134●僕らのミライへ逆回転
初めてゴンドリーを映画館で見た『ヒューマンネイチュア』は、まだたかだか7年前に製作されたもの。以来、どこか一風変わった作品を作り続けているミシェル・ゴンドリー。今回のこの作品では、彼が“自分らしさ”というものをハッキリ持った、素晴らしい映画監督なのだと、改めて知った。
ストーリー・・・
いまだにビデオテープしか置いてない街角のレンタルショップ。そこは30年代に活躍した伝説のピアニストの生家だというが、いまや再開発のため取り壊しの運命に。そんな中、店員のマイク(モス・デフ)は店長から店の留守を預かる。やる気満々のマイクだが、近くのトレーラーハウスに住む友人ジェリー(ジャック・ブラック)が起こした「事件」のせいで、店の全ビデオの中身が消去されてしまう。困った二人は自分たちで映画をリメイクし、それを客に貸し出すのだが。・・・
初めの方こそ、あれれ、なんだかモタモタしていて、あまり笑えない、ユル〜い世界なんじゃない?と。
ジャック・ブラックが何かしでかしそうで、ハラハラしながら、大丈夫なんだろうか、本当にこれ面白いんだろうか・・・と心配になりながらの冒頭。
何せ自分は、ジャック・ブラックが出てくると、どうも落ち着かないんですよ。
あの人を食ったような、ミニゴジラの如き容貌のせいだろうな。もちろん、嫌いじゃない。悪目立ちするというか、どのシーンでも意味なく目立たざるを得ない存在感のせいで、気が散って仕方がないのだ、私は。
例えば、青春映画の傑作『ハイ・フィデリティ』のような役どころを演らせれば、適度に脇役として目立ち、かつ彼がとっても印象に残った、という人も居るはず。
同様に『オレンジ・カウンティ』然り。彼が出てくるだけで、どことなくその部分だけ、映画として別物にならざるを得ないような、そんな危険な役者なのだ、実は。
言ってみれば『スクール・オブ・ロック』では、そんな彼のスピンオフ作品、とも言えそうな、この2作でのジャック・ブラック、彼の持ち味を、最大限に生かした作品だった。ジャック・ブラックにしか出来ない演技、持ち味。それを上手く料理するだけで、十分美味しい作品になった。(さすがリンクレイター!)
じゃあ、次に彼はどうすべきか?
答えはもちろん、『愛しのローズマリー』でも、『ナチョ・リブレ 覆面の神様』でもないはず。『ホリデイ』?・・・はァ?何か言いましたか?
だけど、じゃあ、彼はどうしてこうも、モテるんだろう。才能のある映画人たちが、彼をこぞって使いたがる理由はどこにある?
きっと、それだけの魅力があるんだろう。
目の前に活きのいい新巻鮭(あらまきじゃけ)がドデーンと転がっていたら、どんな味になるやら・・・鮭の美味しさや塩辛さ、そうしたものを想像し、見ているだけで、料理人が腕を振るいたくなるような、そんな何かが眠っているんだろう・・・と私は想像する。
ところでこの物語は、ジャック・ブラックの彼ならではの魅力、そうした目にするもの以外のところで、どこか究極なバランスを保った1作だった。
さて、この作品。
ゴンドリーのいうレイドバック精神とは、これは、流行りすたりではないところにあるのだ。温故知新、古きを尋ねて新しきを知る、この言葉の良さを温かく感じる作品だった。
古いダンボールだとか、手作りのみょうちきりんな機械だとか、温かくて、人の匂いがして、どこか可笑しなセンスで。
ユルい笑いが続く中、最後にいたって、感動させられてしまう。いつの間にか、ノセられてしまった。
これは、ゴンドリーの『ニュー・シネマ・パラダイス』だった。
物づくりの原点について、考えさせられる。
最初はモノマネかもしれない。稚拙かもしれない。
だけど、CGを使わずに、簡単にお金を出せば出来るものではなくって、自分ならではの工夫をして、作られていた昔の映画。
遊んでいて、楽しくて、アイディアをそのまま、思いついたまま、映画につっこんで・・・。
物を作る人が居れば、それを喜んで見る人もいて。
映画って、みんなのものなんだ!そう思い至る。
作る人が、自己満足のために作るのも映画愛なら、それをみんなで共有して、みんなで上映会をする、その至福の時間もまた、映画愛。
海賊版が横行して、それを取り締まる人がいるけれど、
本当は誰もがモノマネをするところから、モノづくりというものは始まる。
