積木の箱 ▲14
角川シネマにて、’09年1/17〜2/6まで、『増村保造 性と愛』という特集が始まった。
これまではたまにしか顔を出さなかった角川シネマ新宿(もとはガーデンシネマ新宿)だけれど、このために、私は何度も足を運んでしまいそう。
こんな私のような客を見越してか、劇場側でも、スタンプラリーを実施する、という、なかなか賢い企画。
5個集めると“素敵なプレゼント”がもらえるんだって。
特にこの特集、初日と千秋楽の二日間は、緒形拳追悼特集。
この作品、『積木の箱』と、『セックスチェック 第二の性』の2本。
実は私は、初日のこの日、『セックスチェック 第二の性』を見ようとしたのだけれど、満席で立見と言われ、泣く泣く断念。初日はこれ、と決めていただけに、ちょっとショックだった。でも、満席だなんて、小さいスクリーンではあるけれど、私までちょっと嬉しかったりして。
とは言え、平日に行くと、客の入りはそれほどでもなく。
ストーリー・・・
北海道の観光王佐々林豪一(内田朝雄)の息子一郎(内田喜朗)は、ある日、父と長姉の奈美恵(松尾嘉代)が抱きあっているのを見て仰天した。実は奈美恵は、少女時代に豪一に拾われた娘で、豪一の女だったのだ。それを姉のみどり(梓英子)から知らされた一郎は、みどりも母トキも、妻妾(さいしょう)同居を平然と受け入れているのに憤激し、それ以来すっかり変ってしまった。家で食事もしなくなった一郎は、毎日パンを買う店の久代(若尾文子)の優しさに惹かれていった。久代は子供の和夫(島田博)とつましく暮らしていた・・・
’68年、増村保造監督
脚本: 池田一朗、増村保造
原作:三浦綾子
三浦綾子原作、と聞くと正直、自分には苦手意識があった。
中学一年の頃に読んだ『氷点』と『続・氷点』のイメージがあるからだと思う。
確かに内容としては面白いのだけれど、14、5歳の自分には、キツイものがあった。
泥沼人間模様が余すところなく描かれ、それも家族という小さい場所で展開される辺り、・・・ウゲっと来るような胸のムカつきを覚えてしまった。
大人になった今でも、自分は未だに昼メロテイストの泥沼人間模様というのが、どうしても苦手。嫌悪意識を持ってしまう。
しかし、この作品は、私が初めて三浦綾子を読んだ時と、全く同じ年齢の少年が描かれている物語だった。
だからこそ、と言っていいのかな、今見ると、少年の自立と、家庭や人間に対する反抗の気持ち、というものが良く分かった。
増村保造監督曰く、
「それは大人でもなく、子供でもない
無邪気でもなければ、思慮もない。
筋肉は盛り上がるが、どこかひ弱い。
愛は幼くて、憧れにとどまり、セックスだけが勝手に暴走する—
そんな少年を描きたい」
ということだそうだ。
少年(や、少女)という生き物は不思議だ。
危なっかしくて、何をしでかすか分からなくて、
悪意に満ちていると思える瞬間もあれば、見た目から善意そのものに見えることもある。何も考えていなそうに思えることもある。
こんな時期に、この作品のような、家庭の醜さ極まりない本来の有り様を知ってしまったら、私だったらショックでとても立ち直れない。
そんな、危うい少年の姿が描かれている作品だった。
そんな中、久代(若尾文子)の姿は、少年の目には、この世でただ一つある、聖母のような存在に映る。
「父親は居ません、和夫は自分ひとりで生んだんです」
と言う久代は、まさにマリア(聖母)そのもののように描かれている。
少年には、後戻りするチャンスがあった。だが少年は、ある一線を越えてしまう。
ラスト、少年がその“垣根”をとうとう越えてしまったのだ、と象徴的に示すシーンで終わるのだった。
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コメント(7件)
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ミニシアターで、リバイバル作品が満席、って聞くと
ちょっと嬉しいものがありますね〜
(特に今、不景気で興行はどこも苦労されているので)
お話も面白そう。タイトルがまた(笑)
ochiaiさんへ★
おはようございます〜♪コメントありがとうございました。
>リバイバル上映で満席
嬉しいですよね!
でも、本当に小さい劇場なんですけどね☆
ただ、平日の入りがそれほどでもない事を考えると、
シネマウ゛ェーラとか神保町シアターの特集上映の入りって本当にすごいなって思っちゃいます。
特に神保町シアターで見た大映特集の時は、増村作品、どれも8〜9割入ってましたし。
あの劇場、音響やスクリーンなど環境もいいので、集客力もあるようです。
増村保造監督大好きです。
つうか若尾文子ファンなんですよね(苦笑
特に1960年代のあやこタン&増村監督コンビ作品は素晴らしい!
個人的なNO!はやはり『赤い天使』かな〜ぁ。
Longislandさんへ
こんばんは〜、初めまして!コメントありがとうございました。
おお、増村監督お好きですか!それは嬉しいですね!是非とも色々お話して欲しいですー♪
そうですね、若尾文子って、すごいしっとりした魅力があって、演技力も素晴らしい♪
やっぱり、60年代の若尾文子は、ノリに乗っている感じなんでしょうか?
>個人的なNO!はやはり『赤い天使』かな〜ぁ
ん・・・?NO1、でしょうか?「NO」と読めなくもないけど。。
『赤い天使』好きですよ。これはすごかったです。実は私は『赤い天使』で初めて若尾文子を見ました!いやー、今更と言われてしまいそうですが。
こんにちは、映画ブログの晴雨堂ミカエルです。
私は少年だけカマトトぶっているのが不思議でした。
突っ込みどころを楽しもう 「積木の箱」
「積木の箱」
主人公の少年に立ち塞がる教諭、緒形拳
積木の箱 [VHS]
【公開年】1968年 【制作国】日本 【時間】84分 ??..
春雨堂ミカエルさんへ
こんにちは〜、初めまして!コメントありがとうございました。
いつもTBありがとうございます。
おお、この作品をご覧になりましたか!
いやあ、私この監督大好きなんで、とっても嬉しいです。
>少年だけカマトトぶっている
ハハ、確かにそうですが、子どもだからこそ、大人の汚さが許せない、という気持ちは私にはよく分かるような気がしました。