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141●アンナと過ごした4日間

アンナと過ごした4日間ポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督の17年ぶりの作品。
素晴らしい傑作だった。思わず、腰を上げるのが億劫に感じた。ズシリと来る作品。とても静かなのに、悲痛な面持になるラストだった。

ストーリー・・・
ポーランドの片田舎。レオン・オクラサ(アルトゥール・ステランコ)は、病院で清掃処理の一助手として働いていた。彼は以前、とある暴行事件の目撃者、かつ容疑者として、服役していた過去があった。その被害者となったのは、この病院で働くアンナ(キンガ・プレイス)という看護婦。彼は、今や、日も夜も彼女の住まいを見張る毎日を続けていた。・・・

’08年、ポーランド
イエジー・スコリモフスキ監督・脚本、製作。
出演:アルトゥール・ステランコ、キンガ・プレイス

TIFF、ティーチインつきにての鑑賞。
イエジー・スコリモフスキ監督は、俳優としてのキャリアもある。一番最近では『イースタン・プロミス』に出演。

極めて音のない、静かだがムンムン迫り来る迫力が見事。
ぐいぐい画面に惹き付けられ、主人公の内面の奥深くに寄り添って見入ってしまった。圧巻。
肌一枚の下にひたと肉迫するような、最後まで強烈な印象を残す作品だった。

この主人公は、普通に見れば単なるストーカーになってしまう。看護婦のアンナとの関係や、過去に起きた出来事に関しても、スクリーン上で全く説明がなく、いつしか物語が進む内に、少しづつ物ごとが繋がっていくのだった。
何が過去に起こったことで、何が今現在起きていることなのか、その辺りの見極めがつけずらく、象徴的な場面も差し挟まれる。

さらに、次に起こる出来事というのが予測がつかない。事実はどうなのか、主人公の心情は、一体その心の奥に何を抱えているのか・・・。
サスペンスタッチの盛り上げ方、と言ったら、安直すぎる物言いになるのではないか、と危惧を覚えるぐらいだ。
単純なフラッシュバックを差し挟むことは、最小限に抑え、リアルな体験として実感させながら、
なおいつの間にか、その時間軸の中で迷子になるかのような感覚に陥る。
まるで、彼自身の曖昧な妄想の中に囚われたかのように、
何が現実で何が妄想なのか、その見分けがつかなくなるかのようなこの感覚。
そうこうするうちに、いつしか彼のもつ内面に入り込み、起こる出来事を声を殺して一緒に体験するような感じすら覚える。
まさに見事としか言いようがない。

アンナ

 

レオンがアンナの部屋に入り込むシーンは、緊張感がありながら、どこか可笑しく、儚い夢の続きのようでもある。
彼は、アンナが寝入っている部屋に忍び込み、何をするかと思えば、ペディキュア(足の爪)を塗り、カッコー時計を直し、取れそうなシャツのボタンを縫いつける。

奇妙な男の奇妙な純情さよ。
こんな純愛ってないんじゃないか?

New York Post曰く、「アンナは彼の夢の女性なのだ」という。

私は、彼が部屋の掃除をし、花束を置き、酒を飲んで酔っ払いさえする・・・
このシーンを見て、こんなに儚い夢なら見させて欲しい、夢なら醒めなければいいのに、と願った。
だが、実際の映像はこんな私の戯言のように、甘い映像ではなく、甘さを排除されたものだ。
代わりにあるのは、男の悲しさ、孤独、祈りのような献身のようなもの。

与えるが故に相手を縛る、そんな愛情ではなくて、
まるで密やかな祈りのような愛情。
シンプルに、ただ単に相手の幸せを影から願う。
どこまでもいじましく慎ましく、そして自分の存在をすら感じない、そんな切ない思いな。
ただ、相手が幸せであることを願って。

