131●宮廷画家ゴヤは見た
激動の時代のスペインを描いた、歴史大作。
重厚だけれど、娯楽色を失わない、ミロス・フォアマン監督の’06年の作品。アメリカ。
ストーリー・・・
18世紀末のスペイン。宮廷画家に任命されながら、権力批判と社会風刺に富んだ作品も精力的に制作し続けるゴヤ(ステラン・スカルスガイド)。彼が手がけた2枚の肖像画の人物―裕福な商人の娘で天使のように美しいイネス(ナタリー・ポートマン)と、異端審問を強硬するカトリック教会の神父ロレンソ(ハビエル・バルデム)が運命的に出会う。異教徒の疑いで捕えられたイネスを救ってほしいとゴヤに頼まれたロレンソは、拷問を受け牢に繋がれたイネスに面会し、思わず抱きしめるのだった。・・・
主人公のゴヤの美術や、人生を描いた作品では決してなくて、彼の目を通して見えてくる、この時代に生きる人びとの物語。
まさに激動の時期に生まれたからこそ見える、人間の栄枯盛衰。
そこにイヤというほど見え隠れする、人間の醜い欲望が丹念に描かれていて、私は思わずゲッソリしてしまった。オススメ!
ゴヤという人物に関する知識が特になくても、十分に彼の美術や、彼の描く、人間に対する不信感。そうしたものが、終わり頃には、ズッシリ感じられる作品に出来上がっている。
私は、元々ゴヤの絵って嫌いじゃなくて。聖書の中の、目をそむけざるを得ない、あまりにむごたらしい絵を、いくつも描いていて、相当非難を浴びた画家として有名だったのね。
実は英文学の教授が、カトリックに対するこういう真逆の視点もあるのだと、教えてくれて、その主な題材になったのがゴヤの絵だった。
当時からホラー好きな私が、一発で気に入るような、あまりにダークな絵。人間の醜さ、本性の恐ろしさ。キリスト教の教えとは相容れないような、目を背けたくなるような内容の、だが聖書の中の出来事を描いた絵。独特なタッチの奇異な絵の数々は、むしろ自分には近しく、好ましく思えたものでした。
なので、自分には、ここで描かれたゴヤの姿というものが、意外にも普通の人なのにビックリ。人間に対して愛情を抱ける、好感度の高い人物だったのねと、驚きをもって見てしまった。
こんな激動の人生、こうしたものをくぐり抜けた経験があったら、あんな絵を描いても不思議じゃないよ、なんて思ってしまう。
神父ロレンソ(ハビエル・バルデム)の悪行と言ったら、もー・・・。
顔を見ているだけでキモイ系のハビエルが、憎たらしいこと、憎たらしいこと。
神父という名のケダモノなんですよ全く。イヤというほど圧倒的な存在感で登場するものだから、主役のゴヤが、かすむかすむ。
そして、特筆すべきは、何といっても、ナタリー・ポートマン!
ゴヤの絵に描かれた、元々は、天使のような姿だったイネス。
彼女が拷問にかけられ、人間の尊厳も失われ、肉体としての機能も損なわれ、ボロボロになった姿で、ようやく解放された時のあの姿といったら・・・!
あまりに凄まじくて、正視するのがやっと。
拷問によって、全てを失ってしまった彼女。
美貌も、正気も、家族も。人生全てを奪われても、残ったのは、その美しい魂だったの。それと、愛。なんという痛々しさ。
にも関わらず、彼女の美しい魂には翳りはなく、皮肉や諷刺のブラックさに辟易してくるような、怪物ロレンソの処刑のシーンにおいても、変わることはなくて・・・、だからこそ見ている方は苦しくなる。
最後まで見た私たちに残されたのは、苦々しいけれど、満足のいく物語のように思える。これがまた不思議なのよね。
エンディングの時に、実際のゴヤの描いた世界観が、スクリーンいっぱいに流れるのも、とても好感が持てた。
ナタポーの演技は本当にすごかった・・・。
ミロス・フォアマンは、高校の時から好きだった、『アマデウス』の監督だったのでした。
『カッコーの巣の上で』ももちろん好き。
2008/10/28 | 映画, :ドキュメンタリー・実在人物, :文芸・歴史・時代物
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コメント(27件)
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『宮廷画家ゴヤは見た』
金券ショップで以前に購入した東急レクリエーションの株主優待券が今月末で期限が切れるので、最後の1枚を使いに新宿ミラノに『宮廷画家ゴヤは見た』を観てきました。
6枚綴りで3000円の優待券だったので、1枚500円。いい買い物でしたw。
********************
『ア…
映画「宮廷画家ゴヤは見た」
原題:GOYA’S GHOSTS
この邦題は思わず、"家政婦は見た"みたいな連想をしてしまうけど、ゴヤ自身は聴力を失うことになるからピッタリかもしれない??時代の変転と醜聞な物語??
