シリアの花嫁 ▲44
’04年、イスラエル・ドイツ・フランス
監督: エラン・リクリス
脚本: スハ・アラフ、エラン・リクリス
ストーリー・・・
イスラエル占領下のゴラン高原のある村。今日はモナ(クララ・フーリ)が嫁ぐ日なのに、姉のアマル(ヒアム・アッバス)の表情が悲しげだ。それというのも、一度「境界」を越えてシリアへ行けば、二度と戻る事はできないのだ。やがて長男ハテム(エヤド・シェティ)、次男のマルワン(アシュラフ・バルハウム)も結婚パーティにやってくる。しかし父は、ロシア人女性と結婚して家を出たハテムを許さない。パーティが終わり、モナの一家は「境界」へ向かう。無事、出国スタンプが押されるが、思わぬ出来事が待っていた・・・
花嫁の出身はイスラエル占領下のゴラン高原。彼女を含む家族全員、国籍を奪われ、パスポートには「国籍不明」になってしまっている。シリア側に嫁に嫁いだら、それ以降国に帰ることも出来ない、なんて。この国の統治が変わり、情勢が変化したら変わるんだろうか・・・。
自分は、シリアスな内容の物語だと思っていたら、なんとIMdbでのジャンルは「コメディ」。ちょっと驚きました。確かに、深刻な物語として描かれているわけではなかく、とっつきやすい作り。本国では大ヒットしたのだとか。日本劇場公開は今年だけれど、第21回東京国際女性映画祭にも出典。
ヒロイン、モナの家族たちがまたそれぞれ特殊で、モナの長兄ハテン(エヤド・シェティ)はロシア人女性と結婚し、ロシアに移り住んだことで、父ハマド(マクラム・J・フーリ)と仲違い。7年にもなるのに、まだ許してはもらえない。また、そのため父ハマドは、親族全体にそっぽを向かれる。
そして、次兄のマルワン(アシュラフ・バルハウム)はイタリアと行き来をし、自称「自分のビジネスをしている」、フリーの輸入業者の、かなりの女好き。実はこの人は、結婚の仲介業者のジャンヌ(ジュリー=アンヌ・ロス)と付き合ったことがあり、そのために一悶着があったりもする。
父のハマドは、政治運動でイスラエル政府に反対派のグループに所属していて、結婚当日もデモ活動に参加している。国境間際では入ることも許されていないため、花嫁の父親なのに、娘との今生の別れも十分に行えない・・・
家族がこの結婚のために一挙に集合し、そのためにいろいろな出来事が起こって、なかなかに目が離せない。
今更だけど、映画を見ていて、こうして遠い国他の国の文化や、種々様々な特殊性を発見するのは興味深い。だから映画がやめられない、なんて思う。
そしてそれは、出来れば、ドキュメンタリーではなく、映画としてストーリーが楽しめるものであると、私には助かっちゃうんだな。映画を見たいのであって“勉強”がしたいわけではないからね。「TIMES誌を読んでるような気持ち」になるのはなんか嫌なんだ。
時々、映画を見て、「これを見てとても勉強になった」なんていう人がいるけど、それはきっと他に思いつく言葉がなかったのだろうな、なんて思ってしまう。何でも、面白いと思えれば「勉強」とは思わないでしょ。いや、本来、学校の勉強だって「面白い」と思いながら出来れば、それは全然苦にならなかったりするものだから。何を感じながら「勉強した」と思うかは人それぞれだけれど。少なくても私の場合は、「勉強がしたくて映画を見るわけではない」んだな。
なんだか、勉強が出来ない人の言い訳、みたいになって来たけど(苦笑)
この物語、どことなく『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』を思い出すものかな、と思ったけど、少し違うかな。
結婚し、旅立つ当日のドタバタ騒動のあれこれ。
この一日のためにそこに集結した人々の生活や思いが垣間見れる。まるで、ドラマの1シーンのよう。
いよいよ出国、というその時になって、一番最後の問題が勃発し、ハラハラしてしまったけど。
二つの国の越境警備をする、各々の官吏人の手違いの悪さ、手際の悪さにはウンザリしてしまう。加えて、元ツアコンとしては、その間に立って交渉をする、越境立会人(?)のジャンヌその人の技術も、「言葉が足りない!真剣度が足りない!」と少しイライラしてしまった。
でも、最後に見せた花嫁モナの度胸には少し胸がすくわれたから、万事オッケーなのかな。
ちなみに、“すきっ歯の男のジョーク”は、共同脚本家のスハ・アラフによるものらしい。彼女自身の個人の体験によるもの、なんだとか(笑)
ちなみに、監督・脚本のエラン・リクリスその人が、何とすきっ歯なんですって(笑)
他、モナの父親役、マクラム・J・フーリと、モナ役クララ・フーリは実の親子らしい。
凛とした姉のアマル役を演じた女優さんは、ヒアム・アッバス。彼女がとても印象深い。ボーダーレスな活躍をする国際派女優さんらしい。
彼女は、『アズールとアスマール』でも声の出演に参加。
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コメント(8件)
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こんにちは。
これ、私も結構好きでした。
最近なんだかイスラエル映画に縁があっていくつか見ているのですが、本当に興味深いですよね。
イスラエルと聞くとやっぱり普段のニュースでの戦場のイメージがどうしても沸いてしまいますが、そんな戦場はニュースで写されるほんの一部であって、当たり前だけど人々には普通の暮らしがあるんですもんね。
最後のモナの度胸と決意には拍手したくなりました。
シリアの花嫁
イスラエル占領下のゴラン高原。最高に幸福な日となるはずが、花嫁のモナも姉・アマルも悲しそう。それは、一度境界線を越えてしまうと、もう二度と家族の元へ帰れなくなるから…。だが、それでも彼女たちは未来を信じ、決意と希望を胸に生きていく――。(Cinemaca…
あすかさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
あすかさんもこちら、アメリカでご覧になることができたのですね!