イエジー・スコリモフスキ監督スコリモフスキ監督は、終わる時間が遅いということに気づいたのか、始まる前に一言、挨拶に来てくれた。
そして、ティーチインが終わった後も、このように、外へ出て来てくれた。
(すぐそこまで来ていたので、握手ぐらいしてもらえば良かったのに、つい遠慮してしまった。ついレオンを見習ってしまって。

ちなみに、どこの映画祭でも、毎回必ず「どうして17年間映画を撮らなかったのか?」と質問されてしまうらしい。

最後に一言、付け加えていました。
この作品は、日本の新聞の三面記事を読んで、思いついたプロットだそうです。
思わず会場内のあちこちから、拍手が出てました。

 

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コメント(23件)

  1. とらねこさん、じぇんどぶりー。
    スコリモフスキスキスキー。
    イエジーさんに会えて嬉しかったですよねぇ。
    そして、本当に素晴らしい作品でした。
    じゃんじゃん映画を見て、どんどん忘れている私だけど、アンナを見つめるレオンのことは忘れられません。
    それが愛だということに異論はありませぬ。
    ポーランド映画は水準高すぎー。
    夜はやっぱりライブドアっちにはTBできませぬ。
    また再来週ー

  2. かえるさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    スコリモフスキスキスキ〜♪
    イエ爺さん、なんてイエイエ、言ってはいけませぬな。
    >じゃんじゃん映画を見て、どんどん忘れている私
    うう。。。私は、忘れてしまうので、一日には1本にしておきたいのです。
    2本が限界ですけど、出来ればやりたくないですー。
    この作品があまりに素晴らしかったので、正直、他の作品がかすんでしまった、というのはありました。
    いや、確かに他の作品もちゃんと素晴らしかったんです。
    だけどこれは忘れられませんね。

  3. 『アンナと過ごした4日間』 (東京国際映画祭 その5)

    向かいの部屋に住む女性を窓から双眼鏡で覗き見をする男がいた。Cztery noce z Anna (コンペティション部門) 
    監督:イエジー・スコリモフスキ (ポーランド/フランス)
    出演:アルトゥール・ステランコ、キンガ・プレイス
    これはもうまとめ記事に入れちゃおうか…

  4. 『アンナと過ごした4日間』公開決定!です。
    10月にイメフォ、マジに嬉しいですね〜ぇ
    この機会にイエジー・スコリモフスキー監督が日本で評価され(今が不当に低い)一気にDVDBOX発売とか、回顧上映とかされると良いんですが。
    今年のGW韓国まで行って観た過去作品、どれも素晴らしいんだもん。

  5. Longislandさんへ
    こんにちは〜♪お久しぶりです!コメントありがとうございました。
    そうですね、『アンナと過ごした〜』10月にイメフォ公開!私も実は、先月末にチラシゲットしまして、おおおおっ!と思っておりました(しかも何故かシネパトスで発見しましたよ!w)
    Longislandさんは、わざわざ映画祭に韓国まで足を運ばれていらしたのですね・・それはすごい!
    本当、これを機にDVD発売されるといいですよね
    ところでLongislandさん、ブログやってらしたんですね!
    今までURLに表示がなくて気づきませんでした、ごめんなさい!

  6. ほ〜ぉ、パトスですか(超しぶい)。
    お見受けするに、とらねこさんは映画祭好きとみました。 私も東京国際映画祭をはじめ映画祭大好きです。 いずれはベルリン、カルロヴィ・ヴァリ、ロッテルダム辺りに行きたいな〜ぁ、などと妄想しております。
    この2年韓国全州国際映画祭に行ってますが、近くて日本人もやさしい?映画祭でお勧めですよ。
    異国の地で映画三昧、そんでもって毎晩深夜まで飲み明かす悦楽の日々・・・いいんだな〜ぁ。