大好きな監督の好きなシーンをモノマネして、それが楽しくて。そんな中から、いつか映画の撮り方というものを覚えていって、自分らしいテーマというものが見つかっていくのだ。
そう、映画愛についての物語だった。
みんなのための映画。
最後、映画というもの自体が、観客全てのものだ、と、
受け手側に委ねられていくラストは圧巻だ。
全体的なテイストとしては、非常に緩やかで緩慢なのに、いつしか全てを巻き込む。
これぞ、ゴンドリーをゴンドリーたらしめる作品になった。
やったぜ!ゴンドリー、さすがです。
これは、映画好きにしか分からない作品だ。
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コメント(25件)
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「僕らの未来へ逆回転」 BE KIND REWIND の困ったちゃん
「僕らの未来へ逆回転」 BE KIND REWIND
ムカつく顔なのについつい見てしまうジャック・ブラックのくだらないパロディー映画と思って観に行ったのだが
あれっ?あれっ?こんな映画なの?
ミア・ファローとか出てくるし
ひょっとして泣いてしまう映画なのか???
…
ジャック・ブラックとゆー男はかなり鬱陶しい、できるなら無視したい奴なのですが、ドン引きの感情をムリヤリ鷲掴みにして震度7ぐらいの揺さぶりをかけて泣かしてくれます。ミア・ファローが出てきてからはほとんど泣いてましたね。なぜ泣いてしまうのか分析するのも恥ずかしい一番のウィークポイントを突いてくる映画でした。
でも馬鹿にする予定で(笑う予定もゼロ)観に行った映画に大泣きさせられると「かなり得した感じ」になれますね。ほんと「ニューシネマパラダイス」で泣かされるぐらい恥ずかしい映画でありました。
僕らのミライへ逆回転
『はっぴいえんどにリメイク中』
コチラの「僕らのミライへ逆回転」は、今日10/11公開となったミシェル・ゴンドリー監督×ジャック・ブラック主演が贈る超アナログな最先端ハンドメイドムービーなのですが、早速観て来ちゃいましたぁ〜♪いやぁ〜本当に思いっきり笑っ…
あはは、ジャック・ブラックって確かに個性が強過ぎて
出てくるとそれだけで彼の個性に染まってしまうのかもしれませんね。
ミニゴジラですか?(*≧m≦*)ププッ
でも、この映画本当に良かったですよね。
ユルいのに、前半のユルい笑いが全てその後の映画愛に
繋がるあたり、もう感動でした!!
あらためて自分がどんだけ映画を好きなのかも感じられたりして( ´艸`)
その場しのぎに自分たちでリメイクして、何とか誤魔化しちゃおう。
そんな発想を本気で実行に移して、わけのわからない手作りを真面目にやってしまうパワフル・キャラは、ジャック・ブラックならではのキャラ。
そうは思いつつも、作品全体の雰囲気からジャック・ブラック一人が浮きまくりで、何で彼を使ったんだろう・・・と(苦笑)
と言うか、“ジャック・ブラックが出ている作品”という目で見てしまったために、良い作品だと思う傍らに、期待と違ったと思う自分がいたのでした。
gsさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>ドン引きの感情をムリヤリ鷲掴みにして震度7ぐらいの揺さぶりをかけて
うまい!本当、ジャック・ブラックってまさにそういう奴ですね。今後もハラハラしながら、でもやっぱり見ちゃうと思います♪
ミア・ファローが出て来てから、何故だか嬉しくなりました。何故でしょうー。自分にはちょっとだけ『オーメン’06』を思い出したりもしちゃったんですけどw
自分も期待ほとんどしないで行った(とか言いつつ初日に見たんですが)割に、温かい感動もらって、すっかり嬉しくなりました。
gsさんが途中から涙が出たなんて。自分にとってはこれ、ラストでひっくり返された、という印象だったんですよ。全てが繋がった!と感激しました。
gsさんはきっと、途中から最早見抜かれていらっしゃったんですね。さすがです。
miyuさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>前半のユルい笑いが全てその後の映画愛に繋がるあたり、もう感動でした!!
