176●PARIS パリ
夕日の当たる薄オレンジ色のパリの風景が、心に沁み入る。
パリという街を舞台に、散文的に描かれた、人々の群像劇。人生の喜びと悲哀。
ストーリー・・・
ある日、ダンサーのピエール(セドリック・クラピッシュ)は心臓病で余命わずかと告げられる。シングルマザーのエリーズ(ジュリエット・ビノシュ)は弟のピエールの身を案じ、子どもたちを連れて彼のアパートに同居し始めた。やがてピエールは向かいに住む大学生のレティシア(メラニー・ロラン)が気になっていく。しかし、歴史学者のロラン(ファブリス・ルキーニ)もまた、レティシアを愛し始めていた。一方、離婚後も元妻とマルシェで働くジャン(アルベール・デュポンテル)は、買い物に来るエリーズに好意を寄せるようになっていた。・・・
’08年、フランス
セドリック・クラピッシュ監督(『猫が行方不明』、『スパニッシュ・アパートメント』、『ロシアン・ドールズ』)
等身大の物語を描くセドリック・クラピッシュ監督が、ああ、こんなにも「先に進んで」いる。
観た感想の初めの一言は、そんな感じだった。
セドリック・クラピッシュ監督がメガホンを執り、ロマン・デュリスが主人公と来ると、あのグザヴィエが主人公なのかな、と思いきや(『スパニッシュ・アパートメント』『ロシアン・ドールズ』)、
今回の主人公はそうではなく、心臓病で余命わずかと知らされるのは、まだ人生もようやく後半に差し掛かったところのピエールだ。
だが、日はその真ん中は過ぎ、夕日の風景が心に刻まれる。
人生のライフサイクル論で言えば、夕日の時刻、というメランコリックな時間だ。
自分が人生ももうすぐ終わりと知ったら、一体どういうことを考えるだろう。
誰にそれを告げるだろう。
そして、誰に、どんな話をするだろう・・・。
そんな風に考えながら、観ていた。
きっと私も、静かに、家族の元に身を寄せるのかな。
そんなピエールがこの物語を紡ぐ一人として居るけれど、それだけの物語ではなくて、
様々な人達の人生が交錯し、そして繋がっている。街という大きな布に、人々の人生というパッチワークが縫い上げられる。
誰かが誰かに恋をしたり、恋に破れたり、馬鹿な夢を見てストーキングまがいの行動に出たり。
恋に諦めたつもりで居たのに、また誰かに惹かれたり・・・。
途中、歴史学者のロランが言うように、街というものは散文で描かれるべき、これは現代の詩だという。
ボードレールを言及していたけれど、これがこの作品のテーマだったようだ。
パリを描くには、恋というものが必要不可欠だ、とクラピッシュは言うかのように、
人生の盛りを過ぎても、諦めちゃだめだ、とピエールは姉に言う。
ベランダで、夜という時間に、パリの灯りを見ながらそう言うシーンは、とても静かな感動を与える。
このシーンがあったからこそ、車の中で、青空を見上げるピエールの微笑みが、なんだか寂しく、美しく感じられるんだ。
最後まで見て感想を書くと、どうもピエールの話ばかり書いてしまうのだけれど、
物語はもっともっと“散文的”で、バラバラな魅力を兼ねていて、そこがこの作品の魅力だ。
常に、人々と喧騒とダンスと、そして恋を描く、セドリック・クラピッシュならではのタッチで、
大人たちになっても、ふざけたり、馬鹿騒ぎをしたりしているシーンもまた印象的だ。
そうなんだよね、内省は大事だけど、こうして人とふざけ合う事って、私も大好きだ。
『パリ、ジュテーム』、『モンテーニュ通りのカフェ』と共に、
パリという街と群像劇を描いた物語として、どれも珠玉の作品。自分の心に残りそうだ。
・パリ@映画生活
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コメント(12件)
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とらねこさ〜ん、こんばんは!この作品、素敵ですね。フランスの映画は、わたしの場合、ものすごく気に入るか、サッパリ理解できないかの両極端なのですが、こちらは群像劇ということで、観てみたいです。
まずは、録画してある「パリ、ジュテーム」を観なければ!ところで、今年も、もうあと1日。あっという間ですよね、一年って。今年も、とらねこさんには、大変お世話になりました。これに懲りずに(笑)、どうぞ来年も、またよろしくお願いいたします。新年メール、送らせていただきま〜す!
JOJOさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございます。
この作品、とても良さそうでしょ?そう言ってもらえて、とても嬉しいです。
ただ、この作品て、人生の深さ、悲哀、そうしたことも描かれているんですよ。
なので、ただ楽しいだけの作品と違って、少しビターなテイストもあります。
人間の複雑さも描いているんですよね。
その辺りの人生に対してのツッコミ様、心の襞を描く辺りが、フランス映画の持つ難しさに繋がるのかもしれませんが、自分は好きでしたよ。
『パリ・ジュテーム』の感想、見たらぜひともお話ししたいですね。
今年ももうすぐ終わりですね!こちらこそ、いつもお世話になっております。
JOJOさんと来年も仲良しでいたいなあと思います。
どうぞ来年もよろしくお願いします
こんばんはとらねこさん。
今日(6日)観て来ました!
こんないい映画が広い東京でたった一箇所でしか上映していないなんて・・・・・・
おかげで超満員で、あやうく次回にまわされるところでした。
パリだから価値のある様々な人間模様、そして年齢に関係なく人は恋することで生きていることを実感する・・・街の風景と人々の「思い」が上手く交錯して、とても趣のある映画でした。
ビノッシュの「スッピン」のような顔がとっても美しく、ロマン・デュリスの今まで見たことのないような役柄が印象的でした。
cinema_さんへ
こんばんは〜♪あけましておめでとうございます!
お久しぶりです!コメントありがとうございました。
今日見られたのですね♪早速のコメントどうもありがとうございます、嬉しいです^^
私も今日実は、渋谷で映画見てました♪
満員は嬉しいのですけど、確かにもっと規模が大きくてもいいのに、って思いますよね。
少なくても、シャンテシネではやるかな、って思ってたのに、ルシネマだけなんて。
年齢に関係なく、皆恋する姿は素敵でしたよね。
そして、それは命を輝かせることにもなる、って。
甘さとビターなテイストがあって、そこがセドリック・クラピッシュならではだな、って思っちゃいました。
街と人の風景も、しっくりマッチするんですよね、本当
今回のビノシュはまた素敵でしたね!
ロマン・デュリス、なんて美しいんだろうって、私惚れ直しました。「どこにでも居そうな青年」から、立っているだけで輝きを放つ人に変わってきた気がしました。
ダンスも素敵でしたよね〜♪彼、意外に器用で何でもこなすんですね。
あけましておめでとうございます。
覚えてくださってますか〜?
本年も、とらねこ様のブログを楽しみにしております!
たまに、ひょっこりコメントしますのでよろしくお願い致します。
どこにコメントしようか迷ったのですが。
大変素敵そうな映画だったので、思わずここに。
10年前に行ったPARISの思い出が良くないので(ここだけの話、友達がスリに合いそうになったり…)この映画で素敵なPARISを観てみたいです。
フランスって品格が高い人種のような気がするのでこういう映画はとっても上手い作りかもしれませんね。是非見たい作品のひとつになりました。
ちなみに、私の好きなフランス映画は「ベティブルー」「グランブルー」です。(べたですなぁ)
鉄犬子さんへ
あけましておめでとうございます〜♪コメントありがとうございました!
