158●ブラインドネス
これまた素晴らしい映画の登場だ!
SFに説明不十分な隠喩がこめられているという点で、去年の素晴らしい傑作『トゥモロー・ワールド』を思い出すし、
極めて限定された状況の中、人々の醜い争いを描いたという点では『ミスト』を彷彿させたり。
だが最も似通っているのは『ゾンビ』や、新しくは『28日後』のような社会派のホラー、もしくはSF。
とは言え、最近よくあるゾンビ映画のように、“ジャンルもの”の持つ安逸さへと、
気安く逃げ込まないところが、一番感じ入った。
世紀末的な病のように、人々に伝染性のある奇病として、突然訪れる“ブラインドネス”(白の闇)。
この病に関して、映画中ではこのような説明がなされている。
初め医師によって、診断されるこの病は、「認知症」-アグノーシスに似通ったものだという。
ジュリアン・ムーア演じる妻は、音が似ていることから、「アグノティシズム」-“不可知論”と語源が一緒なのかしら、と言う。
このアグノティシズム「不可知論」は、アグノーシスとイグノランスー“無知”という言葉を組み合わせた言葉のように思えるわね、と言うのだ。
こういったことの象徴として、この“白の闇”というものを捉えさせるのに、この台詞は少なからず貢献している。この病に陥ったものが、危険性の高い伝染病患者として、精神病院を初めとして、隔離されることにも諷刺が効いているのだ。
この隠喩に関しては、そのまま描いても、随所でそれと分かるにも関わらず、ここでは極めて冷静に説明づけてしまっている。
だがこの辺りは、この作品が娯楽として楽しめる、ありとあらゆる要素を持っていることの、自信の裏返しかもしれない。
極限状況の中で人々が役割分担をし、リーダーシップを取る人が現れ、その中で社会を構築してゆく。
だがそこへ、人々の協調の和を乱そうとし、反発心を顕わにする、力を持った嫌なヤツが現れる。
この辺りは、まさに『蝿の王』だ。
盲目となった人々にあってなお、このような派閥で争いごとが起きる、
いや、目が見えないからこそ、醜い人間性を顕わにする。
見えないのにも関わらず、「高額なもの宝石類、時計等」を人々から奪い取る有り様は、痛烈な皮肉だ。
その後に本能を顕わにし、肉欲のタガを外す。この流れ、見事なまでに下劣な根性だ。だが、とても納得のいく描かれ方をしていた。
物語はまだ終わらず、閉じ込められた空間から抜け出すと、
そこはまさに『ゾンビ』の1シーンかと見まごうばかり。
まるで、この1作で、全てのジャンルムービーを超えるかのように、作品は様変わりし、そして、全体的な色合も変化を見せ続ける。
まるで人類の行動学を全て統括するかのように。
ただ一人「見える者」の理由は徹底して描かれないが、最後、見える者が初めて対面した恐怖について語られる。
我々は見える世界に住んでいながら、多くの物ごとを信じることが出来ない。
物ごとを見たままに見ているつもりなのに、見えるが故に、見えていないことがたくさんある。
ストーリー・・・
始まりは一人の日本人の男(伊勢谷友介)だった。運転する車が交差点で立ち往生。突然目の前が真っ白になり、完全に視力を失っていたのだ。親切な男(ドン・マッケラー)に助けられ家まで送り届けられるが、そのまま車を持ち去られてしまう。男は妻(木村佳乃)に付き添われ病院に。医者(マーク・ラファロ)は、眼球に異常はなく原因はわからないと告げるが、各地では失明者が続出していた。車泥棒も、そして、診察した医者までも。驚異的なスピードで“ブラインドネス”(白の闇)は感染していった。・・・
2008/12/05 | 映画, :とらねこ’s favorite, :SF・ファンタジー
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コメント(33件)
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ブラインドネス
『全世界、失明。』
コチラの「ブラインドネス」は、驚異的な伝染力を持つ奇病<ブラインドネス>により、人類が次々と失明してゆき、不安と恐怖がひき起こすパニックの渦中に、ただ一人”見えている”女が紛れこんでいた様を描く、11/22公開のPG-12指定の心理パニッ….