フランシスコ・デ・ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)が宮廷画家の時代の1792…
宮廷画家ゴヤは見た
それは、立ち入り禁止の、愛。
原題 GOYA’S GHOSTS
製作年度 2006年
製作国 アメリカ/スペイン
上映時間 114分
脚本 ミロス・フォアマン/ジャン=クロード・カリエール
監督 ミロス・フォアマン
出演 ハビエル・バルデム/ナタリー・ポートマン/ステラン・スカルスガルド/…
ミロス・フォアマン監督は、この時代のスペインに、
自分が学生時代に過ごした社会主義国家と同じものを感じたそうで、
どうしてもこの「愛」というより、宗教弾圧の理不尽さを描きたかったのではないかと思えました。
ナタリーの変貌振りには彼女の女優魂を感じました〜(uu。
もう、なんかしばらくハビエル・バルデムは観たくないです(笑)
宮廷画家ゴヤは見た
『それは、立ち入り禁止の、愛。』
コチラの「宮廷画家ゴヤは見た」は、10/4公開となった「カッコーの巣の上で」、「アマデウス」、「マン・オン・ザ・ムーン」の名匠ミロス・フォアマン監督が、”スペインの天才画家ゴヤの目を通して、愛の真実に迫る問題作”なので….
ナタポー?(ノ∇≦*)キャハッッッ♪
いやぁ〜ナタポー(早速)ブラボーでしたね♪
あたしはいつもながらとらねこさんのように
ゴヤに対する知識も思いいれもないフラットな状態での
鑑賞だったのだけど、
とっても見応えありましたよ〜!
憎たらしいハビエルさんのオカゲでもあるのですけどね(´▽`*)アハハ
kiraさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました。
そうですね、監督自身、亡命せざるを得なかった経験とか、その辺りに関しては表現したいことがあるんでしょうね。
スペインの異端審問は有名ですが、この辺りを映画化したものってあんまり聞かないですね。もっとあるのかな。
自分としては、もっとエログロな拷問シーンが見たかったんですけど(こごえ)
ナタリー・ポートマンなかなか凄かったですね!
ハビエル・バルデムは、こっち系の俳優で行くつもりなんでしょうか・・。
miyuさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございます。
そうですね、ハビエル・バルデムの気持ち悪さ、これがないと、この作品成立しなかったですよね!
ナタポー(きゃは♪)かなりブラボーでした
とらねこさん、こんばんは〜♪
>特筆すべきはナタリー・ポートマン!
ほんとすごかったですね、
さすが!の一言でした
ハビエルももちろんすごかったけど。。。
今回は怖いんじゃなく、エロくてなんかキモかった(笑)
そうそう、ロメロのゾンビ、
字幕付きで見直したら評価上がっちゃいました
宮廷画家ゴヤは見た/GOYA’S GHOSTS
ゴヤが、いったい何を観たのか??
『カッコーの巣の上で』『アマデウス』{/fuki_suki/}と2度のアカデミー賞作品賞受賞暦を持つ ミロス・フォアマン監督作。
脚本 ミロス・フォアマン、ジャン=クロード・カリエール
原題は「GOYA’s GHOSTS」
『宮廷画家ゴヤは見た』っ…
「宮廷画家ゴヤは見た」
ひさびさに、しっかりと見応えのある歴史ドラマを観たという感触。
なんだか実にミロス・フォアマン監督らしい、どっしり感。この監督には名…
私はゴヤの絵を見て、気に入ってたところなので、その点でも良かったです。
主演3人、素晴らしかった!
migさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
そうですね、ナタリー・ポートマン、本当頑張ってましたね。
やっぱり元々実力のある女優さんなんですよね。
彼女が体当たりの演技をしているからこそのこの映画!て思っちゃいました。
ハビエルもキモかった・・・。
お、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』、評価上がりましたか!
楽しみにしてますね^^
ボーさんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
ゴヤは、自分の場合は、それほど特筆すべき好きな画家というほどではありませんが、
人間の醜さとか、聖書に関する人が目を背けたくなるようなシーンを描く恐るべし画家として、やはり注目に値する人だと思います。
現代的ではそれほど怖ろしいとは思わない人が多いかもしれませんが、これを当時にやったというのは、かなり衝撃だったようです。
『宮廷画家ゴヤは見た』@新宿ミラノ座
18世紀末のスペイン。宮廷画家に任命されながら、権力批判と社会風刺に富んだ作品も精力的に制作し続けるゴヤ。彼が手がけた2枚の肖像画の人物―裕福な商人の娘で天使のように美しいイネスと、異端審問を強硬するカトリック教会の神父ロレンソ―が運命的に出会う。異教徒の疑
宮廷画家ゴヤは見た▼△
天才画家ゴヤが描いた2枚の肖像画、少女と神父の数奇な運命とは?