  7. Longislandさんへ
    こんばんは〜♪コメント再びありがとうございました。
    へえ、わざわざ異国の地へ出向いていって、そこで映画三昧の日々を過ごすんですか〜。
    すごい映画好きの人はそうした映画祭の楽しみ方もされるのですねえ。
    想像はしたことありましたが、実際に間近にはそういう人は居なかったので、ほえー。と感心してしまいました。
    ちなみに、自分はそれほど映画祭好きでもなかったりしますー。勉強不足ですいません。
    自分にとっては、映画は東京で住む上で、妄想旅行をするためのツール、そして現実逃避のためのアイテムなんです。
    自分は旅行好きでして、朝から晩まで活動的に過ごし、寝る間も惜しんでいろいろ見るのが好きだったりします。
    旅行先では、たとえば山寺の何百段とある階段に上り、そして戻ってくる2時間と、映画を見る2時間のどちらを選ぶか、と選択するとしたら、1秒たりとも悩まない私です。
    映画に対する真剣度が足りないのかもしれませんが、その一方で実は、真剣な旅行好きでもあるんです(笑)
    そして自分にとっては、東京での楽しみが映画だったりしますです。
    ちょうど今後はもっと東京で開かれる映画祭に目を向けるようにしたいな、なんて思っておりました。
    またその際にいろいろお話できたらとても嬉しく思います♪
    PS.TBの件、了解いたしました。無理は言いませんので、また気が向いたらお話させてくださいませね

  8. 『アンナと過ごした4日間』

    (原題:4 noce z Anna)
    —-これって、あの『早春』を監督した
    イェジー・スコリモフスキー監督の最新作だよね。
    17年ぶりとかでとても話題になっているようだけど…。
    「うん。あの映画は15歳の少年の報われぬ純愛を描き、
    ラストのプールのシーンとともに大きな話題にな…

  9. 『アンナと過ごした4日間』 曇天の光

    『アンナと過ごした4日間(原題:Cztery noce z Anna)』で、太陽

  10. 「アンナと過ごした4日間」イエジー・スコリモフスキ

    「アンナと過ごした4日間」公式サイト
    アンナと過ごした4日間Cztery noce z Anna
    2008ポーランド/フランス
    監督:イエジー・スコリモフスキ
    脚本:エヴァ・ピャスコフスカ
    出演:アルトゥル・ステランコ、キンガ・プレイス、イエジー・フェドロヴィチ、バルバラ・コ…

  11. 『アンナと過ごした4日間』・・・ ※ネタバレ有

    2008年:フランス映画、イェジー・スコリモフスキー監督&脚本&製作、アルトゥル・ステランコ、キンガ・プレイス、イエジー・フェドロヴィチ、バルバラ・コウォジェイスカ出演。

  12. シアター・イメージフォーラムで「アンナと過ごした4日間」を観た!

    唐突に始まり、唐突に終わる、なんとも不思議な映画でした。雲が低く垂れ込めたポーランドのうらぶれた町。主に登場するのは風采の上がらない中年男レオンと、レオンの憧れの女性アンナの、ほとんど2人だけです。他に登場するのはレオンがつとめる病院の院長と、レオンの

  13. イエジー・スコリモフスキ監督インタビュー:『アンナと過ごした4日間』その映画技法について

    現在、17年ぶりの監督作『アンナと過ごした4日間』が公開中。今年の東京国際映画祭では4本の初期作品が上映され、再び大きな注目を集めるポーランドの映画作家、イエジー・スコリモフスキ。映画評論家のわたなべりんたろうと『眠り姫』『ホッテントットエプロン―スケッチ』…

  14. アンナと過ごした4日間(2008) 

     
    原題:CZTERY NOCE Z ANNA
    愛、愛、愛、すべては、愛ゆえに
    フリ―ポスポート鑑賞終了まで後16日です。焦るなあ〜〜!でも他の映画も観たいし。ということで、今日は京都みなみ会館へ・・・・。「アンナと過ごす4日間」を鑑賞してきました。
    ポーランドの巨…