あたしはゾンビ映画やホラー映画というのを
殆ど観ないので、とらねこさんの感想はとても
興味深いです。そういったジャンル映画をたくさん
観ているとらねこさんならではの感想ですよね。
目が見えなくなることで、見えてくるもの。
人間の本質を描く、とても興味深い映画でしたね。
『ブラインドネス』
年末の月末??月初っていうこともあってか、ここ最近仕事が忙しめでなかなか映画館にも足を運べずにイライラが募ってきたので、今日は仕事が終わったら新宿ピカデリーで『ブラインドネス』を観てきました。
GAGAさんでポイント交換でもらった前売り券も持ってたし、早めに観…
おー。ごらんになったんですね。
そしてかなりの高評価!
とらねこさんも楽しまれた(?)ようでよかったです。
確かに興味深い映画でしたよね。
私も目に見えないのに、物欲に走ったり、だからこそというのもまた皮肉ですよね。
本当に見えなくなってはじめて見えるものもたくさんあるでしょうね。
そして、見えるがゆえに見失っているものも…。
ブラインドネス
カナダ&ブラジル&本日
サスペンス&SF&ドラマ
監督:フェルナンド・メイレレス
出演:ジュリアン・ムーア
マーク・ラファロ
ガエル・ガルシア・ベルナル
木村佳乃
【物語】
ある日、車を運転していた日本人の男が突然視力を….
こんにちは♪
言いたいことはある程度は掴んではいるつも
りなんですが、唯一の健常者であるJ・ムーア
の後手に回る行動から出る結果が何か腹立た
しいと言うか胸クソ悪りぃと言うかで、オモ
シロくはあったんですがいまいち好きになれ
ずと言ったところです…( ̄~ ̄;) ウーム
miyuさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
そうですね、ホラーは良く見ている私ですが、この作品は、「人類終焉モノ」として、ありがちなテイストでジャンルムービーではなかったところが、
私は良かったなあ、と思っていたりします。
おっしゃる通り、人間の本質について描いている作品でしたよね。
あすかさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
あすかさんも、これ結構面白かったですか?
そうですね、目が見えているからこそ、見えていないものってたくさんあるんですよね。
もしくは、「なぜ彼らが見えなくなるのか?」と言うその辺りだけで、ウームと唸りたくなるぐらいでした。宝石類なんて、本当に意味ないのにね。
見た目だけのきらびやかさなのに、見えなくなってもなお、それを求める人々・・
見えているときにも、その宝石のきらびやかさは、ただ単に表面だけの問題なのだ、と気付いている人も、居てもいいはずなのに。
風情さんへ
こちらにもありがとうございます♪
>唯一の健常者であるJ・ムーアの後手に回る行動から出る結果が何か腹立たしいと言うか胸クソ悪りぃと言うかで
あの瞬間は、私も「今殺レ!」と思いましたよ。
ですが、とんでもない悲劇が起こった後でようやく行動を起こす、というのは、本来優しい気持ちの持ち主である、女性ならではの選択なのかもしれない、と自分は思います。
後手に回ったのは、残念ではありましたけどね。
ですが、あの醜い“売春窟のような1シーン”は、見ごたえがあったと思いませんか?
「ブラインドネス」
諦めていなければ、終わったわけではない。突然視界が真っ白になる。それが次々に伝染していく。原作はあるようだが、根底に流れるのは、最近とみに増えた感のある極限状態における人間ウォッチングである。ゾンビや地球外生命体が眼の伝染病に置き換わっただけと言ってし…
ブラインドネス
ブラインドネス 234本目 2008-40
上映時間 2時間2分
監督 フェルナンド・メイレレス
出演 ジュリアン・ムーア マーク・ラファロ アリス・ブラガ 伊勢谷友介 木村佳乃 ガエル・ガルシア・ベルナル
会場 TOHOシネマズ府中
評価 6点(10点満点)
ある…
ここんとこ映画のレポが(っつか、ブログ自体が)
滞り気味のガンヘッド♪です。(^^ゞ
気がついたらレイトショーが終わってて、仕方ない
んで本日朝の回(8時半)で観てきました。
・・・朝イチから観るにはけっこう重いぞ!