そうなんですよね!私も、まさかって感じでした。
最後になって、あれ待てよ、これはこういうことだったんだ、って、もう一度映画を再構築する必要に駆られ。
ここに気づいた人には、この映画感動作になるんですよね。
そうでない人には、単に笑えない映画になってしまう。
そうそう、改めて自分が映画好きなんだ、と感じてしまって。こんな辺りがもう嬉しくて照れくさくて。
哀生龍さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
>そんな発想を本気で実行に移して、わけのわからない手作りを真面目にやってしまうパワフル・キャラ
ふふ、その通りですねw
哀生龍さんにはこの作品でのジャック・ブラック、ダメでしたか?
私は、彼なりのアクの強い持ち味が、出過ぎないように、適度に調理(←笑)されている気がしましたw
ちょうど、『エターナル・サンシャイン』でジム・キャリーが感動作の主人公になりえたように。
でもそうですね、自分の思い込みが強いと、そこから抜けられなくなってしまうこともありますね。
僕らのミライへ逆回転
監督:ミシェル・ゴンドリー
(2008年 アメリカ)
原題:BE KIND REWIND
【ストーリー】
街角の古めかしいレンタルビデオ店で働くマイク(モス・??.
とらねこさん、こんばんは。
J.ブラックを新巻鮭に例えるなんて斬新ですね!ヾ(〃▽〃)ノ
彼に関してはいろいろ複雑な気持(好き!とは言い切れない何か)があります。
ふと思ったのが、最近阿部サダヲにも近い気持を感じる時があるなぁと。
傍役で見てた時はなんだか気になるヤツ!もっと見たい!って思ってたのに、
最近ちょっと鼻につくよね。。。主役はちょっとお腹いっぱいです、という感じでしょうか。
あっ、でもこの映画は楽しかったです。ゴンドリーさん、ありがとう!でした。
ゆるりさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
お久しぶりですー☆
あはは、なんとなく、あのウエストといい、ぴちぴちした新鮮さといい、しょっぱい太っちょな新巻鮭って感じに思えてしまってー♪ぐふふふ
なるほど、ジャック・ブラックが阿部サダヲみたいですか☆
確かにそんなところ、あるかもしれませんね。
どうもこの人が出てくると、空気がこの人の色に変わる・・
そういう絶対的な存在感があるんですよね、どーも。
ただ、この作品では、結構それが変に鼻につくことがなかったように自分には思えるんですよね。
上手にこの世界にバランスと調和を与えていたかなって。
どうでしょう??
『僕らのミライへ逆回転』@シャンテシネ
いまだにビデオテープしか置いてない街角のレンタルショップ。そこは30年代に活躍した伝説のピアニストの生家だというが、いまや再開発のため取り壊しの運命に。そんな中、店員のマイクは店長から店の留守を預かる。やる気満々のマイクだが、近くのトレーラーハウスに住む友
「僕らのミライへ逆回転」
おもしろくなかった。
レンタルビデオ店員とその友人が、磁気のために中身が消えてしまったビデオの代わりに、自分たちで映画を作るという話…
「宮廷画家ゴヤは見た」
ひさびさに、しっかりと見応えのある歴史ドラマを観たという感触。
なんだか実にミロス・フォアマン監督らしい、どっしり感。この監督には名…
僕らのミライへ逆回転
アメリカ
コメディ
監督:ミシェル・ゴンドリー
出演:ジャック・ブラック
モス・デフ
ダニー・グローヴァー
ミア・ファロー
【物語】
時代に取り残された町の片隅に建つ小さなおんぼろレンタルビデオ店。
ある日、店長に….
