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セブンス・コンチネント ▲67

’89年、オーストリア
脚本・監督:ミヒャエル・ハネケ
プロデューサー:ファイツ・ハイドシュカ
撮影:トニー・ぺシュケ
編集:マリー・ホモルコーヴァ
音響:カール・シュリフェルナー
美術:マックス・ポループカ

ビルギット・ドル  アンナ
ディーター・ベルナー  ゲオルグ
レニ・タンツェル  エヴァ
ウド・ザメル  アレクサンダー

ミヒャエル・ハネケ監督デビュー作。
登場人物らの顔が映らないカットが続く。“その行為のみ”淡々と映し出し、行為の中心となる人間そのものを無視した映し方に、何故か不安が募る。シーンの間に挟まれた長めの暗転もまた、不安を感じさせる要素の一つとなる。ぶっきらぼうとすら言える、ブラックアウト。

第7番目の大陸・・・実際には存在しない大陸。オーストラリアへの移住を目指す彼ら家族3人が、一家心中するまでの3年と1日を描いた物語だ。ハネケ曰く、ニュースで読んだ事実を基にした物語らしい。

父親の“遺書”が読まれる中、自分たちの持ち物一切合切を、全て破壊する彼ら。“遺書”とは言え、「私たちはオーストラリアへ移住することに決めました・・・。申し訳ありません。」と始まるため、彼らが本当に死ぬつもりなのか、それすら観ている者にははっきりしないまま。

ショックなのは、水槽の魚たちが死ぬシーンだ。魚たちを救う行為をせずに水槽を破壊する父親の姿と哀しむ少女を見て、観客は本能で、この先の物語を暗く察知する。
そしてハネケ曰く、この水槽の魚が死ぬシーンと、ラストでお金を処分する行為、この二つが流れるたびに、どの国でも観客が席を立って行ったと言う。
特に、お金を処分する行為では、ラスト間近にも関わらず、その先を見ずに席を立つ観客たちが必ず居たという。お金を破ってトイレに流す彼ら。貯金を全て解約し現金を家に持ち帰った上で、トイレにそれを捨てたのだ。ハネケは、もし自分だったら、思いつけたかどうか分からない、とすら言う。「社会全体で禁じられた行為」、それがお金を処分する行為だという。
私はお金がトイレに流されるシーンを見るまでは、まだ彼らはオーストラリアに移住するつもりなのだと心の半分で信じていた。(あらすじも読まずに見たために)。

後で自分で考える。彼らが一家心中を心に決めたことは、どんなことだったのだろう?考えてもそれは見つからず、特に彼らが憂鬱になるようなシーンも、これがキッカケ、と言えるべき決意の固さも見つけられないことに気付く。
では、私物を全て破壊する行為の中に、少しでも彼らの快感や解放が含まれていたのだろうか?と考える。いや、それも見つからない。淡々と全てのものを破壊する彼らの姿は、事務的とすら言える冷たさに満ちている。

一方で、だからこそこの物語が恐ろしいと言える。自分たちと何ら変わりない彼らの表情。6時に起こす目覚まし。オーストリア放送で流れる、朝の暗いニュース。起床してから履くスリッパ。開けられるドアノブ。歯磨き粉のチューブ。整えられる毎朝の朝食。出発する車。
彼らが夢見ていたオーストラリアの風景は、死の静寂がそこにある。同じような変わり映えしない都市生活の中で、理由もなく憂鬱を抱えている私たちには、どこかで見たことがあるような風景にすらなり変わっていく、そんな心象風景がそこにあった。
もしかしたら私たちの日常生活の中に、彼らの姿を見つけてもおかしくない。そんな気がして、少しだけ心が寒くなる。

セブンス・コンチネント@映画生活

 

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コメント(7件)

