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96●清作の妻

清作の妻【日露戦争の時代、夫を出征させないために、その妻のしたこととは。国家権力に勝利した女の情念を描いた傑作で、若尾は二度目のキネ旬女優賞各賞に輝いた。】(説明より〜)


ストーリー・・・
お兼(若尾文子)は病身の父を抱えた一家の生計を支えるため、六十を越えた老人(殿山泰司)に囲われた。今その老人も千円の財産をお兼に残すと他界した。そしてお兼の父も時を同じくして死んだ。大金を手にした母お牧は、かつて逃げるようにして離れた村に喜々として帰った。そこへほどなく、村一番の模範青年、清作(田村高廣)が除隊して戻って来た。・・・


’65年、増村保造監督。元々は村田実監督によって作られたオリジナル映画の、リメイク作品、とのこと(未見ですが)。


これまでのところ、自分にとって全然ハズレのない増村保造作品だけど、
これは中でも一番の傑作だった。
上映中はいつも夢中になって見入っていて、ラストでは急に、目が覚めたように言いたいことが伝わる。
そして、深い感慨のうちに涙が溢れてくる・・・。
ああ、全部全部、このパターンだったじゃないですか。なんて理知的な印象の監督なんだろう。このラストの見事さはどうだ!
もう、ボロ泣きしてしまって、涙が止まらなくなりそうだった・・・。
それなのにエンドロールも流れずに、急に明るくなるなんて困ってしまったよ。
誰もエンドロールで立とうとしない合間に、コッソリ抜け出してトイレで化粧直し、ってのが私のパターンなのに。


妾をしていて金持ちになり、田舎に帰って来たはいいが、皆に嫌われ村八分のお兼。一方、村一番の模範青年、村の鑑である清作。
正反対の二人が出会い、いつしか心を寄せ合い、村の反対を一蹴して一緒になる。


以降、ネタバレしています::::::::::::::::::::::::::::


 


 


 


 


夫を出征させないために、お兼は清作の目を五寸釘で突いてしまう。
その代償に、村人たちのリンチを受けるお兼はまるで、一個の人間が国家権力に歯向かったかのよう。一人の人間として愛し、伸び伸びと生きようとすることを、集団倫理で押し潰されそうになっている、一個人の姿だ。


だがもっと美しいのは、自分の目を突き、人生を台無しにした妻を、もっと広い心で迎える清作だった。
思いも寄らなかったお兼をいたわる一言、そしてその演技も素晴らしくて、
言葉も出ないほど感動してしまった。

目が見えなくなって真実が見えた、と語る姿はまるで、ソフォクレスの『オイディプス王』のよう。
さらに言うと、フロイトは“エディプスコンプレックス”を唱えたけれど、献身によって癒していくという、日本人の心により訴えかけるものに変わっているところが、古澤平作のいう“亜闍世コンプレックス”に近くなっている。
そういう意味でも、日本人の感性にピタリと合うような“悲劇のカタストロフィー”になっている大傑作なのだ。
・・・ちょっと強引かな?

清作の妻@映画生活

 

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コメント(4件)

  1. >一個の人間が国家権力に歯向かった
    >もっと広い心で迎える清作
    どこもちょっと違う人間がいると排除したがる傾向がありますよね。
    彼女の考えることにかなり驚いた覚えがあります。目を潰させてでも、戦争で死んでくるよりよほどよかった、盲目でも傍に居てくれるほうがいいって。そりゃそうだけど…なかなか実行できないです。
    時代は命を捧げることが英雄とされ尊敬されたけど、時代とか場所とか環境には関係なく、ヒトの純粋な気持ちですね。
    その気持ちが一心に向けられた清作も、それに気づいてよかった〜、と。

  2. アンバーさんへ
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました。
    アンバーさんも、これ以前にご覧になってましたか!
    >その気持ちが一心に向けられた清作も、それに気づいてよかった〜、と。
    いや、私はまさか、あれだけの大罪を犯したお兼が、最後、清作に許してもらえるとは思わなかったのです。
    国家が一丸となって戦争に向かっていた帝国主義の日本において、お兼のような考え方って、排除されるべき考え方でしたよね。
    国家より個人を先にしてしまうなんて、その時代の人には到底許されも理解もされないだろうと思ったんです。
    さらに、それが正しい行動ではなくて、間違った行動を引き起こしてしまったわけですよね。愛するためが故であっても。
    清作はまさに人生を台無しにされてしまった張本人で。
    私は、そこで話は終わるだろうな、と思ったんですよ。
    ところが、最後に、清作が許した・・
    帰って来たお兼に、かけた一声が、お兼の身を案じる一言だったんですよね。
    涙が止まらなくなりました。
    愛って、大きいものだなあと思いました・・・。

  3. 男の子だから清作のことを考え見ていたんですけど、これはカフカの『変身』のような話だなぁって。村一番の模範青年が、一夜にして
    虫けら同然の存在にまで落ちぶれる。視力を失い、石まで投げられ、毒虫のように忌み嫌われる。
    カフカは目覚めると毒虫でしたって話を始めるけど、そこでの不条理が、お兼の『五寸釘』という形で具象化され、視覚化され、映像化されているのが見事じゃないですか。目を突くシーンはないんですけど(それがあったらアルジェント)。
    もちろんお兼を五寸釘へと追い詰めたのは、戦争という不条理なわけで。五寸釘前夜のバカ騒ぎでの会話を、あそこまで下卑たトーンで描いた、ここまでは反戦映画。
    戦争という不条理がさったあと、刑期を終えたお兼が帰ってくる、それを清作が許したのは、これは愛の不条理なんじゃないですか。不条理を介在して反戦からLOVEへと繋げる、そんな傑作なんじゃないですか。

  4. 裏山&さんへ&
    こんばんは〜♪コメントありがとうございました!
    ウラヤマの兄キもご覧になったのですね♪
    >お兼を五寸釘へと追い詰めたのは、戦争という不条理
    >五寸釘前夜のバカ騒ぎでの会話を、あそこまで下卑たトーンで描いた、ここまでは反戦映画
    そうですね。酒盛りのバカ騒ぎで「死んでお国のためになって来い」という下卑た愛国精神、ムカムカしました。
    お兼は確かに追い詰められたのかもしれませんね。
    当時の価値観からすれば売国奴、狂人でしかないかもしれませんが。
    >カフカ『変身』
    カフカ『変身』には、ドラマティックに目で見て分かる“メタモルフォーゼ”があって、自分はここを象徴に置き換えることは表現の般性化だと思うんですよね。
    閉じ込められた部屋という限定した空間があって、昨日までそこに“グレゴール・ザムザが居た”。ザムザでしかありえないところに蛾が現れるという、純粋なまでのメタモルフォーゼが判然としてるのです。
    目が見えなくなったそれのみでメタモルフォシスにまで発展させるのは、少々軽率かな、と思うのです。よく何かと引っ張り出される『変身』ではありますけどね。
    自説で申し訳ないのですが、「目が見えなくなったことにより、返って真実を発見する」、「そしてその彼はそれまでの価値観が転倒する」、これはまさにソフォクレスだと自分は思うのですよ。




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