こんにちは♪
いつもだったら大歓迎のJ・ブラックの唯我独
尊的なキャラが今回ばかりはチョイと鼻につい
たし、あと前半のモタつきのせいでオモシロか
ったのに素直にオモシロいと言い切れなくある
勿体無い作品でした。
後半だけ観れば間違いなく素晴らしい作品だと
思えるんですがね〜♪ (゚▽゚)v
風情さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
あれ、今回のジャック・ブラック、そんなにいつもと違いましたか??
私は、今回のJBは随分とまろやかに作品の中で調和してるなーって。
後半、ラスト間際の叩みかけは、前半に描いた内容の意味について、明らかになって、
自分はかなり満足したんですよね。
笑いは人それぞれ好みがあるから、笑い以外のことについて語ると。
とか言って、自分は結構笑えてしまったので、そう思うのかもしれませんけど。
僕らのミライへ逆回転
僕らのミライへ逆回転’08:米
◆原題:BE KIND REWIND◆監督・脚本: ミシェル・ゴンドリー「TOKYO!」「恋愛睡眠のすすめ」◆出演:ジャック・ブラック、モス・デフ、ダニー・グローヴァー、ミア・ファロー、シガーニー・ウィーヴァー
◆STORY◆いまだにビデオテープしか置…
「僕らのミライへ逆回転」
手作り映画って面白いもんだなぁ〜^^
僕らのミライへ逆回転
巻き戻して、ご返却ください。
DVDになった今、もう必要じゃなくなった。
巻き戻しって、じゃまくさいんだけど、
巻き戻す時間、余韻という…
僕らのミライへ逆回転 / 68点 / BE KIND REWIND
ジャック・ブラックの魅力で観れるけど、ストーリーはイマイチやね??
『 僕らのミライへ逆回転 / BE KIND REWIND 』 2008年 アメリカ 101分
監督 : ミシェル・ゴンドリー
脚本 : ミシェル・ゴンドリー
出演 : ジャック・ブラック、モス・デフ、ダニー
【映画】僕らのミライへ逆回転…僕のキタイとも逆回転だったかも?
サブタイトルが月並みですかね{/eq_1/}{/face_ase2/}
今日{/kaeru_rain/}から夜勤週のピロEKです{/ase/}
まずは近況報告から。
昨日の記事でも書きましたが、先週は両親が妹と一緒にイタリア旅行{/pizza/}に行ってて、金曜日(2009年6月26日)の夜、福岡空港{/airplane/}…
僕らのミライへ逆回転
たくさんの映画のパロディがでるという噂を聞いて、
観たいと思いました。
でもジャック・ブラックというのが。。。( ^ _ ^;
どうなることやら。
いまだにビデオテープしか置いてない街角のレンタルショップ。
その店が入っている建物は、
30年代に活躍した伝説の…
「僕らのミライへ逆回転」 DVD
日本だって地方の町は例えばトーキョーなんかとは全然違うがそこに住む人にとっては長く住めば(住むつもりなら)私たちの郷土、ってか僕らの町、なんだろうが、アメリカのようなだだっぴろい国土の地方だったらば、そこの町に住んでいるっての何?って悩みだしたら(まあ悩…
街角の名画座
コンテンツ事業がテロの標的だ。お馴染みジャック・ブラックが恐怖の磁石人間となって暴れ回る。失われた娯楽作品を捏造し金儲け。マッチポンプとはこのことだ。ギャフン!