  1. じゃ、気を利かせてこちらに失礼。。。わたくしもこれ、なんの前情報もなしに見始めたので、なにやってんのかさっぱりわからなくて、ミニマリズムでも追求してんのかな、そしたらあの家破壊シーンだけやたらと長く続くから、ウォーホールの実験映画みたいに8時間くらいこれがつづいたら、逆に許せるなぁぁぁ、なんて。
    そんでレコード折るシーンでブックオフいけばいいのに、、、って思ったあたりで一家心中に気づいたあたりで水槽ガシャ〜ン!!
    あのハンマーがね、ハトヤの海底ガッカリ温泉にいったオレの手元にあったら、、、オレもこの映画のように、水槽を破壊していたかもしれなかった、、、そんなレベルの海底温泉だったということです。
    あと三島本はホンモノだって。ブックオフはザルなんだよ。クソバイトが買取やってるから、近年はちょっとは知恵をつけたと思われるけど、90年代の初頭はほんとにセドリ天国だったよ。ひばり書房の『怪獣少女』とか貝塚ひろしの『ロボット長島』とかフタミ書房の『モンスター大百科』とか、100円で買ったもん。それを40冊ほど見繕って一昨年、まんだらけ売りにいったら4万円で売れましたよ。
    あなたのファンより。(←ウザイ?)

  2. 紫のガムの人さんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    うん、私も。初めに頭にヨギったのが“ミニマリズム”って言葉でしたね。破壊シーンは、すごく長かったですね。
    もし自分だったら、自分の持ち物を整理する時に、ところどころ「ああこんなものもあったなあ」とか、突然甦る過去の思い出やら何やらがあったはず。でもそういうものが少しも見受けられなかったんですよね、この破壊には。父親が語るように、「系統立てて合理的にやらないと」なんて言葉が見受けられるけれど。
    自分がこれからオサラバするという意志は置いておいても、“清算”の行動が伴うのであれば、そこには“回顧”が伴ってもおかしくはなかった・・・人間的感情としては。
    『ショーン・オブ・ザ・デッド』で、ゾンビと戦うのに割られるレコードを思わず選んでしまうように(プリンスとマイケル・ジャクソンは確か割れてもいいレコードだったよね)、モノへの執着は生きている人間であればあるから。
    ごめん、で、ハトヤ(笑)。温泉つったらやっぱ東北だよ!秘湯だよ!こちらは私の欲しい本リストにあるヤツ。
    http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d.html/ref=aw_mp_1/?a=4047100129&uid=NULLGWDOCOMO
    これはアマゾンのURLだけど。ちなみに私は最近、ブックオフオンラインを利用しています♪
    商業ベースの温泉の鄙びた具合で、ガッカリしてしまうの分かる。でも、ハーモニー・コリン好きなガムリン的には、もしかするとモノマネショーがあれば良かったのかもネ。
    ブックオフは確かに以前は、すごく適当だったよね。私は質屋に、スティーブン・キングの本を持ち込んで、「線が引いてあるからダメ」って断られたものも(私はよく本読みながら線引いちゃうんだ)、ブックオフに持って行ったら高く買い取ってもらえた!
    それにしても、安く買って高く売れた、なんてきっとガムリンの目の付け所がいいのだろうな。

  3. >第7番目の大陸・・・実際には存在しない大陸。
    それはム○ですよね? ○ー大陸のことですよね?
    レビュー興味深く拝見しました。そしてわたしの「たぶん見ないであろう作品リスト」に追加しておきました(笑) なにせ影響受けやすい性質なもんで、こんなの見たら自分も涅槃に旅立ってしまいそうな気がします
    ちなみに他には『ホステル』や、やはりハネ毛監督の『ファニー・ゲーム』などが入ってます
    ただ一つ気になったのは、一家がなぜ表向きとはいえ、オーストリアからオーストラリアに行くことにしたのか、ということ
    ・・・・やっぱ、名前が似てるからか?
    それにしてもガムの方はぶっとんだコメント書いてる割にはこんな映画もフォローしててすごいなあ