はーい!ひょっこり現れてくださるのを、お待ちしております〜♪
フランスの映画がお好きなんですね、鉄犬子さんは。
そうですね、フランス人て、誇り高い感じがありますね。
アレクサンドル・デュマだったかな、「フランス人の好きなものは、愛と決闘とワインが好き」と言っていたような、確か。イギリス人は陰湿、とか悪口言ってた気がします。ジメジメしていて人の顔が不機嫌そうだとか。雨が多いとか(笑)
で、こちらの作品ですが、甘いパリというより、ビターテイストで、ちょっと切ない感じがしました。
これもすごく面白かったんですが、『モンテーニュ通りのカフェ』の方を先に見てくださると嬉しいかなあ、なんて。
テイストとしては少しこちらは難しい分、あちらの方がよりハッピーなパリを体感出来るかなあ、なんて。
>ベティブルーとグランブルー、ベタだなあ
あはは、でもこれ私も昔大好きでしたよ!
ベティ・ブルーの影響は大きかったですよね!女の人にしか分からないのかもしれないんですけど。
グランブルーは、あの映画の影響でプールで息止めて溺れそうになったり、しませんでした?(笑)
リュック・ベッソンと言えば『グラン・ブルー』。これは不動ですね♪
じゃあこれはいかがでしょう、『奇人たちの晩餐会』。
もし見てなかったら是非♪私これ大好きなんですよぅ^^
「PARIS パリ」
昔から小説でも映画でも、群像劇に興味を惹かれます。
人生というものは、「僕が世紀の恋に破れて悲しんでいる時に、あいつは超可愛いカノジ…
パリ/PARIS
2008年/フランス/129分
監督・脚本:セドリック・クラピッシュ
出演:ジュリエット・ビノシュ、ロマン・デュリス、ファブリス・ルキーニ、アルベール・デュポンテル、フランソワ・クリュゼ、カリン・ヴィアール
『みんなどこか寂しくて、…
とらねこさ〜ん、こんばんは!
大人気だという噂に違わず、公開からかなりの日数がたっているにも関わらず、結構な入りでびっくり!でも、鑑賞してみてこの人気に納得しました。
私も観る前には、スパニッシュ・アパートメント、ロシアンドールズのセドリック・クラピッシュ監督そしてロマン・デュリスに大いに期待して出かけ、その期待は裏切られず・・・その全く違うテイストに酔ってしまいました。ばらばらに見えるそれぞれの人間模様が見えない糸でふいっと繋がれて、それは空が全ての人々の頭上に広がっている、みたいな感覚・・・うまく言えないのがもどかしい!!
パリって行ったことがないのですが、人を捕らえて離さない魅力、魔力がある街なのでしょうね。『パリ、ジュテーム』、『モンテーニュ通りのカフェ』私も深く心に残っている作品です。とらねこさんがこの2つの作品を挙げているのに、どきどきしました。
rubiconeさんへ★
おはようございます〜♪コメントありがとうございました!
おー!未だにそんなに人気なんですね!東京だから、という気もするんですが、頼もしいですね。
ちなみにこれ、公開前の予告と、公開後の予告では違ってました。公開後の予告は、よりポジティブなイメージのものに作り変えられていて、少し驚きました。それが効を奏したかな‥
そうなんですよね、スパニッシュ・アパートメントとロシアン・ドールズ、この二つの時と違ったテイストになっているんですよね!
色々な人がたくさん出て来る物語で、見ている間はそれぞれのエピソードを均等に見ていたはずなのに、後から思い返せば最後にロマン・デュリスが見上げた空のシーン、このラストの部分が一番心に残っています。あのシーンのロマン・デュリスは素晴らしかったですね‥!
そうですね、あの空で繋がっているんだ‥素敵なコメントありがとうございます!ちょっとうるうるしました(TT)
『パリ、ジュテーム』、『モンテーニュ通りのカフェ』、二つとも私も好きな作品なんです♪rubiconeさんもお好きだったんですね!とっても嬉しいです。
PARIS ??パリ??
気障な言い方をすれば,この映画では「生きているているパリ」が描かれています。パ
PARIS
『この街が 教えてくれる、 一番大切なこと。』
コチラの「PARIS」は、「スパニッシュ・アパートメント」、「ロシアン・ドールズ」のセドリック・クラピッシュ監督が、「PARIS」を描いた群像ドラマです。
エリーズ(ジュリエット・ビノシュ)とピエール(ロマン・デ…