でも、やっぱ観ておいてよかった☆
オイラも途中からホラー系の映画が色々重なって、
やっぱ観ながら『28日後・・・。』と『ミスト』を
思い出してました。(^^ゞ
つか、わざと意識した映像にしてたのかも♪(笑)
ブラインドネス を観ました。
今日も必殺プランBで、朝から映画を観ることにしました!
ガンヘッド♪さん★
おはよーございます〜♪コメントありがとうございました!
ガンちゃん、朝の回で見ちゃったのね〜!アハハ、確かに朝じゃ重いよう〜(笑)
でも、うん。これなかなかガツンと来る面白さがありましたよね!
そうそう、その2つの作品も思い出しちゃいますよね〜。
それに、色んな映画の要素をごった煮して、何でも詰め込んでやる!という意気込みが感じられた。そんな感じかな。
ブラインドネス
(原題:BLINDNESS)
【2008年・カナダ/ブラジル/日本】試写で鑑賞(★★★★☆)
第61回カンヌ国際映画祭オープニング作品。
第33回トロント国際映画祭特別上映作品。
第21回東京国際映画祭特別招待作品。
ノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの小説「白の闇」を国際色豊か…
こんにちは、とらねこさん♪
これは撮る人が違えば、ほんとにゾンビ映画みたいなパニック作品になりかねない内容。
こういう特殊な状況に追い込まれると人はどう変わって行くのかを描いた面白い作品でした♪
でもこれって好き嫌いがハッキリ分かれる映画でしょうね〜。
ともやさんへ
こちらにもコメントありがとうございます〜♪
うん、本当、逆にホラー映画のように描き、ゾンビを出していた方が、ずっと楽な道だったんですよね。
そうでないところがまた面白かったです!
あ、これ、確かに好き嫌いが分かれるのかもしれませんね。
ま、『シティ・オブ・ゴッド』だって、目を背けたくなるシーンがいっぱいありますし、そういうテイストの監督なのかもしれません。
深夜からこんばんわっ
病院内で人間の弱さ醜さが描かれているものの
ラストは希望をもたす感じがそれはそれで良いんですが
ボクとしてはもっと絶望感があってもイイかなーなんて思ったりして
生きるが為の厳しい選択というものを医師の妻にさせて
上に立つ者の責任と孤独みたいなのがもうひとつツっこんで描いて欲しかったかな
間違いを犯すアメリカを象徴する「ミスト」のラストシーンみたいに
あくまでも自分の好みの話なんですけどね(笑)
なにせフェイヴァリット映画が「遊星からの物体X」なので^^;
サイ5150さんへ★
おはよーございます〜♪コメントありがとうございます!
そっか、サイさんとしてはこれ、絶望感が足りなかったのですか(笑)
しかも、『遊星からの物体〜』好きだからとな!?
ハハ、私はだいぶ前に見たっきりなんで、こんなに言われたら、もう一度見ないといけないなあ(笑)
絶望感を描くタイプか、とか、アメリカを描くタイプか、と言われると、この監督さんは、その手のタイプではないかな?と思います。
>上に立つ者の苦悩と孤独
あ、これとはちょっと違いますが「見えているならもっと違う行動が取れたのでは」と言われることも多いようなので、これも合わせて自分なりに考えたことを言いますと、
「見える者という優位な立場に立っているに関わらず、その優位さを利用することを選ばず、
見えざる者全員の庇護者、あるいは介護者となる、
いわば母性的人物そのものとして生きることを強いられた主人公だった、と思うのですよね。
だからこそ、大変だったと思うのですが。
で、チャンスがあっても急に攻撃する立場になり代わり、人を殺めるという行為に及ばない主人公を、自分は責める気になれないのです。
ブラインドネス
観客からは見えてますよ・・・ジュリアン・ムーアさん。
肉欲なんて原始社会にもあったんだろうけど、
時計とか貴金属などの物欲ってのはちょっと疑問視。
脚本的にはソレを入れておかないとスムーズに運ばないんだろうけど・・・
俺的には終盤のゾンビ映画風シーンも要らないように思うんだけど、そうなるとカルトムービーと言われるのかなぁ・・・
kossyさんへ
こんばんは〜★コメントありがとうございました。
そうですね、原始社会を描こうとした、というより、現代社会の縮図を描こうとした、と考えた方が妥当なのかもしれませんね。
確かに終盤、少しダレましたね。
というかこの監督さんの物語って、すごく面白いんですが、何しろ最後の方で結構もうオナカいっぱいになることが多いんですよね。
「ブラインドネス」 豊かさと倫理
本作を観て思い出したのが、ロバード・ゴールディングの「蝿の王」。 映画化もしてい
白の闇 (90点)
最近フェルナンド・メイレレスの監督で「ブラインドネス」とう映画が公開された。好き嫌いが分かれるというか、見る人を選ぶ映画だが、不杮..
