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139●がんばればいいこともある

がんばればいいこともある’08年、フランス
フランソワ・デュペイロン監督・脚本(『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』)
出演:フェリシテ・ウワシー、クロード・リッシュ、エリザベス・オボン
TIFFでは、ティーチ・インで主演女優のフェリシテ・ウワシーさんが登場した。


ストーリー・・・
パリ郊外のゲットー。DV、ダメオヤジだったダンナがあっけなく倒れた。折りしも、娘の結婚式の日だった。そこで、子だくさんのお母さん、ソニア(フェリシテ・ウワシー)は、向かいに住む孤独な老人、ロバート(クロード・リッシュ)のところに偶然、助け舟を出すことに。どこか厭世感のあるトボけたこの老人は、ダンナをまだ生きていることにして、生活保護を受けること、死体をアパートの地下に隠すことをススメた。・・・


とにかく、いろんなことが次から次へとソニアの身に起こる。
ボーっとしたり、落ち込んでいる暇もないくらい。逞しく生きるソニアは、何とか毎日をこなすだけだ。ソーシャルワーカーとして働き、身を粉にして、朝から晩まで忙しい。
何が起こっても決して愚痴を言わない。母としての責任が重いからといって、もちろんまだまだ女としての自分が魅力的でないわけではない。


フランスのパリ郊外の居住区でも、ほとんど省みられることのない地域、ここにあえてスポットを当て、描いたことに意味がある、とフェリシテ・ウワシーさんは言う。
ここに住む人の多くは、今現在の生活から脱却することを望みながらも、単に何もせず、怠惰な生活を送り、ドラッグを売ったり、闇の世界に足を踏み入れる事が多いという。金持ちで「MTV的な」世界を理想とする人がほとんどだそうだ。
そんな中、こうしてソニアのように必死になって生きる姿というのは、とても珍しく、そして眩しく映るのだ、という。


とても忙しいテンポの作品だった。そして、このテンポの良さというものが、彼女の圧倒的なパワーの源でもある。
そこに、投げかけられる、多くの価値観の相違や、問題の深刻さ、ありとあらゆる物ごとが頭の上に降りかかってくる。だが全て、いつかきっと良くなると信じ、なおこうして平気で笑っていられるというのは、美しいことのように感じてくる不思議な魅力を持ったテンポなのだった。
途中で、飽きて投げ出すことすら出来ない。ジェットコースターの中で、とりあえず必死に目を開けている・・・そんな感じ。


ソーシャルワーカーとしての彼女が、何も考えずに生きているのかというと、そうではない、自分があるからこそ、しっかりと地に足をつけて生きているのだ、と分かるシーンがある。
忙しく目まぐるしい場面の連続の最中に、ふと静かに静寂が訪れる闇夜のシーンがある。
夜更けに、向かいの例の隣人・ロバートの心の声を聞く。彼は理不尽なことを彼女に押し付けてくるのだった。その人の人間としての価値観や、理性、全てを剥がすような出来事が起こる。
彼女はそれにどう対応し、どうすべきことが正しいのか、この時はさぞ悩んだだろうと思う。

その時に彼女が起こした行動、これは・・・。一つの映画に収まりきれない、いろいろな疑問や倫理を投げかける問題だった。介護の本質、人間の本質に迫る問題提起として、一石を投じるかのような問題の場面。


そういえば、『ボルベール』でもダンナの死体を隠すシーンがあったっけ。
強く逞しく、だが心根は本当に優しい、“母”、母性を描いた作品として、どうしてこうも男性の死体が隠されるのだろう。
なんだか可笑しくなった。
おっと!ここは、笑ってしまったら、男性が怖がるかな・・(笑)


フェリシテ・ウワシーさんは、ロマン・ポランスキー監督の舞台作品に出ているところを、このフランソワ・デュペイロン監督によって見出され、この作品に主演の運びとなったという。
ご本人は、この時の映画で見た彼女と違って、スキンヘッドが眩しく、黒い衣装にショッキングピンクのブ-ツが似合っていて、とても美しい人だった。
この映画の脚本を読んで気に入り、出演することにしたのだという。
賢そうな、とても素敵な女優さんだった。

 

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コメント(3件)

  1. こんにちは。
    この映画すごく面白そうです。
    とらねこさんの感想読む限りでは、好きなタイプの映画なような気がします。
    それにしても邦題がまたなんとも…(笑)
    ちょっと探してみようっと。

  2. あすかさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    そうですか、あすかさんもこれ、気になりましたか☆
    あすかさんの趣味とは、結構自分は似てるかな♪って思うんですよ!きっと気に入ってもらえそうです!見て欲しいな。
    見た人には、結構好評みたいです。
    これ、今のトコ、トロント映画祭と、東京国際映画祭でしか見れなかったようで、
    本国フランスでも、今月末からの公開なんですー^^
    ちなみに、国際タイトルは『With a little help from myself』。
    通訳の人もちゃんと、“神は自ら助くるものを助く”と訳してましたよ。
    この監督さんの前の作品、『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』もすっごくいいんですよ〜☆
    ちなみに、私の’05年のベスト10にも入ってるんです〜!
    http://www.rezavoircats.com/archives/51214367.html

  3. “イブラヒムおじさんとコーランの花たち” に関する話題

    “イブラヒムおじさんとコーランの花たち” について書かれたエントリを検索してみました。
    □映画INDEXあ??か行(2008年12月30日迄)|茸茶の想い ∞ ??祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり??【あ行】 アイ・アム・デビッド 愛さ




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