147●レイク・タホ
’08年、メキシコ
監督:フェルナンド・エインビッケ
出演:ディエゴ・カターニョ、エクトル・エレーラ、ダニエラ・ヴァレンティーヌ、ホアン・カルロス・ラーラ、イェミル・セファーニ
ストーリー・・・
とあるメキシコの田舎町。ホアンは路上で、車がエンコしてしまう。
車の修理をすべく、とりあえず一番近くにあったへーベルさん(エクトル・エレーラ)のお家にお邪魔する。へーベルさんは初め強盗かと思って、ホアンに銃を向けたり、犬と昼寝しちゃったり、あんまり役に立たない。
修理器具の売ってる店に行くと、店員のルキア(ダニエラ・フォンティーヌ)が。彼女は修理士(?)のデヴィッド(ホアン・カルロス・ラーラ)を呼んでくれるが、彼もまた、テコンドーだか、ジークンドーだかの大ファンで、あんまり役には立たなかった・・・
『ダック・シーズン』のフェルナンド・エインビッケ監督作品てことで、自分にとっては、TIFFの中で一番楽しみだった作品。
二年前のこの作品ほどお気に入りになった訳ではないけれど、こちらも、ホンワカ、ホノボノした作品でした。
ただ単に車が故障したことに端を発する、少年の経験する、一日の物語。
どことはなしにユルユルなストーリー展開なのに、次第に少年が置かれた立場、背景がじわじわ分かってくる。
ホアンは父親を最近亡くしたばかり。そして、母親も悲しみにくれていて、子供の世話を放棄してしまっている状態だった。
そんな中、どうやって悲しみを乗り越えればいいのか、少年はただ途方にくれている、そんな状態なのだった。
でも、一切ここでは、お涙ちょうだいものとしては描かれてはいない。
ただ、勘違いだらけの妙ちくりんな人々との交歓があって、そしてそれは少年にとって、きっとイライラするような出来事・・・なはずなのに、
この作品では、決してそうは映らない。
それどころか、迷惑をかけるいろんな人達の気持ちや、温かさというものが、だんだん気持ちよく、少年もいつの間にか彼らの気持ちと歩調を合わせていく。
このヒューマニズムさ、温かさが、私は大好きなのだよ。
なんてあったかい変チクリンさ。
誰かに何かを頼む時、自分の要求を言って、それを叶えてもらい、それに対する報酬を支払うなり何なりして、それで終わり。それが経済ってもの。
だけど、この物語では、全然そうではないの。
なぜなら、少年が、まだ自分のお金を自由に使えるほど大きな子ではないの。
人の好意なんていう、当てにできるか出来ないか、よく分からないものだけで、
少年は要求してもらいたいことを、人々にしてもらわなければならないの。たかが、車の修理ってことなんだけど。
だけどその中で、人間同士の関係が、本当はただ単にGiveとNeedsが相互に成り立っている、それだけのものじゃない、っていうのが伝わってくる。
人の気持ちを動かすものって、人の気持ちなんだよね、って。
お店の店員のルキアとは、本当は一線を越えそうなシーンがあるの。
だけど少年ホアンは、ルキアと抱き合って、泣いてしまう。
彼が欲しかったのは、簡単に寝ることの出来る相手ではなくって、誰かと抱き合うことだったんだ、って分かる。
ここが私は好きだった。
童貞を捨てるチャンスだったのに、彼にとっては、そうじゃなかったんだ。
ただ、寂しくて、人の肌が嬉しかったんだろうな・・・
前作ほどではないけれど、やっぱり温かさの感じられる作品で、私の好みなんだよ。
『燃えよドラゴン』の、クレジットを必要としない、前代未聞のチープな映像にはウケた。
ま、つまりは、映像のない真っ暗な映像なんだけど、音だけは『燃えよドラゴン』で。これって、著作権侵害にもならないんだろね、きっと(笑)
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コメント(2件)
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とらねこさん、ぶえのすたるです。
そうそう私も「ダック・シーズン」が大好きで本作も必見でしたが、こちらも気に入りました。
妙ちくりんさがまたラブリーで、おかしくもほのぼの。
タイトルがどこからきているかっていうのが、さりげなくてまたよかったり。
カンフーヲタくんのキャラもね。
かえるさんへ
こんばんは〜♪お帰りなさいまし〜!
ご旅行から、無事に帰還されたのですね!
良かったですー^^ご旅行は、楽しかったでしょうか?
そうですね、ほのぼのした物語でしたが、なかなかラブリーな妙味でした。
タイトルも、前回の『ダック・シーズン』と共通点があって、またニンマリでしたね!こっちの作品の方がずっとさりげなかったですね。
カンフーヲタ君は、ブルース・リー好きが昂じて、高校の頃に空手部に所属していた私には、したり!なお気に入りキャラでございました♪