こちら、アメリカでもきっとマイナーな扱いなんでしょうね!
イスラエルの暮らしや文化、生活習慣の違いには驚きました。
本当、ラストのモナのその背中と勇気には、とても
清々しいものを感じましたね。
“乗り越える力”、ということを感じました。
このポジティブさに拍手です!
『シリアの花嫁』
晴れやかな門出に心からおめでとうを。
第三次中東戦争でイスラエル占領地となったゴラン高原のマジュダルシャムス村。
そこに住むイスラムのドゥルーズ派の娘モナが境界線の向こうのシリアへ嫁いでいく結婚の一日の物語。境界、ボーダーや壁について描かれる物語は大好…
エラン・リクリス監督「シリアの花嫁」(★★★★)
監督 エラン・リクリス 出演 ヒアム・アッバス、アクラム・J・フーリ、クララ・フーリ
イスラエル占領下のゴラン高原。小さな村。ひとりの女性がシリアの男性と結婚する、その当日の様子を描いている。一度、国境を越えシリアに入ってしまうと、もう二度と故郷へもど…
シリアの花嫁
「シリアの花嫁」を観た。
結婚式の今日は、花嫁モナにとって最高に幸福な日となるはずだ。しかしながら、彼女の姉のアマルは悲しげな顔を??.
皆さんのレビュー辿ってたら辿りついたのでTB。なんだか連続でTB/コメントいれてますけど、別に無理に返さなくても結構ですので!
>今更だけど、映画を見ていて、こうして遠い国他の国の文化や、種々様々な特殊性を発見するのは興味深い。だから映画がやめられない、なんて思う。
>時々、映画を見て、「これを見てとても勉強になった」なんていう人がいるけど、それはきっと他に思いつく言葉がなかったのだろうな、なんて思ってしまう。何でも、面白いと思えれば「勉強」とは思わないでしょ。
そうですねー、あらすじだけ書いて「勉強になった」だけの感想じゃそうでしょうね(苦笑)
このへんは「勉強」に対する感じ方かもしれませんが、私は結構映画みて「勉強になったなー」って感じるタイプです。きっとこの類の話は学校の授業で聞いたら爆睡するんでしょうけど(笑)、映画でみたら楽しんで理解できるんですよね。そして自分の知識不足で映画の中でわからなかった事とか、様々なことを鑑賞後にネットで調べたりします。特に他国の歴史や文化なんて、映画観たことがキッカケで興味もって色々調べるってこと多いです。やらされる勉強じゃなくて、自分から進んでやる勉強っていうんでしょうか。興味の探求=ホントの勉強、ってかんじかな?「勉強してる」って意識なんて皆無ですけど、結果的に「勉強になったな」っていう。そういう意味ではこの映画は「勉強になりました」
baohさんへ
こちらにもありがとうございます〜♪
イエイエイエ、返さなくても大丈夫、だなんて。こちらこそ、遅くなってしまってすいません。
いやあ、私も、コメントが来ないと寂しい癖に、最近はなんだかあれこれやるべきことが溜まってしまって、なかなか思うようにブログが出来ず。ちょっぴり寂しい思いをしています・・・。
せめてツイッターはほどほどにしようかな。どちらにせよ、自分は、肝心なことはツイッターではつぶやきたくないのですから、ブログだけやってればいいんですよね!><
ところでbaohさんはツイッターはやってますか??
そうですね、映画を見て勉強になること、って、確かにありますね!
私も、資料を見ただけでは、全く記憶に残らず、次から次へと忘れてしまうのに、映画になって見てみると、なんて心に残ることか、と思います。
こういうことは、本当に映画好きであるが故だな、なんて思います。映画を見ることそのものを苦痛に感じる人には、こうしたことも苦しみになってしまうんですよね。
いやあ、baohさんには是非『パチャママの贈りもの』を見て欲しいです!よろしく〜