99●イースタン・プロミス
グッと来る重さに満足。
ヴィゴ・モーテンセンの演技の渋さに心魅かれまくり。
“クライム・ムービー”と覚悟して見たら、
意外や今までのこのジャンルの映画に、決して引けを取らない佳作だったのでした。アッパレ。
ストーリー・・・
病院で働くアンナ(ナオミ・ワッツ)の下に、一人の少女(サラ・ジャン=ラブローズ)が運び込まれる。意識を失くした少女は、女の子を産み落とし、息を引き取る。バッグに入っていた手帳にはロシア語で日記らしいものが書かれており、少女がロシア人であることが分かる。手術に立ち会ったアンナは、少女の身元を確認するため、ロシア料理レストランのオーナー(アーミン・ミューラー=スタール)に相談すると、自分が日記の翻訳をしようと申し出る。しかし、その後、謎のロシア人、ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)がアンナに近付き始め・・・
’07年、イギリス。
デビッド・クローネンバーグ監督。
ぐいぐい目を引きつけて、決して退屈しないのは、物語を語る視点が、一方向からではないからなのでした。
ロンドンに巣くう悪名高いロシアン・マフィア、“法の泥棒”・・・。
彼らの目線で彼らの世界が描かれていたとしたら、逆に残虐性も「当然の事」として、怖さをあまり感じなくなるんですよね。
だけど、何の関係もない一般庶民がこのマフィアに知らず関わっていき、そして無鉄砲にも盾突くような行動を取っていく・・・これには参った。ハラハラドキドキ。
怖くって観てられないよ〜と、手に汗握りながら見ちゃいました。映画って不思議ね。
例えば『ゴッドファーザー』の映画を見る時に、もしくは何かヤクザ映画を見る時に、「このジャンルが大好きな映画」、と言う人には分からないかもしれないんだけれど、
自分にはその世界に入っていくのが面倒だ、というのもあったりします。
それは、ヤクザさんもしくはマフィアの持つ法やルールに、自分が近しいものを持っているワケではないから、
そこへ共感したり、主人公の目線で物語を追っていくのが、なんだか遠い。
そのヤクザさんが位置している遠くの彼方へ、モチベーションを上げていくには、物語の語り口が上手かったり、演出が面白かったりして、目を離さないような工夫を凝らしてくれないと、
見ているこっちは何となく面倒くさいな〜と、気が重くてなかなか入り込めなかったりするのですね。
で、この物語は、弱々しい一般人の女性が、何気なく目にしたある一人の妊婦の死。
彼女が手にした、“読んではいけなかった日記”によって、本当は避けておくべきだった闇社会の世界へと、入っていくのでした。
この距離感というものが、遠ければ遠いほど、余計彼らと、彼らの残虐さが怖ろしい。
物語は、いつの間にか、目立つ存在である、ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)が出て来て、徐々に彼の目線へとシフトしていく。
この“徐々に”というのが、とっても上手かった気がする。
ニコライの非情さ、仕事の早さ、合理的な冷酷さが目を引く。
そして、彼の現在のボスであるキリル(ヴァンサン・カッセル)の幼稚さ、未熟さがまた怖ろしくて、次第にニコライへ焦点が定まっていく。
物語は、全身素っ裸で、“タトゥーの誓い”をニコライが受ける、その辺りから急転直下で物語の舵取りの方向性が変わっていく。
“その目線”で見ていた主観が、さらにまた別の背景があったことで、物ごとの見る目がまた180度変わってくるのだった。
全く予想していなかった、その方向性の転換に、おおっ、と目を奪われた。
この主観の切り替わりが、非情にスリリングだった、その感触はまるで『インファナル・アフェア』かあるいは『ディパーテッド』のよう(笑)
(この言い方はいろいろ言われそうだけど。)
素っ裸で刃物と戦うニコライの姿は、「こんなの、見たこともない!」と言ってしまいそうになるほど恐ろしい。
風呂場でアクション、というのはジャッキー・チェンの『アクシデンタル・スパイ』を見て、「すげっ!」と思った記憶があるけど、
あんな感じのヒョイヒョイ身軽さはもちろんなくw。
リアリティを追求したアクションだったので、重苦しくて、痛くって、自分が戦っているかのようなリアリズムすら何だか感じてしまったのでした。
あとやっぱり良かったのは、ヴァンサン・カッセル。
自分は、この人を見ると、いっつも苦手だなあーと思ってしまうんだけれど、今回もやっぱり苦手なタイプ。ワガママ・マフィアのボンボン役。
こういうタイプの、屈折した愛情を抱えている人って、本当手がかかるよね・・・。そんな心理的な怖さを表現していて、さすがでした。
ヴァンサン・カッセルだからこそ、この手の屈折感が出てるんだな、やっぱすごいなと。
2008/07/09 | 映画, :サスペンス・ミステリ
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