120●イントゥ・ザ・ワイルド
忘れ難い作品になりそう。
自分にとっては、ジャック・ケルアックの『路上』と、ヘミングウェイの『海流の中の島々』を足したような、大好きな作品になった。
’07年、アメリカ。
ショーン・ペン監督、脚本。原作は、『荒野へ』ジョン・クラカワー。
本人の写真が、最後に出てくるよ。
裕福で何不自由ない家庭で育った、クリス。
本当だったら、高校卒業した後、その優秀な成績から、ハーバードだっていけるぐらいだったのに。
彼には、家族に内緒でしたいことがあった。それは、全ての文明から逃げ出して、自由を謳歌してみる、ってこと。シンプルな人生。
くだらない価値観くだらない文明、そういうものに一切縛られることなく・・・。
素晴らしい!感嘆した。
自由を謳歌するには、ここまで色々な物を捨てなければいけないのか、人間は。
私たちは、なんて無駄なものばかり背負ってしまってるんだろう。
くだらない瑣末事にこだわり、かかわずらって、私達はどれだけ大事なものが見えなくなっているんだろう。
どれだけ無駄な時間を生きているんだろう。
私は、この映画の中で、心の底から深呼吸をすることが出来た。
クリスと一体になって、肩に背負った、くだらない価値観を放り投げることが出来た。
気持ちが良かった、心の底から。
そこにいるのが、ああ、私だったらどれだけいいだろう!羨ましくて、涙がとめどなく溢れた。
クリス青年は、なんてまっすぐで美しい心の持ち主なんだろう。
私は、もうすっかり忘れてしまった、痛いくらいの真摯な気持ち、青年の頃の価値観に突如として出会った。そして、ギリギリと胸をしめつけられた。
エディ・ヴェダーの音楽がまたドンピシャだった!
ニルヴァーナ好きの私は、昔はパールジャムをどうしても好きにはなれなかったけど、この映画で全編音楽を担当していたエディ・ヴェダーは素晴らしかった。まだ鼻歌で歌えるもん。
私の勝手な想像だけど、ショーン・ペン監督も、この主人公のきっとクリスに、憧れを感じたのだろうと思う。
だって、彼への愛情が感じられるから。
尊敬が感じられるから。
彼の見た景色への、憧憬が、そこに紛れもなく詩情を持って描かれていた。
最高に素敵だった。痛かった。
私がキリキリ感じたと同じような、青年の頃の疼きを覚えたのだろう、そう思えた。
これから荒野へ入っていく、冒頭の辺りの、雪の上のシーンが印象的だ。
こんな荒々しいカットは、あんまり目にしないと思う。
車を運転する地元の人を、こちら側からのみ映す。肝心な主人公クリスは後姿のみだ。どんな表情をしているのだろう。
いきなりのカット、そしてまた後姿のクリス。
無謀とも言えるカメラワークだ。あまり上手とは言えない。
だがその後に、このシーンのやりたかった意図が見える。
今来た道を引き返していく、車は走っていく。まっさらな雪の上、人の足が踏み入れることの少ない道路。前人未踏の地に踏み入れていくクリス。
象徴的なシーンだった。
ここがスタート地点であるかのように。
これがやりたかったのだ、この荒々しさがたまらない。
物語は動き出した。
文明からの離脱を象徴的に表すシーンは、もっと後にはっきりと訪れる。
お気に入りだった中古のダットサンをアッサリ手放すクリス。
そして、彼は金を燃やす・・・。文明との決別だ。
私はこのシーンに、心をエグられた。お金を燃やすなんて、自分に到底出来そうにない行為だ。
クリス青年の気持ちが、キリキリと伝わってきた。
父親と母親に対する反抗精神から、「お金、お金。そればっかりか!」と、履き捨てるように言った、高校卒業の時の会食のあのシーンは、偽物の気持ちではなかったのだ。親に対する反抗心だけではない、強い意志と強い決心がそこにあった。
お金や物質主義のこの世に対して、本気で疑問を感じたことのある人には、きっと心を掴まれる物語だと思う。
私も、かつてはそうだったはずなのに、そんな気持ちをもう失ってしまった。