  15. とらねこさん
    こんにちは♪ご無沙汰しております。
    いつもTBのみで失礼ばかりですみません。
    ようやくこちらでも上映されました。
    不思議なラヴストーリーでしたね。
    時間軸が定まらないもんで、少々戸惑いましたが。
    主人公レオンの一途な愛には驚きも
    ありましたが・・・・。今までに味わったことの
    ない映像感覚に惹かれました。

  16. mezzotintさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    こちらこそ、いつもTBありがとうございます。ご無沙汰しております!
    なんだか不思議な気がしますよね?
    でもどこか心の奥に訴えかけるような、胸が苦しくなるような、そんな傑作だったと思います。
    >今まで味わったことのないような映像感覚
    うん!この言葉とってもいいですね。
    東京では、この作品すごく人気で、人がたくさん入っているんですよ。

  17. とらねこさん
    今晩は☆彡
    またまたお邪魔で〜す!
    京都のミニシアターは2つのみで・・・。
    唯一その一つでの上映でした。大入り満員までは
    いきませんでしたが、映画通のお客さんがたくさん
    来られていましたよ!コメントが重複しますが、
    あえて監督は、鮮明な映像ではなく、薄暗い映像で
    しかもセリフをあえて少なくしたのでしょうかね。
    一体どうなっているの?と観客に集中させるように
    したような感じですね。それがこの映画の見せ場
    だったと・・・。
    さすが凄い監督さんです。いやあ観終わってからも
    色々考えされられる作品ですね。
    監督さんに会われて羨ましい限りです。

  18. mezzotintさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    そうですか、京都でも結構な入りなんですね!それを聞いてとても嬉しいです。
    京都のみなみ会館と大阪のナナゲイですか。
    仲良くしていただいてた、ブロガーさんが、この辺よく行かれていたようだったので、いつの間にか名前をすっかり覚えておりましたw
    私も、関西に旅行に行ったら、この辺りには是非行ってみたいですね。特に、「ナナゲイ」には是非とも行ってみたいですw。
    そうですね、あえて台詞を排し、灯りも抑えて使われていたのかもしれませんね。
    あの時間軸の不思議な流れ方も、私にはいつしかレオンの心の中そのものに思えてきました。
    とても好きな作品だったので、ここにコメントをくださって、とても嬉しいです。感謝します。

  19. アンナと過ごした4日間

    公式サイト。原題:4 Nights with Anna / Cztery noce z Anna。イエジー・スコリモフスキー監督、アルトゥール・ステランコ、キンガ・プレイス。本作は日本で起きた現実の事件の三面記事をヒントにしてポーランドのイエジー・スコリモフスキー監督が作ったという。 映画監督….

  20. アンナと過ごした4日間

    紀伊国屋書店のWEBサイトを見ていて発見したのですが、同社の第1回配給作品という触れ込みの「アンナと過ごした4日間」がとても気になって、伝を通じて割引券を入手。渋谷のイメージ・フォーラムに足を運びました。

  21. アンナと過ごした4日間

     コチラの「アンナと過ごした4日間」は、中年男の一途な気持ちの暴走を描いたラブ・サスペンスです。こうゆうのって気持ち悪いし、純愛とは絶対に言いたくないんだけど、なかなか面白く観れてしまったかなぁ。ラブとしてはダメ、絶対にこんなことしちゃダメだよって思うん….

  22. mini review 10471「アンナと過ごした4日間」★★★★★★★★☆☆

    第21回東京国際映画祭で、審査員特別賞を受賞した話題作。向かいに住む女性の部屋をのぞかずにいられない男の悲しい心理と行く末を、サスペンスフルなタッチで描いていく。監督は『早春』などで知られるポーランドの巨匠であり、『イースタン・プロミス』には俳優として出演…

  23. 『アンナと過ごした4日間』’08・波・仏

    あらすじ病院の火葬場で働きながら、年老いた祖母と二人で暮らすレオン。彼の楽しみは、近くの看護師寮に住むアンナの部屋を毎晩のぞき見ることだった・・・。感想東京国際映画祭審…




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