  4. ああ。せっかく考えたハネケクイズを出し忘れたから来たのに、スガッちのバカ。。。
    Q。ミヒャエル・ハネケ監督は髪のセットに時間がかかるそうです、なぜでしょう。。。
    答えのわかった方3名様に『スパルタの海』のDVDを、、、
    ハトヤが気になるのはいまさら昭和のプログラムピクチャーが気になるとかの心理といっしょで、言うほどガッカリしてはなかったりして。。。
    映画のこと書くの忘れてたけど、いいよね。これ。あんな感じではじまっといて、よくあの着地点に到達できました。まあ、逆算したにしてもだよ。ボクは一家はたんにリストラされて金に困ったのかと思ったんだけど、だったら金、トイレに流さんよね。
    もしかしたらオーストラリアに行くってのはダジャレだったんじゃないかな。オーストリアと大陸をまたいだ壮大なダジャレ。それがぜんぜんうけなくて、いっそ死にたくなったんじゃ。。。スルーでいいです。
    あと、ハーモニー・コリン好きなんじゃないですよ、『ミスター・ロンリー』がよかっただけで。『ガンモ』観直したけど時間のムダとしか思えなかった。。。あなたのファンより。。。

  5. SGA屋伍一さんへ
    こちらにもコメント、ありがとうございました〜!
    ム、ムー大陸ですか、そうですか・・・ま、そこはさっくりスルーさせていただくとしてw。
    >そしてわたしの「たぶん見ないであろう作品リスト」に追加しておきました(笑)
    んーそうですね、特にこれを見ないと何か損をする!というようなオススメ作品ではないことは確かですね
    >こんなの見たら自分も涅槃に旅立ってしまいそうな
    ムー。涅槃を気軽に使わないでくださーい。特に、正しいと言えない使い方では
    以上、ニルヴァーナファンの独り言。
    >一家がなぜ表向きとはいえ、オーストリアからオーストラリアに行くことにしたのか
    6大陸中、もっとも面積が小さい大陸だからかなあ、なんて勝手に想像してます。この作品中で言われる“オーストラリア”の造形や、出てくる画像はいかにもオーストラリア、というものではなくむしろ“ユートピア”を連想させるものなので、
    一家が勝手に理想の世界、と考えるものになんとなし近かったのでしょうね。
    でも、本当シャレにならないことになってるのが、TSUTAYAディスカスの説明で、作った国がオーストリアではなくて、オーストラリアになってるんですよ。
    私は一瞬、「ヘ!?」とビックリしました。

  6. 紫のガムの人さんへ
    >Q。ミヒャエル・ハネケ監督は髪のセットに時間がかかるそうです
    あはは、基本まっすぐに白髪をコーミングですね☆
    髭と髪がどちらも見事な白髪ですねー。
    白いガンダルフ〜。>ウソつけ!!アンタすっごい腹黒いじゃん!
    >ハトヤが気になるのはいまさら昭和のプログラムピクチャーが気になるとかの心理
    なるほど。レトロ好きなガムりんだけに。でも、その辺分かる気がする。ま、センスの問題なんですよね。
    今日、アイスを買うのに、キミのレトロ好きについて思いを馳せていて、普段自分が好きなハーゲンダッツでなく、ガリガリ君を買ってみた。南国パイン味。よっちゃんイカも、すごく応援したいよ。ああいう企業こそ。
    で、映画の話。きっと気を使って戻って来てくれたんだろうね。ありがとう。でも、そんなに気にしなくていいよ。最初のコメントの、水槽が割れたところでバーンとハトヤの海底温泉に繋がった、そういう方がキミらしいよ。「映画の話しないとねこりん怒るかな」と思ったのだとすれば、そんな狭量ぶりを私は恥じなくてはいけない。
    まあ確かに、そういう着地点に辿り着くんだ、とは新鮮に驚きました。
    オーストラリアは確かにダジャレっぽい(笑)
    しかも、言っちゃいけないダジャレっぽいw
    コリン好きコリン星人ではないのですね。了解。
    ガンモの話はやめよう。私はピーとかピーとか放送禁止用語を使いたくなるよ・・・

  7. セブンス・コンチネント 〜 カフカの「城」

    また久々にミヒャエル・ハネケ作品、
    長編映画デビュー作『セブンス・コンチネント』と、
    カラーのちがう異色作『カフカの「城」』の感想。




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