物欲ばかりに生きることに対して、そこに何の疑問を感じない人も中にはいるかもしれない。そういう人には、この作品はなんの意味もない。
昔は、精神だけの存在になりたい!と願った。
肉体という牢獄に閉じ込められていること、無駄な欲望に駆られること、そういうものから抜けて自由になりたい、と。
この社会に巣くう全ての欲望、物欲、名誉欲・・・。性欲ですら、文明の中では、金銭で全て肩がついてしまう。そうしたことに対して、全く何も疑問を感じないで居る人間にはなりたくない、と思っていた、かつての自分。
そんなことを、すっかり忘れてしまっていた。
心をつかまれると同時に、胸倉をつかまれたように気分にすらなった。
これは、単なるロードムービーじゃない。
人生の答えすべてがここにあるのだから。
いや違う、ロードムービーでしか成し得ない。
探し求めていた答えが見つかるのは、旅の結果なのだから。
人生の全てをかけた戦い、それが自分探しの旅なのだ。
くっそー、カッコいいな、ショーン・ペン・・・。
私は、これで全ての彼の監督作品が、お気に入り作になってしまった。
’95年の『クロッシング・ガード』も、’01年の『プレッジ』も、大好きな忘れられない作品。
『プレッジ』を見た時は、本気で奮えがきたのを、まだ覚えている。
’01年には、俳優としても『I am Sam』があるし、ショーン・ペンてば本気で好きだ、好きだ、大好きだ〜!と思った年でした。
ところで、この記事を、明日から私と一緒に旅する、とある友人に捧げます。
キミは今、私の居る東京方面に向かっている、その途上でしょうか?
キミは途中の新幹線の中で、これを今読んでくれているかな?
私は、キミが読んでくれるといいな、と思って、これを書いています。
私がオススメする大好きな映画を、いつも片っぱしから観ていてくれているよね。
いつもありがたいな、と思っています。
明日からの海外旅行、すごく楽しみだね!
お金は燃やさないし、普通に旅行を楽しんじゃうわけだけどさ(笑)
喧嘩しないで無事に帰って来れるかなあ。
この映画、いつかキミも見てくれるといいな、と思います。
これね、今年の、私の大好きな映画になったんだよ。
明日からの旅行は、楽しいものにしようね!
普通の海外旅行だけど(笑)、忘れられない経験にしよう!
2008/09/11 | 映画, :崇拝映画, :青春・ロードムービー
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とらねこさん、今晩は
ご無沙汰しててすいません・・・ 年末で色々お忙しい毎日を送っておられると思いますが、お体のほうもどうぞお気をつけくださいまし
わたしも若いコロは物欲を超越したディオゲネスや荘子に憧れ、「何も持たないってかっこいい!!」なんて思ったもんでした(笑)
いつの間にかそんな気持ちもすっかり忘れておりましたが、この映画に、そしてクリスに思い出させてもらいました。まるで「忘れもんだよ」と届けてもらったみたいに
クリスみたいな生き方はやっぱり無理ですけんど、あのころの気持ちだけは忘れたくないな、と思います
ショーン・ペンは実は『ゲーム』でのおせっかいな弟くんでしか見たことがなかった(爆)
『トロピック・サンダー』で『アイ・アム・サム』のことを揶揄されてましたけど(笑)、天然、というか無垢な存在に魅かれる人なんでしょうかね
クリスが旅先で会う人の中では、終盤に出てくるロンじいちゃんが特に印象に残ってます
「年寄りだからってなめんなよー」とムキになるじいちゃん。「君がいなくなるとさびしい」と泣きべそかいてたじいちゃん
クリスの訃報を聞いたとき、彼はどんな気持ちがしたのだろう・・・と思うと、あふれ出る鼻水を押さえきれないのでありました
荒野の呼び声 ショーン・ペン 『イントゥ・ザ・ワイルド』
首都圏より三ヶ月ばかり遅れて上映。でもこれはまだ都心でも細々とやってるのかな?