Blindness (2008)
監督:フェルナンド・メイレレス
出演:ジュリアン・ムーア、マーク・ラファロ、アリシー・ブラガ、伊勢谷友介、木村佳乃、ドン・マッケラー、モーリー・チェイキン、ミッチェル・ナイ、ダニー・グローヴァー、ガエル・ガルシア・ベルナル
まず原作を読もうって決めて、….
ブラインドネス
ブラインドネス スペシャル・エディション(初回限定生産2枚組) [DVD]
¥3,092
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(2008)
製作国 日本、ブラジル、カナダ
出演 ジュリアン・ムーア (眼科医の妻)
マーク・ラファロ (眼科医)
アリシー・…
「ブラインドネス」
この病原体(?)は一体・・・?
【映画】ブラインドネス…見えなくなる映画ですが…観なくても良かったかな
今日{/kaeru_fine/}は、娘が先日行われた七夕教書会なる書道のイベントでナンヤラ賞を受賞したとのことで、授賞式に門司港{/m_0036/}まで行ってきました。
今回の賞は…まぁ常連みたいなモノなので特に珍しくも無いみたいなんですが…
今チャレンジ中(?)の松本清張生誕100…
ブラインドネス
全世界、失明。
ブラインドネス
ブログネタ:ご趣味は?
参加中
秋も深まって来ましたね。
芸術の秋ということで
映画を沢山観たいところです。
この映画は映画館で予告編を観ました。
面白そう。
私の好きなジュリアン・ムーアも出ているし。
ところが私の友人には評判がよろしくない。
映画…
ブラインドネス
BLINDNESS
2008年:カナダ・ブラジル・日本
原作:ジョゼ サラマーゴ
監督:フェルナンド・メイレレス
出演:ジュリアン・ムーア、アリス・ブラガ、ダニー・グローヴァー、マーク・ラファロ、伊勢谷友介、ガエル・ガルシア・ベルナル、サンドラ・オー、木村佳乃
始….
とらねこさん☆高評価ですね!
私も結構気に入っているのよー
あえて、どんな病気か、どうして一人だけ見えるのか、説明しないところも良かったし、
人間の醜い部分をむき出しにしていく様や、宝石を集めてどうするんじゃ?みたいなところも☆
私はてっきり寝ている間に、宝石を取り戻すのかな?って思ったんだけど。
現在エボラが凄いことになっているけど、SFの世界の話じゃないなーと思ってしまったわ。
ノルウェーまだ〜むさんへ
こちらにもありがとうございます♪
アハハ、自分、これ好きだったんですよね^^;
お恥ずかしながら、自分のブログを久しぶりに読んだ次第で…。
あんまり評判良くなかったんですけどね(笑)。私が好きだったのは多分、『ゾンビ』や『蝿の王』が大好きなせいだと思います。
まあでも確かにこれ嫌いだったという人は、オチの弱さを指摘する人が多かったなあと。
エボラ怖いですよね。アフリカ大陸では広がってるんですよね。
というか、血液や唾液等の飛沫で感染するなんて。空気感染は無いらしいのだけれど、嘔吐物や糞便などからも感染…というのがなんだか汚くて、いかにも想像力を掻き立てられるというか。
眼球から出血があるらしく、それを浴びてしまった人は感染してしまうってことですよね。
発症後2,3日はインフルエンザに似た症状なのに、そこから一週間で死に至るなんて怖いわー。
落ち着くまでしばらくアフリカは行きたくないかも…。
あと目が出血して血走るところもいかにもゾンビっぽい…。