ディファイアンス ▲36
一つ、好きなガツンと来る作品のメガホンを撮ったとなると、結構シツコイ私。
次の作品となると、必ず期待をかけて見てしまう。
と言っても、一つ気に入らないと、もうソッポを向いてしまうこと必須。それはそれは変わり身が早いので、プラマイゼロなのですね。
これまでのエドワード・ズウィック作品で言うと、『グローリー』も『レジェンド・オブ・フォール』も、『戦火の勇気』も『マーシャル・ロー』も結構好きだった。
『ラスト・サムライ』はトム・クルーズが出ているが故に、あまり乗り気でなく。その割にはまあまあ面白かったけど、正直どっちでもいいかな、という程度。
しかし、『ブラッド・ダイヤモンド』は!これについては話は別。あまりに気に入ってしまったもんだから、この作品もきっと、見て損はないだろうと。
やっぱり、期待通り。見て良かった。
社会派テイストに、エンタメを上手に盛り込むのが得意のご様子。基本的にはドラマ性を重視した、重厚な作り。そしてエピソードは丁寧に繋げていく・・・。
前回同様、今回もまたズッシリ来る良作だった。
’08年、アメリカ。
エドワード・ズウィック監督

第二次世界大戦さ中の1941年。ナチス・ドイツの迫害はポーランドの小さな田舎町まで迫っていた。両親を殺されたユダヤ人の、トゥヴィア(ダニエル・クレイグ)、ズシュ(リーヴ・シュレイバー)、アザエル(ジェイミー・ベル)のビエルスキ兄弟は、復讐を胸にポーランドに隣接するベラルーシの森に身を隠す。やがて森には、ドイツ軍の迫害から逃げてきたユダヤ人が次々と助けを求めて集まってくる…。食料難、寒さの中、人間らしく生き抜くことを心に決め、肉体も精神も極限状態の日々を過ごしていた。
シンドラーのリストに匹敵する1200人のユダヤ人を生き残らせたビエルスキ兄弟たち。
森の中に隠れ住み、ユダヤ・パルチザンとなる彼らの姿を見て、最近公開のチェ・ゲバラを思い出す人が多いかもしれない。
しかし、元は農民だった彼らは、最初からリーダーとなるべく武器を手に取ったわけではなかった。迫害され、それに抵抗するがため、いつしか増えていったユダヤの人々を、いつの間にか束ねていくようになっていく。
この様子が、手に取るようにゆっくりと描かれていて、好感が持てる。
ではその、リーダーである“ユダヤの救いの民”、トゥビア(ダニエル・クレイグ)がカリスマ的なリーダーであったのか、と考えると、決してそう描かれてはいない。
泣いて頭を木にぶつけ、「ウサギのように大人しく過ごそう」と決意したそのすぐ後で、頭から血を流しながら戦いに行くべく支度を始める、弟ズシュ(リーヴ・シュレイバー)。彼の方がむしろ、度胸もあり、喧嘩も強かった。
だからこそ弟はいつしか兄のやり方が手ぬるく感じてしまうようになり、ロシア共産主義のパルチザンに身を置くようになる。
この弟との生き方の違いはハッキリと二分するように描かれていて、
弟アザエル(ジェイミー・ベル)の森の中での幸せな結婚シーンと重なり合うように、ロシア・パルチザンに在籍するズシュの戦うシーンが差し挟まれる。
それは、二つに別れた兄弟の、生き方の違いを浮き彫りにさせる。迫害されたユダヤ人達が森の中で、ただ復讐するためだけでなく、彼らが“コミュニティ”としていかに生きていくか・・・こうしたことを考え始め、それまでのバラバラだった“人々の集団”が、一つのまとまり、という考えを持ち始めたことを象徴している。
だが12月になり、食料も尽きて、飢えも寒さも極限状態になってくると、次第にトゥビアのリーダーとしての資質を疑問視する人も出て来ていた。
咳き込み、病気になったトゥビアは弱々しく、余計頼りなく見える。アザエルと口論になった時のトゥビアは、心の奥底ではリーダーとして悩み続けていただろう姿が垣間見れる。
人々が彼の思惑と違う風に行動し始めるシーンも多くある。彼がリーダーとしての資質を発揮すべき、何らかのアクションを取らなければいけない事も多々あった。
だがこんな時、数秒ためらい、どうすべきか考えるトゥビアの姿が見られる。
判断すべきその瞬間は、難問ばかり。
リーダーという立場は、いかに難しいものか、・・・そんなことを考えさせられる。
固い信念は持っていても、人々を束ねるのは、本当に難しく、だがどうにかして問題を解決に導こうとする。そんなトゥビアの姿は、とても人間らしく、私は思わず応援したくなってしまった。
007のジェームズ・ボンドのように、スタイリッシュで華麗なわけでもなく、チェ・ゲバラのようにカリスマ性十分でもない。そんな姿に思わずグっと熱くなってしまった。
自分の大事な銃を、リルカ(アレクサ・ダヴァロス)に一時でも預けることが出来るトゥビア。自分の今まで使っていたお守りを、弟(ズシュ)に預けるトゥビア。
森を追われ逃げながら、座り込んでしまった時は、弟のアザエルが先導しなかったら、違う道を選ぶところだった。
「良選手、良監督ならず」と言うけれど、周りの助けがなかったら、2年間の森でのレジスタンスも、1200人を救うこの偉業も成し遂げられなかったかもしれない。
でも、人を育てるのは、こういうリーダーの下だからこそ、と思った。
2009/03/07 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物
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コメント(11件)
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>人を育てるのは、こういうリーダーの下だからこそ
哀生龍も、それを強く感じました。
抜きん出たカリスマ・リーダーではなかったからこそ、見ていて心配になったり不安になったりする事もあったけれど、だからこそ他の1人1人が成長したんですよね。
兄弟の性格の違い考え方の違いが、それぞれとても納得できる描かれ方をしていたので、とてもキャラにはまって見ることができました。
語弊があるかもしれませんが、楽しめる映画だと思います!