SGA屋伍一さんへ
こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
こちらこそ、ご無沙汰しております。
>物欲を超越したディオゲネスや荘子に憧れ
ハハハ!!ディオゲネスですか。物欲だけじゃなくて、いろんなもの超越してそうですが。
SGAさんも、ちょっと変わった読書史がありそうですよね(笑)
>クリスに思い出させてもらいました。まるで「忘れもんだよ」と届けてもらったみたいに
自分も忘れていたことを思い出しましたよ。自分の場合は、忘れたくないというより、ハッとして驚いたという感じだったんですが。
ああ、そうですね、あのおじいちゃんが実は一番かわいそうでしたね。
でも、旅先で出会う人全ては、クリスにとって、「何も持たざる自分を受け入れてくれた」人達でしたね。
きっと、彼の心にも強く残ったでしょうね。
「イントゥ・ザ・ワイルド」
徹底的にストイックな旅・・原作が読んでみたくなりました
イントゥー・ザ・ワイルド
【INTO THE WILD】
頭もよく将来を期待されていた一人の青年が、何もかもを捨てアラスカの地を目指して放浪の旅をする人間ドラマ。
実際の話をショーン・ペンが監督をしてるんですがいい映画だと思います。
イントゥ・ザ・ワイルド
原題:INTO THE WILD公開:2008/09/06製作国・年度:上映時間:148分監督:ショーン・ペン出演:エミール・ハーシュ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート、ジェナ・マローン、キャサリン・キーナー、ヴィンス・ヴォーン、クリステン・スチュワート、ハル・ホルブ….
イントゥ・ザ・ワイルド
良い!!
個人的にハズレ無しなショーン・ペン監督作
イントゥ・ザ・ワイルドposted with amazlet at 09.04.09Happinet(SB)(D) (2009-02-27)売り上げランキング…
イントゥ・ザ・ワイルド
そして僕は歩いて行く まだ見ぬ自分と出会うために
イントゥ・ザ・ワイルド / 75点 / INTO THE WILD
"頭(知識)"ではなく"心(経験)"で生きた・・・その不器用さは途轍もなく美しい
『 イン・トゥ・ザ・ワイルド / INTO THE WILD 』 2007年 アメリカ 148分
監督 : ショーン・ペン
脚本 : ショーン・ペン
原作 : ジョン・クラカ
イントゥ・ザ・ワイルド
2007 アメリカ 洋画 ドラマ
作品のイメージ:切ない
出演:エミール・ハーシュ、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・ハート、ジェナ・マローン
漂泊の思ひやまず「イントゥ・ザ・ワイルド」
朝5時に起きて「イン・トゥ・ザ・ワイルド」を鑑賞
ショーン・ペンの映画を観ていつも思うことは同じ「あ〜ん、これ映画館で見たかったよ〜ん」とゆー激しい後悔
今回の「イン・トゥ・ザ・ワイルド」もまさにそーなん
最初は このバスに乗った若者のシャシンがごっつー…
そして若者は旅に出るI 「イントゥ・ザ・ワイルド」 DVD
この映画の主人公クリスは大学を捨てて冒険旅行に、アラスカの荒野で自分で自然の物資を調達し過ごすという目的のために旅に出た。この映画は実話を元にしている。クリスは自らの家庭環境や世の中のことが嫌いだったのだ。そして若者特有の逃げ出す力を最大限に行使した。彼…
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2008年9月上映 監督:ショーン・ペン 主演:エミール・ハーシュ そして僕は歩…
TB&コメントさせてもらっちゃいますねぇ〜。
ワタシも凄く感動しました。
久しく忘れていた反社会的な感情というか、若さ故の過ちというか・・・・
そんな昔がずっしり入ってる映画でした。
>くっそー、カッコいいな、ショーン・ペン・・・。
よくわかります!彼ってちょっと異端な空気がありそうで、
怖い雰囲気がありますけど、目は確かですよねぇ。
周囲を説得してこの作品を選んで、何年も寝かせて公開する彼は凄くカッコイイ!!
説って日本語であるのかなぁ・・・アマゾン行ってきま〜す(^^;
oguoguさんへ
こんにちは〜♪コメントありがとうございました!
おおー、oguoguさんもこちらの作品、お好きでいらっしゃいましたか!
異端でアウトサイダー、やんちゃだったのは若いころのイメージですね。実際、インタビューの何を読んでも、昔はそんな感じのことしか書いてなかったですよ。
私はこの作品を見た時の気持ちを忘れたくなくって、
今もその思いを、心の中で冷凍させたままです。
もうね、この作品の良さが分からない人が目の前にいたら、
上手く説明することなんて出来やしなくって、
目に涙いっぱい溜めたまま、
「アンタなんか嫌い・・・っ」
と言って走り去りたい感じですわ。
なんてウゼー奴・・・私(爆)