遊び ▲29
増村保造監督、48歳の、48番目の大映最後の作品。
’71年、原作は野坂昭如。
ストーリー
町工場で働く16歳の少女(高橋〈旧姓・関根〉恵子)は、内職をする母(杉山とく子)と寝たきりの姉(小峯美栄子)そして父(内田朝雄)の残した借金を返すため、昼も夜もベルトコンベアーに追い回される毎日を過ごす。何の楽しみもない少女は、休日街へ出て少年(大門正昭)に声をかけられるままに、喫茶店、映画館へ付いていく。生れて初めて優しくしてくれた男性がチンピラとも知らずに…。
劣悪な労働状況、貧困そのものの家庭環境、昭和の社会状況の裏側を描きながらも、こうした爽やかな青春物語に成りうるとは・・・。
主人公の少女と少年に名前が無く、「少年」「少女」という名前で描かれる、今で言えばボーイ・ミーツ・ガールな青春映画。
増村保造監督曰く、
「どの監督でも一度だけは青春映画を作れるにちがいない。自分自身の青春をひたむきに描けばいい。私にとって、第一回作品『くちづけ』がそれであった。今回『遊び』を作るのは、典型としての初恋を描きたいからである。若い牡と牝が出会い、近づき、結び合うまでを丁寧に描きたい。」
少年にとって少女は、初めはただ単に、ヤクザとして一人前になるために「スケコマシ」を初めて行った相手。
だが、彼女の素直さ、純粋さに次第に少年の心をも動かしてしまう。
こう簡単に語ると、非常に分かりやすい物語なのだが、そこへいたるまでに丁寧に彼の、そして彼女の気持ちが、背景が描かれている。だから、「ああ、そういうことが描きたかったのか」と分かる頃には、もう物語はクライマックスを迎えているという次第。そこはこの監督の手腕によって、見事に等身大に描かれ、そして退屈すらさせずに、いつしか乗せられてしまっていた。
この少女と少年の、生々しい肉体のぶつかり合いがいい。
エロではなく、そこにあるのは生身の人間の姿。元は孤独な二人が、心の底からお互いを知り、そして裸になる。
爽やかな青春ではなく、薄汚れた大人の世界に汚され、それにもかかわらず汚れを感じさせないのが不思議だ。
共感の念を呼び起こすような青春映画ではない。
二人が行き着くところは、幸せな遠い場所ですらないかもしれない。
ラストに二人が目指すところは、一体どこなのか、希望も見えない状況。
死か、破滅か、それとも自由か、未来か・・・、
二人が今にも溺れそうなボートで漕ぎ出す未来に、悲しいような切ないような気持ちでいっぱいになる。
二人の馬鹿さ加減に悔しいような気さえ起こり、もう少しラストを丁寧に描いてくれさえすれば、と歯がゆい思いもする。
だがその一方で、とても感動してしまったのは確か。
あの陽気で無邪気で、死すらものともしないような勇気・・・と言うべきか、単なる向こう見ずで考えなしな行動に、フッと笑ってしまうような、そんな何とも可笑しな鑑賞後の気分に、少し浸りたくなってしまったのだった。
P.S…ところで、脇役で松坂慶子が出ていた。しかも、「フーテン娘」役で。
私実は、「フーテン」て言葉、・・・あんまり聞いたことなかったんですよね。
「フーテンの寅さん」とかいう台詞が『男はつらいよ』で出て来たことはあったかな。だから、「流れるように生きる人」とか、「旅人」を指し示す言葉なんだと思ってた。そしたら、当時の「不良」をいう言葉だったらしい。
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コメント(2件)
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こーゆーのを希望されていたのではないと思います
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よーするに今日はかなり寝起きが悪い
一日中ずっとグズグズむずがっている
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