哀生龍さんへ
おはようございます〜♪コメントありがとうございます。
そうなんですよね!すごく意志が固く、しっかりしているのに、にもかかわらず人を束ねるのって本当に難しいな、なんて思ってしまいました。
でも、そこがまたこの人のいいところなんですよね。人がこうしたい、というその他人の気持ちを大事にするが故だと思うし、思いやりに溢れた人なんだ、と思います!
兄と弟の違いも、描き訳がしっかりしていて、見ごたえがありました。弟とは確かに喧嘩したけれど、弟が戻って来ることが出来たのは、この兄だったからこそですよね!
作品ってなに?
『ディファイアンス』
□作品オフィシャルサイト 「ディファイアンス」□監督・脚本 エドワード・ズウィック □脚本 クレイトン・フローマン □原作 ネカマ・テク □ キャスト ダニエル・クレイグ、リーヴ・シュレイバー、ジェイミー・ベル、アレクサ・ダヴァロス、アラン・コーデ…
>BlogPetの式神くんへ
言われて見るとなかなか定義しづらいもんなんだよね・・・
実は
>この様子が、手に取るようにゆっくりと描かれていて
この辺少し見逃しました。残念
腕力で弟にはかなわないから大事なところを殴ったり、帰ると見せかけて振り向きざまに撃ったり、反則攻撃の目立つトビアさんでした。が、それだけいっぱいいっぱいだったということなんでしょうね。きっと戦争に巻きこまれなければ、その辺の商売人として人に知られることもなく、映画になることもなく一生を終えたことでしょう
図らずもコミュニティのリーダーになったことが彼にとって幸せだったとは思えませんが、生きがいくらいは見つけた、と信じたいところです
「ディファイアンス」とは「抵抗」の意だそうですが、「レジスタンス」も「抵抗」でしたよね。どう違うんでしょう? 教えて! とらねこ先生!(←自分で調べよう)
森で生きている エドワード・ズウィック 『ディファイアンス』
『ワルキューレ』でドイツ人を勉強したから、今度はユダヤ人を・・・・ ってわけでも
SGA屋伍一さんへ
こんばんは〜★コメントありがとうございました。
トゥビアは、そんなに卑怯な反則技ばかり使っていたと思いましたか・・
自分はそんなところは特に気にしませんでしたが。
リーダー、指導者として人より途方もなく優れているとは思いませんが、人に助けられながら、家族と助け合いながら自分の出来ることをする、その辺りを自分としては見て欲しい部分かなあと。
英語の語の意味は、辞書に書いてある程度しか自分は言えませんよ・・・
こんにちは、映画ブログの晴雨堂です。
良い映画でしたが、このころはちょうどイスラエル軍のパレスチナ攻撃が激化していましたから、かなり穿った目で見てしまいました。
自分に喝を入れたい時に 「ディファイアンス」
「ディファイアンス」
ダニエル・クレイグの殺気だった表情が魅力
【原題】DEFIANCE
【公開年】2008年 【制作国】米 【時間…
春雨堂ミカエルさんへ
こんばんは!コメントありがとうございました。
私は、ナチス・ドイツのユダヤ人の迫害問題、パルチザンの問題、ポーランド国内外の抱える問題の多様性を取り上げていると思いました。
ディファイアンス
『人間として、生きるための [抵抗<ディファイアンス>]だった』
コチラの「ディファイアンス」は、第二次世界大戦下の1941年、ナチス・ドイツ占領下のポーランドに隣接するベラルーシの森で、1200人ものポーランドのユダヤ人の命を救ったとされる英雄”ビエルスキ兄….