そして、私たちは愛に帰る ▲11
ドイツ系トルコ人の監督、ファティ・アキンの意欲作。
3組の家族が運命的に交差する。ドイツとトルコ、国境を越え行き交う人々の物語。この中に、監督自身の思い、現在のトルコの姿、ヨーロッパの姿が浮き彫りにされる。
ストーリー・・・
ハンブルクに住む大学教授のネジャット(バーキ・ダヴラク)の老父アリ(トゥンジェル・クルティズ)はブレーメンで一人暮らしだったが、同郷の娼婦イェテル(ヌルセル・キョセ)と暮らし始める。ところが、アリは誤ってイェテルを死なせてしまう。ネジャットはイェテルが故郷トルコに残してきた娘アイテン(ヌルギュル・イェシルチャイ)に会うためにイスタンブールに向かう。そのアイテンは反政府活動家として警察に追われ、出稼ぎでドイツへ渡った母を頼って偽造パスポートで出国し、ドイツ人学生ロッテ(パトリシア・ジオクロースカ)と知りあう。・・・
’07年、イタリア・ドイツ
この作品と『愛より強く』、そして次の“悪を扱った作品”で三部作になるという。
『クラッシュ』のように運命的な出会いとスレ違いの物語でありながら、
ドイツとトルコ二つの国を超え、海を越える人々と、家族の絆、愛の姿が描かれる。ドラマチックな物語なのに、真摯な姿勢が垣間見られる。
国を超える思いの中に、人々の強い愛が、葛藤があり、少しも目が離せない。
監督にとっての、トルコへの思いというものがキリキリと伝わってくるような気がする。
イスタンブルの街の真ん中で繰り広げられる、クルド民族の反政府活動なんて、ニュースの中ぐらいでしかまだ見たことのない、極めて現代的な政治的な話題を扱っている。
「EUにトルコが加盟すれば・・・」「トルコにとって、EUに加盟しない理由とは」という会話なんて、いかにも今まさに話されている話題のよう。
トルコがEU諸国の中でどこか浮いているような姿、それに対するトルコ側の言い分、トルコという国の特色・・・国際状況におけるトルコの立場についての見方なんて、「まさに自分が感じていた通りだ」、と思う人もたくさん居そうだ。
監督自身が語るように、ロッテの母親スザンヌ(ハンナ・シグラ)とアイテン(ヌルギュル・イェシルチャイ)の姿に、ヨーロッパとトルコの姿を思い描いたというように、国際政治的な見解が表わされていて、
そういった意味で目を離せない部分もあるのだけれど、一方で、人々や家族など、それぞれの人々の絆を描いた物語としても、素晴らしく見所があり、際立っている。
誤解や行き違いがあり、悲劇も起こり、簡単には癒えることのない大きな傷も負ってしまう。しかし絆というものは、手を伸ばせば本当はそこにあって、相手を受け入れようとする心がない限り、あるいは両手を開いて受け入れようとする腕があればこそ、繋がっていける人々の姿が描かれるのだった。
ダイナミックな姿で交差する物語には、この作品で監督のトルコに対する思いがふんだんに詰め込まれている。きっと、ヨーロッパの人々がこれを見たら、正直、トルコに対する見方も変わってくるのではないか?と思えるほど、まっすぐに監督の思いが感じられるような気がした。
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コメント(10件)
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初めまして
いつも、読み逃げしていました、カルメラと申します。
ファティ・アキン大好きです。彼のドイツとトルコへの思いが深く伝わる、良い作品でした。とらねこさんが、私の思っている事を全部言ってくれて、有難う!って気持ちです。
これからも宜しく!
カルメラさんへ★
はじめまして!おはようございます、コメントありがとうございました!
いつも読んで下さって、ありがとうございます!とても嬉しいです。
ファティ・アキンお好きですか、私も好きです。
私のように感じられた人も居たと知り、とても嬉しいです。
これからも是非よろしくお願いします。
ところで、カルメラさんは『太陽に恋して』はご覧になられましたでしょうか?
監督自身の姿が見れますね★
若くて結構カッコいいんですよね♪
『太陽に恋して』、観ました〜。
実はトニー・ガトリフの『トランシルバニア』観て、ビロル・ユーネンにやられて、『愛より強く』観てみて、最近のヨーロッパ映画に見られぬ、型破りさに魅了されました。DVDも購入し、特典映像でやんちゃな監督が一杯見れます。若い!
三部作なんですね。もう一作撮った後のファティ・
アキンがどうなるか?楽しみな監督です。
カルメラさんへカルメラさんも、『トランシルヴァニア』ご覧になってくださったのですね!!嬉しいっ!これ私、大好き!大好き!なんです。
おお〜っ
ビロル・ユーネルにやられちゃいましたか!くふふ、彼繋がりで『愛より強く』をご覧になったとは
あ、私が『太陽に恋して』を挙げたのは、作品の中で監督が出演しているからだったのですが、『愛より強く』の特典映像では監督が出てくるんですね!ふむ。
今までの作品では、どこか若いイメージのある作品が多い監督だっただけに、今回のこの成熟ぶりにビックリしましたよ。
3部作とのことですが、次回作は悪を扱った作品、とのことですから、これまたどうなるのか、次が楽しみですね!
めるはばーん。
ファティ・アキン監督はトルコとドイツの懸け橋をつくってくれる存在ですよね。
作品の落ち着きぶりにビックリ。
ここにもアレクサンドラのTB送ってしまった。
すみません。削除してください。
(が、正しい方は反映されず・・・)
アレクサンドラのガリーナと、本作のハンナ・シグラと風格女優の母なる強さに心つかまれた年末年始でした。
かえるさんへ
グーテンアーベン&メルハバ、かえるさん♪コメントありがとうございました。
本当、今回の作品では、ちょっと今までと違って成熟ぶりを感じましたね。
少し気合と気迫が入りすぎている感もありますが、これぐらいの方が、力を抜いて作られているよりいいですよね。
TB削除は了解です。
おお、年末年始!そうですねー、もう年末年始も遠ざかっていきましたね。あの時たくさんかえるさんとお話したけれど。あっという間にもう1月も終わりなんですね。
かえるさんは、こちら年始にご覧になられていたのですね。私はちょっぴり出遅れました。
二人とも、堂々たる力強さを感じさせる、度量の広い母たちでした〜
『そして、私たちは愛に帰る』 Auf der Anderen Seite
これこそは愛。
ハンブルクの大学で教鞭をとるトルコ系移民二世のネジャットの老父アリは、ブレーメンで一人暮らしをしていたがある日同郷の娼婦イェテルと暮らし始めた。
そして、ドイツとトルコを舞台に三組の親子の物語が絡み合う。お待ちかねのファティ・アキン監督…
そして、私たちは愛に帰る
これはドイツ=トルコ合作映画としてが便宜上(当ブログのカテゴリーのタグ)、ドイツ映画にさせていただいた。トルコ移民二世のドイツの監督作品で、この映画はその監督のルーツという意味もあるように、ドイツとトルコを交差していく。この映画におけるトルコは中東のうち…
そして、私たちは愛に帰る 原題:AUF DER ANDEREN SEITE
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「そして、私たちは愛に帰る」
人間、究極は愛と包容力なのかもしれない・・と思いました