10月18日、新京極シネラリーベにて鑑賞。「ノーカントリー」で、アカデミー賞助演男優賞に輝いたハビエル・バルデムがロレンソ神父という役で登場。この役もなかなか彼のキャラに合っている。そして…
ゴヤの亡霊たち〜『宮廷画家ゴヤは見た』
GOYA’S GHOSTS
1792年、スペイン。カソリック教会では、ロレンソ神父(ハビエル・バルデム)
の提案で異端尋問が強化され、商人の娘イネ…
【宮廷画家ゴヤは見た】
監督:ミロス・フォアマン
出演:バビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド
「宮廷画家のゴヤは肖像画の依頼を何枚か受けていた。裕福な商家の美しい娘イネスと異教徒狩に積極的な神父ロレンソ、この二人が数奇な運命で出会うことになる
『宮廷画家ゴヤは見た』 2008-No76
18世紀末のスペイン。
宮廷画家ゴヤが描いた2枚の肖像画・少女イネスとロレンソ神父。
ねちっと薄気味悪いロレンソ神父が強化した…
宮廷画家ゴヤは見た
私の住む地域では上映予定がなかったはずなのに・・・急に上映が決まったみたいということで、チラシも予告も見ず、何の前知識もなく観に行ってみた【story】18世紀末スペイン。ゴヤ(ステラン・スカルスガルド)は、国王カルロス4世(ランディ・クエイド)の宮廷画家に任命…
とらねこさ〜ん、お邪魔します♪
この作品ですが、私の住む地域で急に上映されたんです。だから張り切って観に行きました。
見応えがありましたね〜
顔を見ているだけでキモイ系の(笑)バルデムも凄かったですが、ナタリーには驚きました!!
異端審問所から解放された時の容貌!!一瞬息がとまりましたよ〜
『ゴヤという人物に関する知識が特になくても、十分に彼の美術や、彼の描く、人間に対する不信感。そうしたものが、終わり頃には、ズッシリ感じられる作品』
そう思いました!!よく分からないところもありましたが、、、鑑賞後ゴヤの作品を何点か眺めてみました。
由香さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
おー、由香さんの地域で、これを上映されたんですね!良かった〜。
そうですね!拷問から解放されたイネスの姿!まさに、「一瞬息が止まる」、本当に私も同じでしたよ・・。
たかが豚肉を食べなかったぐらいで拷問されて、人生台無しなんて最低ですよね・・・。
この映画を見てからゴヤの絵を見ると、またズッシリ来る思いがありますよね、きっと・・・。
「宮廷画家ゴヤは見た」
見応えのある作品でした
「宮廷画家ゴヤは見た」(GOYA’S GHOSTS)
米国の反体制活動を作品に象徴させた「カッコーの巣の上で」(1975年)や、反戦ミュージカル「ヘアー」(79年)、モーツアルトの半生を描いた「アマデウス」(84年)などの作品で知られる旧チェコスロバキア出身のオスカー受賞米映画監督、ミロス・フォアマン(77…
宮廷画家ゴヤは見た
2006 アメリカ スペイン 洋画 ドラマ 文芸・史劇
作品のイメージ:切ない、ためになる
出演:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ・クエイド
ストーリー展開はそれほど複雑ではなく、時代に翻弄された二人の男女の運命がゴヤ…
mini review 09382「宮廷画家ゴヤは見た」★★★★★★★☆☆☆
アカデミー賞監督賞などを受賞したミロス・フォアマン監督が、スペインの天才画家ゴヤの目を通して人間の真実、愛の本質を見つめた感動作。ゴヤが描いた2枚の肖像画のモデルたちがたどる数奇な運命を、18世紀末から19世紀前半の動乱のスペイン史を背景に描く。『ノーカントリ…
【映画】宮廷画家ゴヤは見た…ナタリーは微妙。スペインは怖い。
今朝{/kaeru_fine/}{/hiyoko_cloud/}は朝一番から投票に行ってまいりました。
投票開始時間に行ったのは初めてで、投票箱チェックも初めて見ましたよ(残念ながらチェックしたのは私じゃなかったんですけどね{/face_acha/})
で、その後「仮面ライダーディケイド」の最終回を…