人好きのする人物”に対しての本音を吐く。ニクソンこそ本当は、フロストを舐めてかかっていた一方で、その魅力に魅せられていたのかもしれない。そしておそらく、だからこそ気を許してしまった。こんな理由によって、彼に負けたのだ。それは思いも寄らぬ誤算だったに違いない。

ストーリー・・・
ウォーターゲート事件で失脚したニクソン大統領。その辞任中継の視聴率の高さに目をつけた人気テレビ司会者・フロストは、ニクソンへの1対1のインタビュー番組を企画。ニクソン側も扱いやすいフロスト相手のインタビューを名誉回復の機会ととらえ、法外なギャラで出演契約を結んだ。フロストは事件に対する謝罪の言葉を引き出すべく、ゼルニックとレストンをブレーンに迎え、質問の練り上げ作業に入るのだが・・・

フロスト×ニクソン@映画生活

 

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コメント(16件)

  1. 後半までの、フロストの一方的なやられようにはハラハラドキドキしました。
    それらがあったこそ、終盤でみせたニクソンの一瞬の曇った表情は大変印象に残りました。

  2. レビュー:フロスト×ニクソン

    [実話][ドラマ][討論][駆け引き][実写][洋画]
    討論:★★★★☆
    シリアス:★★★☆☆
    ドラマ:★☆☆☆☆
    1977年、アメリカのテレビ番組史上最高の視聴者数を記録した伝説のインタビュー番組が誕生した。
    ウォーターゲート事件で大統領を辞任したニクソンは政界復帰…

  3. この映画が面白いのは決してニクソンを悪としてだけで描いていないところですよね。
    スポーツ中継のように、両者の戦いとしてフェアな視線で描いているところに好感が持てましたよ。

  4. 『フロストXニクソン』

    インタビューは格闘技である。これはインタビュアーの誰もが納得する言葉だそうです。ウォーターゲート事件以来沈黙を守ってきたリチャード・ニクソンとイギリスの人気トークショー司会者デビッド・フロストを中心に彼らのブレーンも巻き込んだ歴史的インタビューの舞台裏を….

  5. まりっぺさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    そうですね、フロストは前半ずっと劣勢でしたもんね。
    フランク・ランジェラがあの表情のあの演技を出来たからこそ、この映画にリアリティを与えることになったのだと思いました。

  6. にゃむばななさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    ニクソンのこのインタビューを自分の目で見た人が驚くような、意外性のある見方で描かれていたのかもしれませんね。

  7. こんばんはー。凄いフロストにもニクソンにもイライラしながらドキドキさせられる作品でしたね。呼吸をするのを忘れそうになってしまう様な勢いでしたね。ランジェラさんの声が凄かった!ライオンの様で。
    どうしても、フロスト役の彼が「クイーン」に出てた時のトニー・ブレアが似合いすぎていたので、フロストが時にブレアになってしまった、、、。ないですか?笑

  8. Frost/Nixon (2008)

    監督: ロン・ハワード
    出演:フランク・ランジェラ、マイケル・シーン、ケヴィン・ベーコン、 レベッカ・ホール、トビー・ジョーンズ、マシュー・マクファディン、オリヴァー・プラット、サム・ロックウェル
    ウォーターゲートという名の過去を消し去りたい元大統領ニク….

  9. アヤさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    そうですね、どうなるんだろう、どうなるんだろうって、固唾を飲んで見守ってしまいました。
    最初から最後まで、イライラしたりハラハラしたりで、全然退屈はしなかったですね。
    ライオンのよう・・そうですね、ぷぷ♪
    ああ、なるほど、トニー・ブレアもやってたんですね。私、これ去年のアカデミー関連作品の中で、唯一見逃してしまったんですよ。
    今度見てます♪

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